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「僕はタグがつかないマイノリティ」 dodo がおくる新しい 『ノーマル』

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Photography: Chikashi Suzuki
Text: Miwa Goroku

Portraits/

dodo (ドド) が、ファッション界隈に姿を現し始めたのは昨年あたり。記憶に新しいのは今年2月、TOGA (トーガ) が、ラッパーの KOHH (コー) 率いる Dogs (ドッグス) とコラボした際、そのTシャツにのせられたプリントが、dodo による描き下ろしイラストだった。

2019年11月、JORDAN BRAND (ジョーダン ブランド) と FACETASM (ファセッタズム) がコラボレーションモデルを発売した時、Dogs によるオーガナイズで開催されたイベントにも dodo は招請されていた。KOHH と dodo、知名度には差がありながらも、それぞれ孤高/孤独を貫く存在として一目置かれる2人がイベントで揃うのは初めてということで、一部関係者のザワつきをキャッチしたTFP編集部も当夜、渋谷の会場へと足を運んだのだった。

あるいはその1ヵ月前、ファッション誌 『Ollie (オーリー)』(Vol.247) の表紙で、イングリッシュコッカースパニエルを抱いて写っていた上半身裸の男の子、と聞いたらピンとくる人もいるだろうか。

「僕はタグがつかないマイノリティ」 dodo がおくる新しい 『ノーマル』

川崎にある実家1階の自室をスタジオ化し、dodo は作曲のすべてを自ら手がける。いわゆるラップと聞いて思い浮かぶイメージとは一線を画す等身大のリリック、心地よく中毒性の高いトラック、そのレコーディングからミックスまでのすべてを dodo はひとりでつくりあげ、クリックひとつで YouTube の海に放ち続ける。うち、昨年9月にリリースした 「im」 はまもなく400万回再生を突破しそうだ。こうして振り返ると、dodo が勢いづいているのは、やはりこの1年のことなのだろうか。セカンドアルバム『normal (ノーマル)』 のリリースを目前に、そのクリエイションの舞台裏、というか現場そのものを目撃すべく、これまでもたびたび dodo の写真を撮り下ろしてきた鈴木親氏と、彼の自宅を訪ねた。

実家の自室をスタジオ化。dodoはこのスペースを「10GOQSTUDIO (天国スタジオ) と呼んでいる

― 1年前の「FUJI ROCK FESTIVAL’19」出演時のプロフィールに「職業訓練校に通いながら音楽活動を行う求職者アーティスト(内定ゲトリ済み)」とありましたが。就職はやめたのですか?

dodo: そうなんです、2020年4月から自営業になりました。最初に勤めた飲食企業がブラックで。そこを辞めた後に職業訓練校に2年間通って、去年10月には内定式まで行ったんですが、誓約書を書く段になって、いろいろ条件が見えてきて、やっぱり僕は音楽だけで食べていきたいと思った。音楽である程度収入が入るようになってきていたから。

鈴木親 (以下、親): ミュージシャンは働きながら音楽を続ける人も多いよね。

dodo: どうなんですかね、僕は逆に、音楽だけで食べている人も少なくないんだなと思ってて。インターネットのおかげで、昔と比べて収入を得やすくなっているから。

: 今はそうか。ライブで手売りしてたような 90年代のインディは、流通させるためには大きいレーベルに所屬するしか手段がなかった。でも今はパソコンのワンクリックで、全部自分ひとりで完結できる。

 

― FNT (*Fainting=ポケモンの “ひんし” に由来する略語) は、dodo 個人のプライベートレーベルですよね。

dodo: はい。僕は TuneCore (チューンコア) っていうサービスを使っていて、これに出会えたことがめちゃくちゃ大きいです。オーディオデータとジャケットの画像さえあれば、翌日には配信できます。使用料も安くてシングルだったら年に1,800円くらい。原盤権を持ったまま、収益は100%入ってくる。本当にありがたいです。

