Coco Capitán
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「より自由に」迷子のナイーヴィー、ココ・カピタンの航海はまだ続く

Coco Capitán

interview & text: yu murooka
translation: kana saito

Portraits/

Coco Capitán (ココ・カピタン) は、ロンドンとマヨルカ島をベースに、写真、絵画、散文、インスタレーションと、手法を横断しながら精力的な表現活動を続けるアーティスト。Louis Vuitton (ルイ・ヴィトン) のフォトブック「ファッション・アイ」シリーズからこの4月に刊行された『シベリア横断鉄道』も記憶に新しい。

ファインアートとコマーシャルアートの世界にまたがるその作品は、GUCCI (グッチ) 2017-18年秋冬コレクションをはじめ、DIOR (ディオール)、A.P.C. (アー・ぺー・セー)、Nike (ナイキ)、COS (コス) など名だたるブランドとのコラボレーションでも注目を集めている。

国内では、今春、PARCO MUSEUM TOKYO (パルコ ミュージアム トウキョウ) での個展も大盛況のうちに幕を閉じ、来る7月1日には本展に関連した作品集が刊行される。

「私がアート作品として形に残そうとしていることは、私自身の人生経験そのものだから」と語る彼女の航行とそのマインドに耳を傾ける。

「より自由に」迷子のナイーヴィー、ココ・カピタンの航海はまだ続く

Courtesy of Coco Capitán

―ご自身のルーツは。幼少期を過ごしたスペイン・セビリアでの記憶で強く残っていることはどんなことでしょう。当時好きだったもの、興味があったことは?

スペインのセビリアで生まれ育った後、カディスに移り数年間を過ごしました。90年代以降にも関わらず、幼少期はずいぶんオールドファッションな教育を受けて育ちました。家にはテレビもなかったので、多くの時間を読書したり、妹と遊んで過ごしていました。振り返ってみると、当時から私はファンタジーな世界の中で生きたり、何かをつくったりする潜在能力を持っていたんだと思います。幼少期で最もビビッドな記憶は、ベッドルームでいろんな現実を想像してみたり、図書館で読書をしたことですね。

―アートの道に進む、なにかきっかけのようなものはありましたか?

本や物語への関心が、そのまま幼少期の趣味に変わっていきました。雑誌や本、新聞から写真を切り取って、トピックごとに分類したり。それが写真を始めるきっかけだったと思います。雑誌から切り取るかわりに、自分で写真を撮ればいいんだと、のちのち気づきました。

―写真、絵画、インスタレーション、散文と、多様な媒体での表現の根底には、共通するテーマや考えがあるのでしょうか。

いろいろなメディアを使っていますが、表現方法を決めるとき特にルールはありません。ただ、制作過程は違ってきますね。たとえば、写真と絵画でいえば、写真を撮るというのは一瞬の出来事なのに対して、絵を描くには時間がかかります。完成させたいイメージを頭で想像してから、時間をかけてキャンバスに再現しています。

Courtesy of Coco Capitán

―ファインアートとコマーシャルアートを往来した活躍をされていますが、制作をする上で、意識的に区別していますか?また、自身の作品制作と他者とのコラボレーションでは、それぞれ表現や考え方に違いはありますか。

すべての制作過程を同じように扱っています。そして、作品の物語を伝えることにもっとフォーカスするようにしています。

メディアやクライアントではなく、大事なのは自分が伝えたいストーリー。ファインアートかコマーシャルアートかに関わらず、メッセージを作るためにそれぞれ異なる手段を使っています。表現方法をひとつにすることで自分にリミットを作りたくないのと、新しいことを試して、取り入れ続けたいから。

―GUCCI とのコラボレーションでは、力強いメッセージが印象的でした。別の角度から物事を捉えることは、ある種、あなたの作品のベースになっていますか?

仕事でも私生活でも、物事を違ったアングルから見るようにしています。物事はこうあるべきだと囚われずに、新鮮な目線で物事を見るよう心がけています。

―Dior とは2019年春夏コレクションや、最近の2022年春夏コレクションでもコラボレーションしていますね。SS19の Candela Capitán (カンデラ・カピタン) のパフォーマンスや、SS22での Cristi Duncan (クリスティ・ダンカン) 氏とのディレクション等、他者と1つの作品を作る場合、事前にストーリーイメージの共有はどの様にされていますか?

