harmony korine
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半世紀生きたストリート文化財、ハーモニー・コリンは人間を超越した何かになろうとしている

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photography: chikashi suzuki
interview & text: mami chino

Portraits/

Larry Clarke (ラリー・クラーク) が当時19歳の Harmony Korine (ハーモニー・コリン) と出会って『KIDS』を生んだ時、彼は50歳を超えていた。偶然の一致か、今度は同じ年齢を重ねた Harmony が20代の謎に満ちたクリエイティブキッズたちと EDGLRD (エッジロード) を結成し、ひとつの映画を作ることになる。それが『AGGRO DR1FT (アグロ・ドリフト)』であり、東京で開催されたプレミアイベントで上映された作品だ。この映画を観ると、彼が初監督した『Gummo (ガンモ)』に似た消化不良感とぞわぞわ感を味わえる。もっと言えば、彼の思想の核となった自由な魂の追求が、今になって形にできるようになったとさえ感じられる。

半世紀生きたストリート文化財、ハーモニー・コリンは人間を超越した何かになろうとしている

17年ぶりの来日となった今回、取材の機会を得て渋谷のバーに向かうと、黄色いネオンカラーの目出し帽を被った彼がいた。撮影を依頼した写真家・鈴木親が2000年初期に東京で遊んだ時の写真を持ってくると「覚えているよ、確かクロエ(=Chloë Sevigny)も一緒にいたんじゃない?」と話しはじめる。「チャーリー(=林文浩)と一緒にアラーキーに会いに行ったんだよね。でもその日は日本酒の飲みすぎでひどい二日酔いだったんだ。もう25年以上も前のことだなんて……あの頃すでに3本も映画を撮ってたわけだしね。今じゃすっかり髪の毛はグレーでさ」。といった具合で、インタビューの前にここで書き残した方がいい貴重な話で盛り上がっていた。そのお陰でカジュアルなムードのまま、インタビューにも応じてくれたことに感謝したい。

近い将来、みんなが見た夢をダウンロードできるようになるかもしれない

—映画への深い愛情は周知の事実ですが、『AGGRO DR1FT』制作時ではほとんど見なくなったと答えているインタビューを読みました。それが関係しているかわからないけれど、個人的には観るためのものではなく、体験するものとして映画を作っていたあなたが、改めて本作で映画として表現したかったことが何だったのかが気になっています。

そう、新作の映画に限るんだけどすっかり見なくなったよ。理由はわからないんだけど、代わりにゲームばっかりしていたね。「レインボーシックス シージ」、「フォートナイト」、「GTAV」、「エルデンリング」、後は新しいゼルダも大好き。そういうテクノロジーやストリーミングをうまく使っている作品には興味があるけど、ありきたりな話はぼくの中でもう必要なくなったんだ。シンプルに興味ない。『AGGRO DR1FT』を作ろうとした時、ゲームのテクノロジーがだいぶ発展していて、それを試す時だと思ったんだ。正直はじめは映画にするつもりなんてなかったよ、ただの遊びの延長で。いろんな実験を繰り返していくうちに、映画と呼べるものに落ち着いただけというか。だからぼくの今までの映画とは全然違った方法で生まれた作品と言えるね。もっと感覚的で、自分の感情へのポストミーニング的なものが込められている。

—あなたにとって初監督作品となった『Gummo』では、『ポンヌフの恋人』を撮影した Jean-Yves Escoffier (ジャン=イヴ・エスコフィエ) にオファーし、彼とともに実験的な表現を追求していましたよね。それも『KIDS』で訪れたカンヌで口説いたとか。作りたいものに目掛けて突き進む様子は、今回の『AGGRO DR1FT』と EDGLRD の流れを見ていても同じ熱量を感じました。

うん、そうかもね。ただ EDGLRD っていうのは、今のところひとつのブランドとして機能していて、AI、グラフィックデザインやゲーム開発の領域で新しいテクノロジーを見出そうとしている人たちの集まりでもあるんだ。ライブアクションやアニメでどう見せるか、みたいな話を常にみんなとブレインストーミングしていてね。ゲームエンジンを使った表現は、ぼくの見たことないものばかりだから、何もかもがエキサイティングだった。そのテクノロジーをフルで使った『AGGRO DR1FT』はまったく新しいメディアと言ってもいいくらいのものができたと思っているよ。

ー『AGGRO DR1FT』で描かれている世界は、自身の実体験がインスピレーションになっていますか?それとも妄想から生まれたものですか?

どっちもあるよ。でも、今回はいつもみたいな脚本を書きたくなかったんだ。いくつか思い浮かぶシーンを絵に描いておくだけにしてね。それで撮影当日、まずその絵を見つめて、そこからシークエンスをイメージする作業から始めるんだ。その上で浮かんだセリフをできるだけ直前で俳優に伝える。そういうフリースタイルで新しい作り方を試してみたかったんだ。

ーあなたの頭の中には断片的だけどどこか繋がっているようなイメージで溢れていて、それを形にしているものが映画作品だと思っています。そういう曖昧なものを形にする時は周りの人にどうシェアしたり、説明しているのでしょうか?

だいたいは頭にあるイメージを絵に描き起こしたものを見せながら、みんなに話しているかもね。イメージってのは例えば……マイアミの海が見える家に住んでいるとするよ? その玄関の階段からしばらく海を眺めていて、ふと空に視線を上げてみると「ワオ、ネオンだ」って思うんだ。パープルに見えて空が本当に綺麗だなって……(笑)。それから赤いフローリー(妖精?)が街灯でキラキラした夜道をドライブしている情景に繋がって、そいつをよく見ると男で腕が何本もあったんだ。みたいな感じで、ひとつの色とかイメージからどんどんトリップして、要は話ができるんだけど、正直そのフローを人に説明するのは不可能だね(笑)。

ーそれでもクルーにシェアして、ひとつの映画を完成させているからすごいんですよね。さすがIQ145以上の頭脳の持ち主……!

(笑)。いいことでもあるけど、ひどいんだ。幼少期はとくに最悪だった。

ーそうやって頭に浮かんでくることを、一通り実現したいと思いますか? 今の時点で浮かんでいるものがあれば教えてください。

今すぐ浮かんでいることで?ちょっと待って……。あ、じゃないよね(笑)。どうだろう、しばらくは絵を描いていたいかも。もしかしたらまた映画も撮りたくなるかもしれないな。いま EDGLRD で“DREAM BOX”と呼んでいるものを開発していて、それも目が離せないよ。頭に浮かんだ考えやイメージをスクリーン上に映せるようにするものなんだけど、誰かに考えや想いを伝える方法としてもっとも直接的なものになるんじゃないかと思っている。今はぼくを実験台にして、脳波やマイクロチップを使った研究をはじめているんだ。近い将来、みんなが見た夢をダウンロードできるようになるかもしれないよ。

ー怖くないんですか?

全然!すでにぼくたちは人間という枠からトランスしていると思っているし、どれだけ離れられるか、どれだけまだ見ぬ景色を見れるかだけに興味があるからね。