「柔らかい強さというのもあると思う」表現者・佐々木希が信じるもの
nozomi sasaki
model: nozomi sasaki
photography: taro mizutani
styling: sumire hayakawa
hair & make up: masayoshi okudaira
interview & text: koki yamanashi
edit: manaha hosoda & yuki namba
「自然と涙が出そうになりました」。VALENTION (ヴァレンティノ) からはじまり、ALAÏA (アライア)、JIL SANDER (ジル・サンダー)と、それぞれ個性の異なるルックを次々と着こなしてくれた彼女は、撮影をそう振り返る。歳を重ねるごとに表現に深みが増していく彼女は、近年では女優としての役柄の幅を広げ、着実に評価を高める。一方、終始にこやかな表情を絶やさない撮影中も、帰りにスーパーに寄ろうか考えるなど、ひとりの母親らしい姿も。そのまま外に行けるような部屋着が欲しいという発想から生まれ、自身がプロデュースを務めるiNtimité(アンティミテ)が多くの女性から支持を集める秘訣も、彼女のそんな親しみやすさに隠されているのかもしれない。ワンマイルウェアをコンセプトに掲げ、メイドインジャパンにこだわるiNtimitéもデビューから今年で早5年。表現者としてさらに磨きがかかる彼女が今、何を考え、見つめているのか。
「柔らかい強さというのもあると思う」表現者・佐々木希が信じるもの
Portraits
―本日は雨天の中でのファッションシューティング、お疲れ様でした。今回はモードブランドの洋服を多く着用していただきました。
テンションが上がりましたね。特に ALAÏA の服は、大人の女性と少女が同居しているようなデザインがとっても好みで。「この歳でミニスカートが穿けるなんて」と嬉しかったです(笑)。また、たまにファッションシューティングでモードな服を着させていただくと、映画のワンシーンを演じているような気分になれて、感情移入しやすいなと。撮っていただいている側からは想像もしていなかった方法で、カメラマンさんがドラマチックに仕上げてくださるのが毎回素晴らしいなと思います。そして、今日が雨でよかったと感じています。“しっとり”とした気分になれるのが、モードな服と相性が良くて。最後、JIL SANDER の服を着て屋外で撮影したときは、自然と涙が出そうになりました。
―カメラを向けられると感情が動くというのは、女優としても活動されているからこその感覚でしょうか?
そうかもしれません。これまで演じてきたシーンや、今まで見てきた映像が残っていて、頭の中で無意識に浮かび上がってきたのかもしれないです。モードな撮影現場は毎回学びがあるので楽しいですね。
―寒い中での撮影にもかかわらず、そう言っていただいてありがとうございます。ところで、女優やモデルとして活躍しながらワンマイルウェアブランドのプロデュースも両立されている佐々木さんですが、どのようにモチベーションを維持されているのでしょうか。
格好つけているような言い方になってしまいますが、突き詰めて考えると、人が喜ぶことが嬉しいんじゃないかなと思います。「ありがとう」と言われて嬉しいって Win-Win ですよね。それがずっとモチベーションになっているのではないかと思います。
―iNtimité としての活動についても伺えればと思います。まず、どのように発足したのでしょうか?
「ブランドをやってみませんか?」というお話をいただけて。モデルをしている中で、その日着ている服のタグや生地がチクっとして、ブルーな気分になってしまう瞬間がよくありました。若い頃は「可愛ければいい」と我慢できていましたが、年々、ちょっと高くても着心地が良くて上質な服を着たいなと思うようになってきていて。そんな矢先だったので、他の仕事が疎かにならないように工夫しつつ、引き受けたいとお返事させていただきました。単純にファッションが好きなんです。
―佐々木さんにとってのファッションはどのような存在ですか?
“ときめくもの”。幼い頃からお洋服が大好きで、裁縫や編み物をよく作っていました。自分で選んだ生地でバッグやポーチを作って、誰かにプレゼントをしていて。そう考えると、好きなことは昔からずっと変わらないですね。素敵な服があると、落ち込んでいたとしても気持ちを高めてくれる。ファッションがなかったら、私は今と違った人生を辿っていたのではないかなと思います。
―ワンマイルウェアに注目した理由はなんですか?
女性は仕事と家事の両立で、時間がないという方が多いですよね。そのような中、どれだけ可愛い服でも手に取ったときに「後々クリーニング出さないといけないのかな」「シワになりにくくてすぐ乾く服の方がいい」と考えてしまう。私自身もそう考えていますし、何よりすごく面倒くさがり屋なんです。だからこそ、私が今作るなら着心地と可愛さを両立できる服がいいなと思っていて。そのような考えからたどり着いたのが “外にも着ていける部屋着” というコンセプト。お手入れのしやすさや機能性で暮らしに寄り添いつつ、首元や袖などにワンポイント、“ときめき” を与えてくれるような要素を入れるようにしています。
―今年でブランド設立から5周年を迎えられました。率直な感想はいかがですか?