: 売れたら全部、売れなければゼロ。そういうフレキシブルなところと、ラップのカルチャーは相性がいいよね。これがロックだとメンバーが集まる必要があって、もっと民主主義っぽくなるから。

dodo: 僕はでも、日本のヒップホップ・バブルは先が見えてきているとも思ってて。「フリースタイルダンジョン」 (*即興のラップバトルで賞金獲得を目指す深夜番組。2015年9月〜2020年7月まで続いた) も終わったし、ラップ・ブームは今頂点か、もう下がり始めているかもしれない。コロナをきっかけに YouTube でもラッパーが増えて、共食いが起こってる。今の山から次の山へ、どう橋渡しして生き残っていくかが課題。

: Kendrick Lamar (ケンドリック・ラマー) はヒップホップを超えて、映画音楽のプロデュースとかも手がけているよね。あとジャンルが違うけど Björk (ビョーク) みたいなアートフォームを目指すとか? 違うこと考えてたりする?

dodo: 個人配信だと、Vlog みたいなのが最終形だと思うけど、もうじき飽きもくると思うんですよね。

: テレビに興味あるのは、逆にアリかもね。

dodo: 日本のテレビの力は強いですよね。もし音楽番組に出れたら、周りの近所の人に気づかれるとか、そういう影響力。これだけヒップホップが浸透したのは、「フリースタイルダンジョン」 とか 「高校生ラップ選手権」とかの存在が大きい。そんな市場の中で、自分は何を死守すべきか。ひとつ言えるのは、リアルであることかなと思ってます。

 

― 今回のセカンドアルバムリリースは、どんな位置づけになるのでしょう?

dodo: まず、ファーストアルバムの 『importance』(2019年2月) は、ヒップホップ作品としてがんばったアルバムでした。効果はあったと自負しています。KOHH さんをはじめ、僕が憧れていたラッパーの先輩たちに、この作品を通して会えることができたから。ヒップホップの作品としては、この『importance』 が僕の中での完成形。一方で、一番バズっているのはシングルリリースした 「im」 っていう曲なんです。これから音楽で食べていくために、この「im」のヒットをどうしても生かさなければいけないと思った。それでつくったのが今回の 『normal』。意図しないで得た成功を、いかに活かしていくかということ。

: 写真と同じだね。偶然は、いっぱいいいのが撮れる。それと同じことを意図して再現できるのがプロフェッショナル。ただ気をつけたいのは、そこだけやっていくと今度は自分のコピーになっていっちゃうから、もうひとつ広げないといけない。

dodo: それはまた次の作品で成し遂げたいですね。『normal』 のはねかたを参考にしながら。このセカンドではねることができたら、またちょっと表現の自由度も広がる。

: そんなにはねないと思う。

dodo: えーーー

: 「im」 みたいな成功の果実はないと思う。

dodo: でも、そこはちょっと意識してるかな。そもそもアルバムに対する考え方として、1年に1回出して、そのアルバムに対して1回ワンマンをやるっていうのがあります。今年はコロナがあるからワンマンはできないけど、そのかわり Instagramのライブリクエスト機能を使って、リクエストが終わるまで全員と1対1のミーティングをやります (*7/11に実施済)。僕の音楽は、僕のファンに聴いてもらいたい。

: dodoくんの YouTube への書き込みは、最近いいコメントばっかりだよね。

dodo: ありがとうございます、嬉しいです。ファーストアルバムを評価してくれたリスナーさんたちは、僕の音楽も聞くけど他のヒップホップも聞いていて、その中でもいいよね、といってくれていて。今回のセカンドは、もっと自分のファンに向けてつくっています。これは僕の愛読書の 『ファンベース』で学んだこと。

dodo - im

― ミュージックビデオが意表を突くクオリティですが、そこの意図は?

