「恋する人は変わっても、恋心はずっと変わらない」 あいみょんから生まれる無数のラブストーリー
aimyon
photography: shunya arai
styling: masataka hattori
hair & make up: rumi hirose
text: mayu sakazaki
edit: miwa goroku & manaha hosoda
あいみょんの書くラブソングは、これまで聴いてきた恋の歌とどこか違う。彼女が物語るのは恋そのものというよりも、“恋心”なのだ。誰かを恋しいと思う、そのパーソナルで捉えどころのない確かな感情を、あいみょんは巧みに表現する。恋愛のかたちがどれほど多様になったとしても、人が持つ恋心は変わらない。だからこそ、彼女の歌は多くの人に届くのだろう。
3月に26歳の誕生日を迎えたあいみょんがシャネルのジャケットに合わせたのは、普段着のシャツにジーンズ。女の子で男の子、子供で大人……絶妙にゆらぐバランスがあいみょんの魅力であり、今の時代のムードでもある。「変化を恐れることはない。当たり前のことだから」と話す彼女に、創作のこと、生活のことを訊いた。
「恋する人は変わっても、恋心はずっと変わらない」 あいみょんから生まれる無数のラブストーリー
Portraits
─ シャネルを着用したのは今回が初めてとのことですが、撮影を終えた感想は?
ありがたいですし、うれしいですし、ずっとワクワクしてました。撮影が決まったとき、それこそスタイリストさんに「シャネル、やばい!」ってすぐメールしたんですよ(笑)。自分にとっては簡単に手に入るものじゃなかったので、実際に着させてもらうとやっぱり欲しくなりますし、お店に行ってみたくなりますね。数年前だったら着れへんかったかな。26歳になったことで、大人の階段をのぼる感じがあってドキドキしました。
─ あいみょんさんにとっての「シャネル」はどういうものでしたか?
アクセサリーやコスメは身近なものとして使わせてもらっていたので、そういうイメージが強かったと思います。今回は洋服はもちろん、メイクやネイルもすべてシャネルだったので、テーブルにずらっと並んでいるところを見るとやっぱりキャピキャピしちゃいますね。普段あんまりそういうところを見せることがないんですけど、女の気持ちが芽生えるというか(笑)。リングは2つ持ってるんですが、ヴィンテージのような存在感があって渋いところ大好き。誕生日に「チャンス」の香水をいただいたことがあって、それも気に入って使い切りました。
─ シャネルにとってクリエイティビティを触発する「ミューズ」たちの存在は欠かせない要素です。あいみょんさんがいままでにインスパイアされたミューズとなる存在は?
音楽的なことでいうと、やっぱりスピッツっていう存在が自分にとっての神様でした。ファッションだと、年代ごとに憧れの人っていうのはいたと思います。私自身、男性への憧れが強かったので、メンズ雑誌を読んだりしてましたね。
─ それはどうしてだと思いますか?
自分に女性らしさみたいなものが全くなかったというか……スポーツもしてたし、声も低いし、メンズライクなものの方が似合うなって思ってました。でも、今回のシャネルだったり、色々と素敵なものを着せてもらったりすると、「こういうのもいいな」って気づけますよね。自分でもこれなら着れるかもって選択肢が広がっていく。自分のなかでは、おへそを出すってことがずっとポイントなんですよ。衣装を合わせていてなんか違うなって思っても、おへそを出すとしっくりきたりする。そういう自分のバランスとかスタイルを見つけられたのは良かったなって思います。これをいつまで続けられるかっていうのはめっちゃ怖いんですけど(笑)。
─ あいみょんさん自身もそうですが、作品のなかでも男性性と女性性みたいなものが絶妙に混ざり合っていて、どちらでも違和感がないですよね。
スカートは履きたくないけどおへそは出したい、みたいな。曲も男女どっちのつもりで書こうみたいなことはなくて、本当にナチュラルだから、それが出ているのであればうれしいですね。
─ 26歳になって、何か感じることはありますか。
「体調整えよう、腸活、腸活!」みたいな感じです(笑)。今までは本当に不規則な、健康を意識しない生活だったんですけど、最近は自分だけの身体じゃないぞっていう自覚が出てきて、栄養を取らなきゃと思ってます。でも気持ち的にはあんまり変わってないですね。26歳になっても、まだ20歳くらいの感覚なんですよ。
─ 2020年を振り返ってみて、印象に残っていることは?
