Takayuki Yamada
Takayuki Yamada

「きっかけの場がないと動機も生まれない」表現者・山田孝之がいま一番伝えたいこと

Takayuki Yamada

photography: utsumi
interview & text: sota nagashima

Portraits/

山田孝之、38歳。役者のみならずプロデューサーや映画監督、音楽活動、本の執筆とフィールドを横断し、羨ましくなるほど眩しいそのエネルギーは、時に私たちの背中までも押してくれる。伊藤主税や阿部進之介らと共に立ち上げた『MIRRORLIAR FILMS (ミラーライアーフィルムズ)』もその一つ。

「きっかけの場がないと動機も生まれない」表現者・山田孝之がいま一番伝えたいこと

「だれでも映画を撮れる時代」に自由で新しい映画制作の実現を目指すプロジェクトとして、総勢36名が監督した短編映画をオムニバス形式で4シーズンに分けて上映。その Season2 がこの度公開となった。日本映画界きってのカメレオン俳優として最前線を走りながら、山田孝之は首謀者としてプロジェクトに尽力する。その力強い眼差しは今何を見据えているのか、話を聞いた。

©2021 MIRRORLIAR FILMS PROJECT

── まずはこの『MIRRORLIAR FILMS』というプロジェクトを始められたきっかけから教えていただけますか?
クリエイターの発掘・育成です。映画を撮りたい監督や脚本家などが出ていく場所がかなり限られているなと思っていて。今国内の映画は、基本的には大手の映画会社だったり、TV局から作られる予算も大きくて所謂エンターテイメントビジネスの作品が多い。それ以外の小さい単館系の作品もいっぱいありますけど、もっと一般的というか誰でも挑戦してみるべきじゃないかと思うんです。どこにどんな才能が眠っているかも分からないので。

── 今作も一般応募から選ばれた作品たちがラインナップしていますね。

そうです。今作の Season2 の中で言えば「選定クリエイター枠」と呼んでいる『King & Queen』と『適度なふたり』、『Denture Adventure』のような人たちをどんどん見付けることがメインの目的です。その上で集客の問題やもっと多くの人に注目してもらうことも考えて、既に活躍されている著名な監督であったり、これから活躍が期待される方々、後は僕らみたいな普段はカメラの前にいる人たちが初挑戦するということもすごく大事だと思っていて、そういうものをミックスしています。例えば売れている原作の映像化を狙って観に行くということも一つの映画鑑賞の仕方だとは思いますが、何があるか分からないものを観に行って、自分なりに映画を観ることの楽しさを見付けたり、自分の好みを見つける。そういう見方があってもいいんじゃないかと思います。日本ではオムニバス映画ってまだあまり無いので、こういう映画の形もあるんだと知ってもらいたいですね。

── クリエイターの発掘だけでなく、映画鑑賞の楽しみ方をもっと世間に広げていきたいと。

選定クリエイター枠で「発掘」をしていますけど、クリエイターを育てる「育成」というのは、僕たちではなくてお客さんなんですよね。その監督や俳優の過去の作品を観たり、これからの活動を応援することなどが育成に繋がる。今回では、普段俳優をやっている柴咲コウさんや志尊淳くん、阿部進之介の3人は今回初監督をしました。この人たちは今までどういった作品に向き合ってきたから、こういう世界観が生まれるのかとか。じゃあ第2作目、いつか長編もやるのかなということにも注目してあげることによってクリエイターが育っていく。ものを発信する場ができていく。そうやって映画の在り方も見方も、もうちょっと広がったら良いなと思ってこういうことを始めました。

── 阿部進之介さんなどプロジェクトのメンバーと普段からこういった会話をしている中で生まれたアイディアなのでしょうか?

元々は「MIRRORLIAR」という俳優の発掘・育成を目的として立ち上げたプロジェクトがあって。オーディションの情報を出したり、ワークショップをやったり、全体的な底上げができたらと思い始めました。例えば俳優や監督、脚本家など色々な人が集まるシェアハウスを作れないか。全国に空き家物件がめちゃくちゃあるっていう問題もあったりして、そういうところを有効活用できないかということで。ただ、こっちが箱をどんどん用意するとなると、手間も時間もお金もすごくかかる。だったら、みんなが自主的に作ってもらってそれをこっちで集める方が効率も良いんじゃないかと。そうなった時には多少なりの夢も必要だなと思って。映画祭みたいに仲立ちにして賞金を出すことによって、その賞金で次の作品も作れる。じゃあ、募集するためのショートフィルムのプロジェクトを立ち上げようと、最初の「MIRRORLIAR」から考えると4年ぐらい経ちましたけど、やっとこの形に落ち着きました。