: 逆に新しいよね、ド素人でもやらないレベル (笑)。躊躇がないのがすごい。今は映像機材も安くなったし、みんなが SONY の α (アルファ) を使って映画っぽい動画をつくっている時に、dodoくんはすごくチープに見えるGoPro (ゴープロ) で追っかけるだけ。同級生の友達が撮ってるんだっけ。「friend」のMVの最後の方にチラッと映ってた子?

dodo: あ、そうです。ボーイスカウト時代からの友達です。彼は普段Jポップしか聴かない子で、だから僕の曲にはあんまり興味ないんですが、「im」 だけ反応が抜群に良かった。Jポップシーンの耳にはうまく聞こえる曲なんだなとわかった。『normal』 は、そんな彼を意識してつくったアルバムともいえます。

 

― ラップよりもトラック制作に興味があると、どこかの記事で読んだことがあります。

dodo: そうなんです。特にアメリカではトラックメイキングが盛んなシーンがありまして。みんなFL studio (エフエルスタジオ) っていう音楽制作ソフトを買って。ループ素材とかライセンスフリーのものだったり、クラウド状態で何百個も落とせるから、それを使って。

: その中で、自分のアイデンティティをどう残すのか。

dodo: そんなシーンの中で、僕は自分のスタイルを提示している、というと言葉がちょっと強いかもだけど、そこは自慢です。たとえば絵だったら、鉛筆でなぞって絵具つける最後のところまで、ビートメイキングからラップまで一貫して僕は落とし込めているという自負があります。

 

武蔵小杉のショッピングモールで出会い、池袋まで迎えに行ったという愛犬バート。今年5月1日に他界した

― リリックとライムのセンスも抜群です。いわゆる王道のラップでは言わないような、言葉選びも新鮮。とっつきやすさ。

dodo: 汚い言葉を出すと自分に返ってくるから。これは僕がアーティストとして一番いいたいことでもあります。今年の 2月に Pop Smoke (ポップ・スモーク) っていう、NY出身の 20歳のラッパーが、泊まっていたエアビー (Airbnb) の住所を Instagram の投稿に写しちゃったら、銃を持った奴が来て撃たれて殺されちゃったんですよ。彼はあえて強力な表現をしていて、それがラップの王道だし、リスナーにとってもいちばんのご馳走だから。それをつくるってことは、命を賭けてもやらなければいけないことかもしれないけど、それで死んじゃうって…… 言葉は怖いです。

: dodoくんは言いたいことを言いたいわけではないの?

dodo: 正直、ないと言ったらないかもしれない。それよりも、楽曲メロディーをどうするかに重点を置いています、言葉はどちらかというとおかず。

親: ブルーハーツもKOHHくんも言葉に嘘がないからずっといろんな人に響くと思うんだけど、dodoくんの良いところもそこだよね、生活の中の言葉を使っているから。

dodo: そこは客観視してます。僕も本当はやりたいんですよ、いわゆるサグな、もっとパワフルな。タトゥーでも似合えば。とにかくヒップホップが好きで、ずっとラッパーの一番になりたい野望が強かった。最近はもっと、どうお金を稼ぐかの関心が強くなってます。

: そこは元に戻したほうがいいよ。1番になると思ってたらお金は後からついてくる。お金を稼ごうと思ったら1番にはならない。

dodo: けっこう痛い目にあったんですよ。だいぶいろいろ洗礼を受けて。適応。

― 日本のラップミュージックの聖地ともいわれている川崎の育ちで。不良仲間とつるんだり喧嘩したりとか、ヒップホップにはそういう先入観をつい抱きがちです。

dodo: 僕も内面的には「このヤロー」みたいな、オラオラしてるところがあるんです。でもそれは気分だけで、悪い友達は少ないし、地元のつながりもない。僕は社交的じゃないので、孤独は自分が求めちゃってます。

親: 初めて会ったときに思ったのは、dodoくんはヒップホップ界のBECK (ベック) だなと。グランジで一世を風靡したNirvana (ニルヴァーナ) のあとに、オルタナティブなロックを生み出したBECK。音楽って、ルーツはレベル (反体制) じゃないですか。若い子がハマるのはそこで、やがて広がるほど形式化していく。そうすると、今後はオタクっぽい子が出てきてターニングポイントをつくるというパターン。洗練されたシーンの最後に出てくる才能、そしてそういう人は孤独を選びがち。