曲作りには困らなかったし、悩むことはなかったですね。めちゃくちゃ作ってました。でも、やっぱりライブが無観客やったのが大きかったですね。もちろんスタッフさんも私も一生懸命やりきる気持ちではあったんですけど、いざステージに立つと何か違って、「これは二度とやりたくない」って思ってしまった。それは良い経験になりました。やっぱり私はライブのステージに立つ上で、だいぶファンのみんなにメンタルを支えられてたなってすごく感じられたから。こんなことで気づかされるなんて本当はだめなんですけど、これからもっとそういう場を大切にしなきゃいけないなって思いましたね。去年はそういう気づきが多い一年でした。
─ 色々なことを見つめ直す機会ではありましたよね。
いちばんは人間関係じゃないですか、みんな。本当に必要な人とそうじゃない人を、知らない間に選別してしまっていたというか……それはすごくあったような気がします。
─ そういう関係性から曲を書くこともある?
それはあんまりないですね。自分の人間関係どうこうとかより、想像でできあがっていくことも多いです。つらいときに曲を書かないタイプなので、そういうときはお酒を飲んで寝る(笑)。でもそのつらかったなっていう気持ちをあとで思い出すことはあります。
─ 新曲「桜が降る夜は」は、どんなことを考えて作った曲ですか?
この曲は3年くらい前に作ったもので、今の自分よりも少し若い感性というか、20代前半ならではの感情で書いたものだと思います。レコーディング中は、今だったらこう思わないなとか、逆に今の気持ちに比例しているなとか、過去の自分の分析になってくるんですよね。当時にしか書けなかった歌詞だけど、こういう気持ちだけは今も残ってるんやなとか。そういう意味では、新曲を出すときは毎回すごく新鮮な感覚ですね。
─ 今できたものを今すぐ出したいという気持ちにはならないですか。
私、本当に毎日っていうくらい曲を作るんですよ。だから私のなかではここ2、3年のものはまだ全然新しいんです。これだけ曲が増えてしまうと、新しいから出すというよりは、昔作ったものでも自分が新しいと思えるものを出したい。どれも自分が作ったものに変わりはないから、今いちばん良いって思えるものをまず探していく感じなんです。
─ 「恋心はゆっくり歳を取るのかもしれない」という言葉がリリース時のコメントにありました。それはやっぱり、時間の経過があるということですよね。
そうですね。3年前に書いた恋の歌が、今の自分に届く部分も全然ありますし……ほとんど忘れられないような恋ばっかりだと思うんですよ、みんなにとっても。あのときのあいつはすごかったなとか、でもやっぱりあの人が良かったなとか(笑)。だんだん理想は変わっていくかもしれないけど、恋心みたいなものはずっと変わらないんじゃないかなって思います。
─ 日本には桜をモチーフにした春の曲ってすごく多いですよね。そういうものを新しく自分が作るとき、プレッシャーを感じることはないですか?
それはとくになかったです。春の曲を作ろうっていうことでもなく、自然と桜って出てきたから。多分、東京に来て目黒川沿いの桜を見たときに思ったのかなと思います。そのときは「桜が散ってる」じゃなくて「桜が降ってる」っていうイメージだったんですよね。雨とか雪みたいに、どこから落ちてきているのかわからないものって「降ってる」って感じるけど、桜の木を見ながら歩いてるとき、そういう感覚になったのを覚えてます。
─ 春って新しいことが始まる季節だからこそ、傷つくことも多かった気がします。あいみょんさんの春の思い出は?
春生まれだから、必然的にこの季節は好きなんです(笑)。でも、新しいことが始まったり終わったりする季節だから、人の情緒が不安定になる時期なのかなっていうのは思いますね。ピンクでふわふわで暖かいみたいなイメージですけど、心がアンバランスになることもある。メジャーデビューの「生きていたんだよな」っていう曲で、「新しい何かが始まる時 消えたくなっちゃうのかな」って書いてるんですけど、それをいちばん感じるのがやっぱり春なので。自分のことも誰かのことも、「大丈夫かな?」って気をつけたい季節ではありますね。「桜が降る夜は」は恋愛の曲ですけど、それが必要な人のもとに届けばいいなと思ってます。
─ 過去のインタビューでも歌詞へのこだわりをよく語られていますが、言葉や文章を書くことはもともと好きだったんですか?
