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テキストよりも馬鹿な声を。アーティスト UA が呼び起こす、原始的な本能

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photography: Katsuhide Morimoto
styling: Dai Ishii
hair & makeup: Masayoshi Okudaira
interview & text: Rei Sakai

Portraits/

心理学者 Carl Gustav Jung (カール・グスタフ・ユング) の用語をタイトルに引用したという AJICO (アジコ) の新作EP『ラヴの元型』。世界中の人々が共通して持つ集合的無意識のことを元型というが、誰かの意識の手が加わっていない、イメージであり情動としての作品を AJICO でも作りたいという想いを込めたと、UA は話す。プリミティブな視点を想起させるような本作の制作背景について、アーティストであり母として移動しながら生活をすること、AJICO とファッションの関係について話を聞いた。

テキストよりも馬鹿な声を。アーティスト UA が呼び起こす、原始的な本能

―EP『ラヴの元型』を聴いていると、いつの日か忘れていた本能が思い出されて、いま感じている違和感は間違っていなかったのだと、どこか安心するような感覚があります。

人それぞれ、不安や心配は当然持っていますよね。それってすごく人間らしくて、愛があるからこそだと思うんです。もっというと根源的なものだと思います。たとえば原始の頃は、火を絶やせないとか、獣がいつ襲ってくるか分からないとか、本能的な不安や心配をいつも抱えて生きていたので、夜も安心して寝ることができなかった。いまはそういったものに襲われる心配はないですが、言葉の暴力とか、日々の中で本当にちょっとしたことで傷つきやすい時代に生きていると思うんです、若者たちは特に。

「微生物」という曲に、“丁寧なテキストより馬鹿な声を聞きたい”という言葉がありますが、いまは馬鹿なことを喋っている時間よりも、個人的に SNS を見ている時間が圧倒的に増えてしまっています。馬鹿な声を共有していた時の方が、よっぽど安心感を得ていたと思うんですよね。えも言われぬ安心感というか。いま起きているジェノサイドなんて、正直あり得ない。2024年にもなって人々の意識が高まってきた時代のはずなのに、誰にも止められないという現実を知って不安を感じない人間なんてどこにもいないです。

でもみんな全然そんな話もしないで、今日はこれをしなきゃいけないから、あそこに行ってあれしたら寝るんだ、というように忙しくすることで誤魔化しているというか。そうじゃなくて、パレスチナおかしいよね、じゃあどうしたらいいんだろうねって、そこで SNS を見るとか、もっと不安や心配を一番最初に持ってきて話し合ってもいいんじゃないのって思うんです。

―1曲目の「ラヴの元型」は、まさにそういった不安を提言したものだと思ったのですが、AI やアルゴリズムといった、現実的かつ不安を帯びた言葉に、頭が混乱するような感覚もありました。

そうですね。「ラヴの元型」は言葉のトリックが続いています。実はダンスミュージックっていう前提で書いていますが、例えばミラーボールがまわって踊っているんだけど、没頭しきれないというか。「え、何言ってんだろう?」って頭はしらっと覚めてしまう感じで、身体を揺らしているイメージです。

―そこから2曲目の「あったかいね」に入り、生活を感じる言葉にほっとしました。自分がいまここに生きているということに引き戻してくれるような。4曲目の「微生物」は、ご自身のソロの「微熱」にも通じる“微”という言葉が入っていますね。

ソロの「微熱」とこの曲とでは、意味合いは違うんです。私、ノートが好きでよく買うんですけど、今回のEPを作るにあたって言葉のスケッチをしていたんですね。その中に“微生物”があって。最初に曲が上がったんですけど、フォーキーで12弦ギターも入ってすごく美しくてクラシックだったからこそ、「微生物」というタイトルが絶妙だなと思ったんです。  COVID-19 (新型コロナウイルス感染症) の3年があって、みんな免疫って何だろうとか、常在菌とかウイルスって何だろうっていうところから学び直した時に、本当の意味でコロナに負けない身体作りを考えるじゃないですか。私たちの中に生きている微生物って、意識されることはないですけど、それぞれが個体として生きていて、この「私」の体内にいることは知る由もないわけですよね。それはまるで、人間が宇宙の中にいることを本当には知らないのと似ていますよね。そんな風に自分は1つの小宇宙として生きているっていうことを感じ直していたので、“微生物”という言葉は改めて新しいと思っています。

あと、自分が生きている中で、自分の想念、思い、考えたこと、浮かんだことというものが、世界に影響を与えているという実感があって。だからこそ、いい言葉を発したほうがいい、いい心持ちでいたいと思っていて、これって理屈ではないんですけど、本当に空気を変えるんですよね。それはもう地球の裏側まで繋がることだと思っています。日本人は、“以心伝心”とか、“虫の知らせ”とか、そういう目に見えない事柄で想いが聴こえてくることを知っているじゃないですか。そういう意味でも、自分たちの心が日々ものすごく蠢めくこと、1日の中でもローになったりハイになったりすることって、まるで目に見える微生物みたいだなと思ったんですよね。

―まさにそうですね。心身の健康を保つためには、あらゆる物事との距離感を測ることも大事だなと思うのですが、UA さんは農的な暮らしで移動しながら生活をされていて、ご自身で距離感を調整できている実感はありますか?

