All Blues
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スウェーデンから世界へ。少数精鋭のオール ブルースが自負する夢を持つ責任

All Blues

photography: nils junji edstrom
interview & text: chikei hara

Portraits/

5月9日にスウェーデンのジュエリーブランド、All Blues (オール ブルース) は Dover Street Market Ginza (ドーバー ストリート マーケット ギンザ、以下 DSMG) とタッグを組み、限定のブックとカプセルコレクションを発表した。ローンチされた作品集『Tokyo photographed by Nils Junji Edström, guided by Dover Street Market Ginza, published by All Blues』は、スウェーデンと日本を拠点とする気鋭のフォトグラファー、Nils Junji Edström (ニールス・ジュンジ・エドストローム) によって撮り下ろした東京の風景と DSMG が選定した東京の観光名所を紹介するテキストが共に綴られたシティガイドブックある。

All Blues のジュエリー同様に洗練された生産背景も併せ持つこの作品集は、ブランドの象徴性を体現しながら、彼らがいるストックホルムという街や人々にする愛着を異なるレイヤーで表すような印象的なプロダクトであった。ローンチイベントに合わせて来日した All Blues のファウンダー、Jacob Skragge (ジェイコブ・スカラッゲ) に、今回のコラボレーションと All Blues が大切にするコミュニティのあり方について、対面で話を聞いた。

スウェーデンから世界へ。少数精鋭のオール ブルースが自負する夢を持つ責任

—All Bluesのプロダクトからはミニマルでダイナミックな造形と環境配慮された物作りへのこだわりが感じられます。ブランドのアイデンティティはどこにあるのでしょう?

私たちのアイデンティティは季節感に囚われない手作りの品をスウェーデンで製造することにあるといえます。All Bluesのレシピは2つだと考えています。1つはスウェーデンの伝統工芸の歴史に情熱を注いでいて品質に妥協しないこと。そしてもう1つはデザインと文化に対する私たちの視点とブランドの哲学です。魅力的で美しくクールなデザインでも、品質が悪ければそれは持続することが難しくその反対もまた然りです。だからこの2つの交差点で生み出されるエネルギーこそが私たちの原動力であり人々にポジティブな感情を生み出す重要な要素だと思っています。またアイテムに性別を決めず自分たちが好きなプロダクトをデザインする様にしています。誰が欲しいかをお客さんに決めてもらうというのはとてもオーガニックで自然な成り行きだからで、私たちもジェンダーを押し付けるのは変だと感じたからです。

—All Blues の拠点であるストックホルムはどんな街ですか?

私が生まれ育ったストックホルムという街は気候の変化が極端で、薄暗く寒い冬季は特に街全体の活気がなくなり人々が憂鬱として親切さに欠ける様になります。まるで冬眠しているかのように静かになる時期が過ぎて、春を迎えるとまるで街全体が待ち望んでいるように活力に満ち溢れ、素晴らしく美しい街に生まれ変わります。それに街の中心はいくつかの大きな島で構成されていて橋がそれらを結んでいる特徴があって、水資源が豊かで昔ながらの建築や様式を大事にする街が形成された文化を持っています。他の都市と自分の故郷を比較することはいつも難しいものですが、ストックホルムが魅力的で前向きな場所だと感じることができるのは、食や音楽、デザイン、アートなど様々な分野に創造的で興味深い人々がいるからですね。

—ブランドを創業してからもうすぐで15周年を迎えるそうですね。

本当に夢のようなところから始まりました。高校を卒業したばかりの19歳の時に、ストックホルムにある一軒のお店にジュエリーのスケッチを持って行き、取り扱いしてもらえないか尋ねるところから始まりました。当時はとてもわがままで山あり谷ありだったけど、All Blues は私にとって常に情熱的なプロジェクトです。この道を幸せを感じられるから今後も続けていきたいし、何かを成し遂げられるようになる程ビジョンも自然と大きくなっていきました。意味のある誠実なクリエイションに個人的な想いを込めるというビジョンと All Blues というブランド名を除いてほとんどすべてが変わりましたが、おそらくこれが私の柱となるものだったのでしょう。

—そんな All Blues が、自身のバックボーンとは異なる都市を案内する『Tokyo photographed by Nils Junji Edström, guided by Dover Street Market Ginza, published by All Blues』は、どのような観点から生まれたのでしょう?