「嬉しい」の一言です。その期間、いろいろな学びがありました。iNtimitéとして、ステイホーム期間にもう一度コンセプトと向き合ったこともありました。自宅や近所で過ごす時間が増えた今を基準にすると、これまで手がけてきた服のデザインは “よそゆき” すぎるのではないかなと思ったんです。もう一回、ワンマイルウェアの定義を見直して、今の暮らしに寄り添った、より家でリラックスできる服を作ろうと。その結果ブランドの注目度を高められたので、今考えるとコロナ禍は逆境ばかりではなかったと思います。
―今年の4月にはアイウェアブランド・EYEVAN (アイヴァン)とのコラボレーションを発表するなど、活動の幅もさらに広げられていますね。
もともと眼鏡はファッションアイテムとして欠かせない存在で。目が悪いわけではないのですが、つい売り場に行くと買ってしまうんです(笑)。特にEYEVANは、コーディネートの主役になれるものから、シンプルかつ繊細なデザインまであるので大好きなブランドです。どのアイテムにも職人技術が感じられるところは、メイドインジャパンの iNtimité に通ずる部分かもしれません。今回のコラボレーションでは7型を製作しました。一見するとメンズライクなデザインだけれど、実はフレームの裏側がピンク色だったり、「ハンマー打ち」という加工でキラキラとしたジュエリーのような質感にしたりと、iNtimité らしい “大人の女性” の要素をさりげなく取り入れていて。どれがおすすめかと聞かれたら、全部ですね(笑)。
―今後も Ntimité を続けていく上で、軸としてぶれさせたくない点と、進化させていきたい点を教えてください。
ファッション誌に出演させていただく中で、トレンドの変化は常に肌身で感じています。ワンマイルウェアというコンセプトは意識しつつも、デザインは時代に合わせて進化させていきたいです。ただ、それを実現させる上で、安価な海外製のものに手は出さないようにしています。海外製のものにも安さなどのメリットはあると思いますが、メイドインジャパンの服はやはり保ちのよさが違いますし、職人さんの繊細なものづくりは素晴らしいですから。ブランド設立時の5年前に Ntimité の服を買ってくださったお客さまが「今も着ているよ」と伝えてくださったこともあって。そういう話を聞くと、やはり質の良さだけはブレさせたくないと思いますよね。いつか職人さんの工場へ会いに行って、感謝を伝えたいです。
―ブランドのプロデューサーであると同時に、広告塔としての立場も兼ねられています。“佐々木希のブランド” として打ち出していくことに迷いはありましたか?
最初は名前を出すべきかどうか悩みました。商品の質やデザインに注目していただきたいのに、その前に私のブランドという情報が先行してしまうのはどうなのかなと。ですが、逆に考えると、そうすることで私にも責任感が生まれますし、「変なものを作れない」とより真摯にものづくりができると思っています。
―仕事に対する向き合い方は今と昔で変化しましたか?
違うと思います。スカウトをきっかけにこの世界に入って、気づけばたくさん出させていただいて。若さもあって、忙しさに感情が追いついていなかったです。何をするかもあまりわかっていない状態で、現場に行っていた時期もありました。そういう経験から、自分ごととして「やるぞ」と思って仕事をしないと責任感が生まれないことを学びました。ですから、やっぱり過去と今では考え方が違いますね。
―今改めて、当時の精神状態をどう分析されますか?
目の前のお仕事を一生懸命こなさないといけないし、とにかく余裕がなくて、いつもツンとした雰囲気だったと思います。少しでも気を抜いたらガクガクって崩れてしまうから、気持ちを強く保とうと虚勢を張っていました。でも、そのような経験があるから、今の自分があるとも思います。人はこうされると嫌な気分になるとか、人に優しい方が絶対いいとか、いろいろなことを学べましたから。
―今でも精神的に余裕がなくなる瞬間はあるのでしょうか?
もちろんあります。でも今は、余裕がなくなったら事務所の方や仲がいい人に話すようにしています。溜め込むことが良くないというのは、今までの経験で学びましたから。素直に伝えて、相談するようにしています。
―そう言うところに、佐々木さんの強みを感じます。
“強さ”と聞くとツンとしたイメージがあるけれど、そうではない“強さ”もあると思っていて。私が素敵だと思うのは、飾らず自然体だけれど、しっかりとした芯のある女性。尖っていない、柔らかい強さというのもあると思うんです。そういう女性に憧れますね。