小・中学校くらいのときは、ほかは全然だめだったけど作文だけは得意だったんですよ。でも「言葉を大切にしよう」とかそういう意識は当時全くなく、ただ好きだから書いてました。勉強が本当にできなくて、学校を辞めたりもしてるので、教科書も邪魔で全部捨てたんですよ。でもなぜか、辞書や英単語とか、そういうものだけは残してた。いつか歌詞に使えるかもしれない、言葉だけは残しておこうって思ったんだと思います。
─ 自分にとって特別なものだという感覚はあったんですね。
勉強ができないぶん、人より言葉を知らないっていうことが少しコンプレックスではあったんですよね。だからいっぱい本を読むようにしたけど、知らない言葉が多いと結局読めへんってなってしまう。まずは言葉を知ろうと思って、辞書や小説をすごく読むようになりました。
─ 小説はどういう感じのものが好きですか?
昔はサスペンスやミステリーが大好きだったんですけど、最近は何でも読みます。今年は50冊読むって決めてるのにまだ2冊しか読んでなくて、この計算でいくともう無理ですね(笑)。何度も読み返しているのは岡本太郎と岡本敏子の『愛する言葉』という本。男女の恋愛や愛の違いとかそういうものを書いているんですけど、「岡本太郎もこうやったんか」ってすごく安心するんですよ。自分の生活で悩んだときって、誰かの生活を知った方がいいなってコロナ禍ですごく感じました。エッセイとか、4コマ漫画とか、安達祐実さんの写真集『我我』とか。そうやって誰かの生活を自分の生活に入れると、「みんなも一緒やな」ってちょっと安心するんです。
─ 世の中や社会や自分自身が変わっていくことで、選ぶ言葉も変化しますか?
やっぱり10代の頃の歌詞を読むと幼稚やなって思う部分もありますし、年齢を重ねていくことで言葉や表現は変わりますよね。今だったら「死ね」って直接的な言葉じゃなくて別の表現にするかなとか、そういうバランスの変化はある。でも私、むしろ変化しなかったらやばいなって思います。10代の頃の歌詞は変に大人びてたりとか、タバコを吸ってとか、ダサいんですよ、ただただ(笑)。同じ気持ちだとしても表現の仕方は変わるし、そういう変化を恐れることもない。当たり前のことかなって思うんです。
─ デビューしたときと今とでは、自分が求めることも変わってきますよね。
変わりますね。デビューしても全然日の目を見ず、みたいなときは絶対有名になってやるっていう気持ちがあったけど、今この場所に立たせてもらうと、引き算していきたくなってしまう。良い意味でも悪い意味でも目立ちたくないって思ってしまったり、そういう複雑な感情やギャップみたいなものはやっぱりあります。でも、曲を作るスタンスは変わってないのかな。
─ 「今歌いたいこと」「言いたいこと」みたいなものは頭の中にぼんやりあるんですか?
それは全くなくて、ほんまに思いつくままなんですよ。誰かの背中を押したいとかで曲を作ることはなくて、私はただただジャラーンってギターを弾いたときに出た言葉から始めるから、運任せな部分が多いんです。すっごくいい歌詞や台詞が出てきたら「来た!」ってなりますし、それが結果的に誰かにとって救いになったとしたら、それがいちばんいいなって。
─ 歌詞以外で文章を書いたりすることもありますか?
今それにチャレンジしていて、小説とかではないんですけど、映画の感想を3000文字くらいで書いてるんです。長い文章を書いた経験がないから、楽しいけどすごく難しくて。歌詞は聞く人の想像力を働かせる感じだから、細かく描写していくのとは違うんですよね。あまりにも私の思い出や気持ちを歌詞に詰め込みすぎると、みんなの思い出の入る隙間がなくなってしまうから。長い文章だとそれだけでは通じないので、大変だけど頑張ってます。私はやっぱり作ることが好きだから、最近は水墨画を描いていたり、音楽以外にも色々な物作りをしています。あいみょんってこんなこともできるんやって、意外性を小出しにしていきたい(笑)。
─ あいみょんさんの2021年は、どんな年になりそうですか。
今年はあんまりこう、ガーンっていう大きなことはなく、スーンといきそうな気はしてます。でもやっぱり良い音楽を、自信のある曲をどんどん出して、それをたくさん聴いてもらって、歌ってもらって。それが数十年後にもまた聴かれたりする、そういうループを作っていけたらいいなと思ってます。いつか「懐かしいな」って思ってもらえる曲が作れたら、それだけでいいです。