そうですね、いまだに自分でも探っているところではあります。ものすごい距離感ですよね(笑)。カナダの島に住んでいるので、太平洋を股にかけているんですけど、やっぱりいいことばかりではないですよね。だいたい、どっちにも根ざしていないという事実がありますし、どっちでも異邦人なんです。どこかしら覚悟が足りていないのかもしれません。でも、自分はやっぱりまだまだ表現者として、自分をフルに活用していきたいと思っているから、許してというか(笑)。

―特定の場所に根ざさないようにしている、むしろ動きたい、ずっと変わっていたいという思いはありますか?

そうですね。移動している時がすごく好きで、そういう時にインスピレーションをいただくことが多かったんです。だから日本にいるときは、旅ばかりしていました。1人でもどんどん海外に行っちゃうし。でもいまはカナダに住んでいるので、旅が全然必要じゃなくなってしまって。どこに行きたいって言ったら、日本に行きたいんですよね。あとはもう、最近は移動自体が肉体的に非常にきつくて。できることなら本当は乗り物も一切乗りたくなくて、どこでもドアがあればなって思います(笑)。

―今年の3月から始まった AJICO の全国ツアー、3公演が終わりました。2021年の ARABAKI ROCK FEST.20thx21 ぶりのライブでしたが、いかがでしたか?

AJICO って、結成から24年も経っているのに実は3度目のツアーなんです。3度目の正直とは、まさにこれ(笑)。1回目は20代でがむしゃら。まるでポップも気にしちゃいないけど、人生初のバンドを、もう必死のパッチで駆け抜けているっていうのが最初です。2度目は、自分が言い出しっぺで再始動させていただいて、すごく気負って、何としてでもかっこいい AJICO を見せてやるぞ!!みたいな(笑)。3度目の正直は、めちゃくちゃリラックスしています。緊張もしないし、ようやく AJICO って何だろうっていうのが、自分自身で掴めてきたのかな。それぞれの役割がきちんと見えてきましたし。今回のツアーは12本あるのでまだ4分の1なんですけど、(*インタビューは3月25日のツアー中に実施。)いい意味で冷静に、淡々とやっていますね。

―アー写はモノトーンで衣装もブラック、新鮮です。

スタイリストの Remi Takenouchi さんの、たくさんのチョイスの中からアートディレクターのスティーブ・ナカムラさんと私で選ばせていただきました。前回、ソロの EP『Are U Romantic?』でもご一緒させていただいてすごく楽しくて。彼のコンテンポラリーなポップ感と、ちょっとシニカルでプラスチックな感じがすごく好きなんです。AJICO は生々しいですし、すごく有機的なバンドだから、かえってそのバランスがどうなるのか非常に楽しみです。私はこれまで色の役割を担ってきたつもりもあったので、ブルーと悩みましたが、結果、黒が新鮮でいいねって。大成功したと思っています。

―ステージ上の衣装はどのように決めているのでしょうか。

ここまで3公演にかぎりましては、FUMIE TANAKA (フミエタナカ) さんを着ています。昨年の10月に、”islanders” というコンセプトのファッションショーでライブをさせていただいたんです。オートクチュールをまとわせていただいて非常にレアな体験だったんですが、そのコレクションがすごく好きだったのでお借りしました。飛ばしすぎていなくて、ロックも感じるのにエレガントなとこが素晴らしいですね。

―過去には、鳥をイメージするようなヘアメイクも披露されていました。

フジロックで一度、大きな鳥の奥平くんの(*Hair Makeup Wig Headpiece 奥平正芳) ヘッドピースをつけましたね。鳥は歌の中にもすごく出てくるし、歌の合間に鳥の声もすぐやっちゃうんです。関西人の気質か、何も言わない時が耐えられないと鳥になります(笑)。いまカナダで、実際に鳥をたくさん飼って暮らしているのですが、鳥との不思議な体験は多い方だと思います。やっぱり自分は、歌手以前に人として、鳥っていう存在にものすごく救われている人生だなと思います。それこそ、今回の“元型”でいうと私は鳥。歌ってやっぱり目に見えないものなので、飛んでいくというか、空中をいくものだから、蝶々とか龍とか、飛ぶもののイメージがあるんです。四つ足っていう感じはしないというか。自分の中に、根源的に鳥がいますね。