── なるほど。

企業さん含めて本当に様々な方々が素晴らしい取り組みだと言ってくれているので、後は本当に利益化だけをなんとか……(笑)。でも、興行の数字だけで言うと売れている漫画原作作品みたいに大きく跳ねることは無いんですけど、劇場の公開だけではなくグッズや配信なども考えて、ビジネス面でも大丈夫な状態にはなってる。後は何故これやっているのか、ここに参加している人の気持ちが伝わっていったら良いなとは思ってます。

── 今回の『MIRRORLIAR FILMS』は Season2 ということですが。

1年4回のペースで公開しているので、3ヶ月後には Season3 も公開になる。どんどん撮って、どんどん編集して。スタッフは色々ギュッと詰まってきてしまってる……(笑)。でも、初めてだから仕方がないことではあるし。Season2 は10人以上いる委員会全員で、419作品観た中で選んでいるんですけど、Season4 までで36作品は多過ぎるかもという空気もできているので、Season5 からはもしかしたら少し本数減らそうかという話もあります。

── 山田さん含めて全員観られているんですね。

もちろんです。全員観なきゃいけないんです。初めての経験だったので、ヤベェなということになりましたけど。次1000作品来たらどうするの、みんな無理だよとは考えているので、一次審査、二次審査と人数分けてやっていく方法など、みんなで常に話し合っています。無理はせず、メインはやっぱり選定クリエイター枠なので、新たな挑戦をすることの素晴らしさが伝わったら良いなと思っています。

── 実際に観させてもらって、想像していなかった感情や発見がたくさんありました。

選定クリエイター枠の『King & Queen』は、監督の実際の家族総動員で作られているんですけど、おばあちゃんの芝居が自然で助演女優賞だねなんて、みんなで話していました。全て映画の尺はマックス15分って決まっているので、予算も少ない中で日数もせいぜい2、3日。その中アイディアとチームの団結力でどうやっていくかということになるんですね。

── 柴咲コウさんは今作へのコメントで、「どうして映像監督は今までやってこなかったのだろう?」とおっしゃっているぐらい刺激的だったようですね。

そうなんですよ。先輩たちは教えてくれないんです (笑)。めちゃくちゃ面白いからやりなよって。でも、やっぱり安易に誘えないんですよ。僕も『MIRRORLIAR FILMS』を一緒にやっている「and pictures」の伊藤さんと過去に『デイアンドナイト』(2019) や『ゾッキ』(2021) などといった作品を作ってきましたが、作るのに1億円以上かかるわけですね。結構大変なビジネスじゃないですか。それで初監督の興行収入がリクープラインを超えず、この人は監督としてダメだとなれば次が作れなくなってしまうので、なかなか簡単にはいかない。もちろんリクープをすることもビジネス的には重要なんですけど。取り組み自体が素敵なこと、必要なことだと思っているので、こうやって取材してもらってジワジワと拡がって欲しいです。映画好きはもちろん、日常があまり映画と密接してない人たちにも、作品や作っている人の気持ちなどがもうちょっと伝わっていくと良くなるんじゃないかなと。映画業界というか人と映画の距離、関係性がもっと良くなるんじゃないかなと思っています。

── そうですね。

公開はまだですが、水川あさみさんも初監督作品の撮影が既に終わっていて。本当に最高だったと言っていました。長年現場にいて仕事をしていたはずなのに、立ち位置がカメラの後ろに回るだけで見え方や考え方がガラッと変わるんです。それを経験して、またカメラの前に立ち俳優として芝居する立ち位置になった時に、周りのスタッフのことだったり監督の気持ちだったり色々なものが見えてくるんですよね。それによって確実にスキルアップというか、もっと愛を持ってチームに対して入り込んでいける。普段は演技をする側である俳優にとってもすごい大事なことだと思います。

── 今作では志尊淳さんは無縁社会を、柴咲コウさんは貧困や孤立といった社会問題と真摯に向き合った作品を初監督ながら作られていて、すごく感銘を受けました。

Season2 の中でも、この2作品にはすごく助けられていると思います。監督をするとなると、今考えていることや世の中に対する問題提起など、めちゃくちゃにその人の中身が出てくるんです。先日、佐藤二朗さん監督の『はるヲうるひと』(2021) という作品に出させてもらったのですが、世間一般特に若い人にとって二郎さんはコメディ俳優であって、「ちからわざ」という劇団を持っていることも知らないから、こんな一面もあるのかという驚きがあったと思います。脚本も書いているし、コメディ俳優のイメージからすごい深みが生まれて、佐藤二朗さんにより興味が湧くんですよね。