 

― 改めてdodoくんのルーツを知りたいです。職業訓練校に通う前に、音楽大学卒ですよね。音楽はいつから興味を?

dodo: 中学の時かな。当時MTVで知った Flo Rida (フロー・ライダー) の存在が大きいです。当時引っ越した家のケーブルテレビにMTVが入ってて、アメリカのトップチャートを見るようになって刺激を受けました。

: リスペクトしている人は?

dodo: London On Da Track (ロンドン・オン・ダ・トラック)。Young Thug (ヤング・サグ) のトラックをずっと作ってて売れた人で、僕と同じ環境で作ってて、ずっと憧れてます。

: 学生の頃の夢は何だったの?

dodo: Cash Money Records (キャッシュ・マネー・レコード) っていう大手レーベルの代表を務める Birdman (バードマン) って人がいて。ヒップホップのビジネスで成功した象徴みたいな存在で、彼みたいにロールスロイスに乗って豪邸でミュージックビデオを撮る、っていう。そこは今でも目指してます。僕は日本のバードマンになりたい。

 

― この自室スタジオに足を踏み入れた瞬間、気になったのは CDとかレコードとか一切ないんだなと。

dodo: 高校生の頃は、時々買ってましたけど。武蔵小杉駅の、南武線側の方に LocoSoul っていうレコード屋があって。今はもうないんですが、学校の帰りによく立ち寄ってました。

: 何を買ってたの?

dodo: 無名の日本人ラッパーのミックスCDとか、ミックスがひどいなーとか思いながら。サンプリング用にレコードを買ったり。あとはもっぱら YouTube です。YouTubeが僕の教科書。

: MTVとYouTube 育ちか。思うんだけど、ティーンの子って、好きなミュージシャンができたら、まず服装から真似したりする。外見が一番コピーしやすいから。でもdodoくんは、服もないよね。

dodo: 小さい頃から服に興味がなくて。ようやく最近、親さんにいろいろ連れて行ってもらって。ああ、こういう世界があるんだ、あーーってなって (笑)

dodo - friend

― 「friend」 のMVで着てるMA-1とスニーカー、BALENCIAGA (バレンシアガ) なんですね。最初見たとき気づかなかったんですが、それくらいさらりと着てて。実は服が似合う人だなと。

dodo: 実際気に入ってます! やっぱりいいものに袖を通すとテンション上がります!

: BALENCIAGA の靴買えるようになって良かったね! みたいなコメントが多いよね。dodoくんのファンは、dodoくんと一緒に成長していく。

 

― 今どこに向かっていますか。

dodo: 僕は、自分のことをマイノリティだと思ってて。どのタグもつかないマイノリティ。自分のアイデンティティを探していくと、僕みたいな日本人に対する表記が一番ないことに気づくから。どこのメディアにものっていないような日本を、曲と活動を通して出せればいいなと思ってます。日本人とは何かを突き詰めると、日本語かなというのはひとつあって。だから歌詞に、極力英語は入れないようにしています。アメリカのヒップホップシーンの真似じゃなくて、それをどう日本に移植するのか。歴史的記憶に残るものにしたい、根付かせたいと思って活動してる。

: ロケーションのこだわりもそこなの?

dodo: そうなんです。たとえばキモイ (「kill more it」) の撮影は、前職の浜松出張中だったんですけど。あそこで撮ったの僕しかいないと思う。

: 徳川家康ってこと?

dodo: そうです、僕、歴史が好きなんで。Amazonプライムの 『まんが日本史』 を観て勉強中です。

: もうすぐ実家を出るんだよね、伊勢に行くって言ってたのは、そういうことか。

dodo: まだ場所は迷ってますが。伊勢はいいなと思ってます。

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