これは新しいシティガイドブックを作るアイディアから生まれたブックオブジェクトです。シティガイドを作ろうと話し合い始めた際、東京という街を題材に考えることはとても自然なことでした。私が初めて東京を訪れたのは10年ほど前でしたが、多くの人がいる都市でありながら温かく穏やかなエネルギーに満ちていることにとても驚きました。この街の文化やエネルギーに圧倒され、その美しさに惚れ込み多くのインスピレーションを受けてきました。実にシンプルなことだけど、僕はこの街をとても素晴らしいと思っているから伝えたかったのです。このプロジェクトを通してエネルギッシュなオブジェクトを作りたかったし、私たちが感じた東京の空気感を表現しようと試みました。ステレオタイプ的ではない方法を模索する中で東京に精通する人に依頼したかったので、DSMG チームに東京のおすすめスポットの案内を書いてもらえないか話を持ちかけ、同時に古くから親交のある Nils という誠実で信頼できる人物にも声をかけました。

—なぜジュエリーブランドとしてこの取り組みに挑戦したんですか。

私たちは普段スウェーデン国内で調達したリサイクルマテリアルを使用したジュエリーをストックホルムで手作りしています。このレイヤーが私たちのDNAであり、私たちそのものなのです。この本もまた世界で最も環境に配慮した製紙会社のひとつであるスウェーデンの Munken (ムンケン) 社のノンコーティングペーパーを使用し、同じくスウェーデンの Göteborgstryckeriet (ヨーテボリ・ストリッケリエット) 社で印刷・製本しました。より深いレベルで私たち自身を反映する美しいオブジェクトに仕上がったことをとても素晴らしく思っています。

—写真集の中で独自の東京が描かれ、コマーシャルになっていないのも特徴的でした。

私から Nils に提示したことは All Blues のジュエリーを本の一部に含めないこと、そして「あなたが望む写真を撮り、あなたの街として捉えてほしい」ということだけでした。100%の創造的な自由とともにこのプロジェクトでのコラボレーションに情熱を持ってくれるなら、そうであって欲しいと考えたのです。ここに写された視点は Nils の望む風景です。最初から彼の翼を縛ってしまうような愚かなことはしたくなかったですし、すべての自由を与えることはクリエイティブな人間にとって一番難しい課題でもあるので時間をかけて取り組んでくれたことを嬉しく思っています。撮影は夏から冬にかけて実施され、同時期に All Blues のスタッフとしてチームに加入してくれたアートディレクターの Adam Nystrom Zirke (アダム・ナイストロム・ジルケ) が中心となって Nils と共に編集しながら試行錯誤し本のディティールが固まっていきました。これらの創造性をジュエリーブランドとして本にできることに贅沢さを覚えながら同時に感謝しています。All Blues がインディペンデントである理由は、一見不可解に捉えられる面白い挑戦や純粋に楽しいことを通して自分たちの幸せが感じられるからで、この本もその興味の延長にあります。

Jacob Skragge と、ともに来日した Adam Nystrom Zirke を Nils Junji Edström が撮影

Jacob Skragge と、ともに来日した Adam Nystrom Zirke を Nils Junji Edström が撮影

—まるで All Blues の精神性そのものを映しているようですね。

まさしくそうです。私たちがしていることは全て私たち自身を映し出している鏡のようなものなのです。All Blues のプロダクトがそうであるように、ステレオタイプに疑問を投げかけ脱構築して自分なりの視点を加えることでパーソナルなものとして作り変えることが大好きなんです。すべての要素が組み合わさることで私たちにとって非常に特別なものが出来上がると信じています。

—本づくりからはどのようなインスピレーションを受けましたか?

ジュエリーと異なる分野ではありますがこの本のデザインはリズムとフロウを大切にする私たちの視点を応用して小さな旅路を体現しているようでした。今年の初めに Nils から届いた多くの写真が入った箱を開けた Adam が感激する姿を見て、彼らを信じて任せることにしました。ストックホルムのオフィスの小さな会議室の壁一面に写真が貼り付けられこのプロジェクトのための”東京”へと生まれ変わったエネルギーを私が台無しにするはずがありません。この本に込められた穏やかなペースと落ち着いたエネルギーが本をめくることで人々に伝わり広がっていくことを願っています。最初のアイディアから完成に至るまで約2年近くかけて思考しましたが、良いものを作るのに時間がかかるのもまた事実です。私たちには最初からそのような計画された青写真はありませんでした。継続的な試行錯誤を重ね時間をかけて対話する中で、私と仲間の視点の共通項を見つけられたことはとても良いことでした。

—プロダクトを作る上であなたに強く影響を与えるものは何ですか?