── 「MIRRORLIAR」のプロジェクト概要で山田さんは日本の映画界や俳優界の人材不足について言及し、もっと気軽に映画へ挑戦することを呼びかけていましたね。

表現方法として、映画はすごく良いなと思っているんです。言葉で伝えられないことってあるじゃないですか。志尊監督もじゃあこれを本人がインタビュー番組や取材でこのようなテーマのことを話したとしても、それが本当に響くかどうか。彼にフォーカスがビシッとあっている人には響くでしょうけど、そうじゃない人もいるわけで。こうやって映画として、俳優にお芝居してもらって見せることで伝わることもあると思うんです。誰でも撮れるなんて言われると嫌に思う人もいるかもしれないけど、作ることも素敵だし、映画の別の楽しみ方を提案しているだけなので。日本の映画業界を変えたいというより、映画にはもう少し幅があるんじゃないかなと。その幅に作る人も受け取る側も気付く場があったらと思うだけなんです。

── 『MIRRORLIAR FILMS』は立ち上げだけじゃなく、山田さん自身も俳優としても参加していますがいかがでしたか?

Season1 で安藤政信さんの作品に出演し、今回も紀里谷監督の『The Little Star』という作品に出演しました。コメントにも出しましたけど短編ってやってみるとすごく難しい。『全裸監督』(2019) の撮影の時に武正晴監督へ「短編やりませんか」と誘ったのですが、「短編って一番難しいんですよね」と言われて。それは尺が短い中でどう描くか、詰め込むこともできるけど、引き算の美学もあって。

©2021 MIRRORLIAR FILMS PROJECT

── 今回出演された『The Little Star』は、そんな中でも重厚なアクション映画でしたね。

紀里谷さんらしいですよね (笑)。めちゃくちゃしんどかったです。ずっと電車の中でアクションしていたんですけど、2日間で3本突き指したのは人生初めてです。僕が誘っといてあれなんですけど、紀里谷さんの脚本はこれ本当に短編映画か? というほどの分厚さで (笑)。でも、台詞は一切ないんですよ。監督に台詞が欲しいかと聞かれて「俺は全然なくて大丈夫です。状況だけあれば良いんで。でも、(松本) まりかに確認してください」と伝えたら、脚本に台詞がありませんでした。後は、僕と監督とまりかで現場で話をして、シュチュエーションがあって状況的にどういう会話になるかは分かるので、ぶっつけでやってみるかと、いきなり本番をやっていましたね。

── バンドのセッションに近いような。

そうですね、ライブですね。まりかも今は本当にテレビなどいっぱい出ていますけど、今作を観るとこんな爆発できる女優さんだったのかと俳優としての底力に驚きますよね。あと、本当はもっと尺が長かったんです。紀里谷さんにどうしても切れないと言われて、長いバージョンのものはどこか別で公開することなども考えるのでと説得しました。だから、『The Little Star』に関しては、どこかでディレクターズカット版を出すと思います。あと、今回佐藤浩市さんも三島有紀子監督とのご縁があってですけど、このプロジェクトに参加していただいて。やっぱり素晴らしい取り組みだとおっしゃってくれているみたいで。長回しで、めちゃくちゃ大変と観てすぐ分かるような作品だったんですけど、浩市さんは燃えていたみたいです。取り組み全体もそうですし、アイディアで新たな切り口を探すようなものだから、浩市さんもやってやると。

── 山田さんがこのプロジェクトを始め、俳優だけでなく企画やプロデューサー業など幅広い活動を行っているのは何故でしょうか?

でも、ほとんどが「表現」です。俳優も監督もプロデューサーも。誰かに誘われて歌を歌うのも。単純に表現をするのが好きなんです。それぞれフィールドが違うので、色々な仕事をしている人みたいになっていますけど、僕はいたって表現をやっているだけという感覚です。表現することの喜びや楽しみ、どれも一人じゃなく必ず誰かと一緒にやることになるのでそれが原動力だと思います。後は、もちろん職人的に突き詰めることも良いと思うんですけど、それだけじゃなくやりたいと思ったことはどんどんやるべきだと思っていて。そういう姿勢を僕が見せて、なんか俺も気になるからやってみようかなとか。特に若い人とか、夢がないと言う人や将来どうすればいいか分からないという方のお話はSNSなどを通じても聞くので、そういう人たちがとにかくやってみようかな、いつ死ぬんだか分からないんだしって。そういう風にちょっとでも思えるきっかけになればいいなという気持ちもあります。

── それは今回の『MIRRORLIAR FILMS』をやられている理由の一つでもありますか?

そうですね。ちょっと映画やってみようかなとか、最優秀500万もらえるんでしょとか動機はなんでも良いと思っていて、俳優でもミュージシャンでも大体みんな10代の頃はモテたいとか金欲しいとかそんなことが始めたきっかけだし。きっかけの場がないと動機も生まれないので。実際『MIRRORLIAR FILMS』に関わった人たちもどんどん目覚めていっているので、今度はこれを観た人たちが目覚めていってくれたら良いなと思いますね。