コラボレーションプロジェクトを準備する方法はたくさんありますが、(Dior の場合は)いつも一緒に仕事をする人との会話から、主な方向性が生まれます。正攻法の戦略というものに従わず、会話をオープンにして、それぞれの能力や興味によって違うタスクを振り分けるようにしています。プロジェクトの編成をできるだけオーガニックに保てるようにしています。ふたりの人間の会話というのが、コラボレーションなのです。

―普段、生活や活動のベースにしている環境は?

現在はスペインのバルデモーサをベースに活動しています。山と海の間にある美しい村です。プロジェクトが多くなるに連れて、自分には作品作りのスペースがもっと必要だと気づいたからです。ここではロンドンの生活と比べてゆっくりとしたペースですが、今でも仕事で旅行はするので、バランスはとれています。

―作品のインスピレーションやアイデアのリソースは?

私のインスピレーションのほとんどは私生活から来ています。どのようなものでもインスピレーションのもとになるのです。なぜなら私がアート作品として形に残そうとしていることは、私自身の人生経験そのものだから。

―制作に煮詰まることなどあるのでしょうか?どのように切り抜けていますか?

もちろんあります。煮詰まることがあってもほとんどの場合、とにかく仕事を続行します。インスピレーションがまた自分に舞い降りてくることを願いながら。

―渋谷 PARCO で開催した日本初個展「Naïvy」。作品の発想はどこから来ていますか。

「Naïvy」は、10年以上にわたって航海の冒険、帰属、そして無垢の喪失というテーマを扱ってきた作品。“Lost Naïvy (迷子のナイーヴィー/ナイーヴなネイヴィー)”というセーラーたちが住む、想像上の航海の世界に捧げたものです。それは海で迷子になり、見知らぬところに消えることへの願望。集団への所属と個人主義者の自由をどちらも望んでいることを表現した私の世界なんです。遊びと危険、自由と陥穽、祝祭と哀歌、郷愁と未来への恐れの間で揺れ動く世界の中で、これは「Naïvy」を構成する多くの二元的なもののひとつに過ぎません。

―「Naïvy」のストーリーは、ココ自身の迷子の船乗りになった経験から来ているのでしょうか?

そういった意味で、私のことを例えるなら“Lost Naïvy”と言えるかもしれません。

―「Naïvy」シリーズを制作する上で、意識的に積み重ねたことはありますか?

青色をたくさん使いました。そしてファウンド・オブジェとして木枠に張って展示したセーラージャケットは、第二次世界大戦時のアメリカ海軍のもので、私自身で補修して、手刺繍したものなんです。

Courtesy of Coco Capitán

―制作初期からこれまで、約10年の間に変化はありましたか。

より自由になったし、もっとありままの自分自身であることが出来るようになったと思います。

―同名の作品集『Naïvy』が近日刊行予定ですね。

この作品集は PARCO MUSEUM TOKYO での展示が本という形で再現されたものと言っていいでしょう。藤田裕美さんと一緒にプロジェクトができて、本当に良かった。日本の美術書にインスパイアされた、エレガントでシンプルなデザインをこの本のためにしてくれました。日本で初めて発売される私の本なので、とても日本が感じられるものにしたかったのです。そして、私も最高の日本のデザインにインスパイアされたかったんです。

―今春の来日時に印象的だったことはありますか?

礼儀作法に常に重きを置く日本の感覚にいつも感銘を受けます。西欧では何気なく済ましてしまうことも、日本では儀式化されているように見えます。そこにはすごく感化されましたね。

―ロンドン、アムステルダム、パリ、上海、ソウル、日本と、様々な国で発表されていますが、土地による反応の違いは?

観るひとによって作品の見方も違うし、反応も違います。たとえば、アジアでは作品に込められた想いや私のパーソナルな感受性に興味を持たれることに気づきました。一方、ヨーロッパの人々は、より論理的で社会的な意味を作品から読み取ることで頭がいっぱいな印象です。

―ココ作品を楽しむ手掛かりをお聞かせ下さい。

オープンマインドであってください。文章でも写真でも、作品には特に決まった見方はないので。