熱心に観察して経験することでデザインや創造的な産物を学ぶことに生きています。つまり私にとってプロダクトデザインは好きなものの影響によって強く動機付けられるのです。以前は自分の創作を実現するまで長い時間がかかりましたが、今は好奇心から始まり純粋で生々しい興味や強迫観念のような執着からスタートしています。もちろんそれは時間の流れとともに進化しますが、消費者を常に念頭に置きながら、しばし自分自身や友人が私にインスピレーションを与えてくれます。そして私がまだ若く多くの分野で経験が浅いことを理解しているので、たくさんの質問をするようにしています。なぜなら成長するには未知の領域に一歩を踏み出し、自分自身を追い込むことも必要だからです。元々バックボーンがあったわけでも恵まれた裕福な家庭に育ったわけではないので、ゼロから始めた過程で素晴らしい人々に出会いただひたすら学びながら何かを築いてきました。多くのことを経験しなければならず厳しいことが多々ある大変な道のりでしたが、私たちの関心と成果物を広げるためのとても美しい方法だったと思っています。

—ブランドを始めた当初と比べてクリエイションのあり方はどのように変化しましたか?

ブランドを始めた当初と現在では全く異なる立場に置かれている気がしています。デザインにおける自分らしいオルタナティブを知ることで、好きなことに多くの自信を持ったのと同時に自分自身の限界も理解するようになりました。つまり自分の得意不得意を理解している以上は All Blues を愛してくれて私を引き立ててくれる専門性を持つ人を見つける助けを必要とすることにあります。もし私が未知に対して素朴で前向きでなかったら、多くの質問をしたり新しい人との出会いによって、できなかったことに挑戦することはなかったでしょう。いまの私には自分のビジョンや夢を持つ責任があり、人々が All Blues のビジョンにインスパイアを受けることを願っています。少し難しく聞こえるかもしれないけど僕らはみんないつか死ぬんだ。人生というのは奇妙なものだし夢を追いかけることも大切にできることもまた特権なのです。だから自分が愛する仕事ができて私を鼓舞してくれてる人々に出会えたことに心から感謝しています。

—信頼できるメンバーとチームを築く上で心掛けていることは?

私たちは経験や専門性をもつ人が実際に必要とされお互いが自律的に働けるような小さなチーム作りにこだわっています。単に正しい専門知識を持つというスキルセットだけでなく、文化的な側面や適切な人格者であることが大切で、優秀で情熱のある人たちと共通のビジョンを追求しながら異なる専門性を通して助け合えることが素晴らしいことだと信じています。今はストックホルムオフィスに5人、店舗に5人だけのとても小さなチームを築いていてこれからもごく少数に留めておきたいと思っています。これは All Blues はニッチな存在として高く評価され認知され続けるために、大きな目標や夢を持ちつつも急速な事業成長を追わないビジネスモデルの構築が理想だと考えているからです。一人で優れたレストランを営むことができないようにクリエイティブな協働は良いものを生み出す上で重要だと考えています。我々が生み出すものは何かの模倣ではなく常に誠実で個人的なオリジナルなメニューなのですから、それが有機的に成長できる様でなければなりません。お互いのアイデアを尊重し合い、ただ最高のものを作りたいと思うことに集中することができれば、ピンポン球が行き来するようにクリエイションは跳ね上がっていくと考えています。

—コミュニケーションを育むことがクリエイションに良い影響を与えるということですね。

いいチームワークを作るには摩擦を受け入れることが必要だと思います。私たちはお互いを信頼しあっている事に疑いようがないから、尊重し合うことで摩擦はポジティブなものになります。お互いに質問を投げ掛け、問題に対する答えが何かを一緒に探る挑戦こそがチームワークなのです。いつも新製品をデザインする際にサンプルができたら店舗スタッフを含むチーム全員で会議を開いて、できるだけ早い段階からフィードバックを取り入れられるようにしています。この本作りにおいても同様のプロセスを踏みましたがプレゼンテーションを通して皆がとてもわくわくしてくれることをいち早く知る良い機会になりました。

—All Bluesの将来に向けてどのような変化を期待していますか?

何かを変えるというよりは将来に向けて進化させていきたいと考えています。私たちの DNA はスウェーデンの工芸とデザイン史にあり、母国の伝統を誇りに感じながら応用することでクリエイションが築かれているのです。All Blues の中核を担うカテゴリーはジュエリーですが、今後プロダクトを進化させるために他のカテゴリーに繋がる可能性が潜んでないかと最近は自問自答しています。いま夢見ているのは All Blues の世界観を表すことができる自分たちの店舗を新たにオープンすることです。2020年にストックホルムで最初の店舗をオープンできたことはとてもポジティブな経験でした。でも自分たちの店舗は急ぐと品質に妥協せざるを得なくなるので着実に進めていく必要があります。私たちの抱くビジョンを実現できる規模感を大切に小さなチームを維持していきたいです。とてもナイーブで楽観的であること、同じマインドセットを持ち続けるメンバーと堅実なブランドを作り上げることはインディペンデントな存在であり続けることを意味します。現代でブランドを持つ上では、正直であることと同時に少し怖いことにも果敢に挑戦する勇気も必要になります。ブランドとは感情と記憶を創り出すものです。なので今回のプロジェクトでブランドに新たなレイヤーを加えられて本当に嬉しく思います。