Rashida Jones
Rashida Jones

ラシダ・ジョーンズと考える、欠陥を抱えて共に生きる私たちの“人間らしさ”について

Rashida Jones

photography: utsumi
interview & text: Rio Hirai

Portraits/

私たちはもう、AI なしでは暮らしが成り立たない世界を生きている。数年前までは、SF 上の出来事として描かれていたようなことが、驚くべきスピードで実現していく。7月10日から全世界同時配信される Apple TV+ のドラマ『サニー』は、家庭用 AI ロボットがキーになった物語だ。A24製作のこの作品で主人公・スージーを演じ、製作総指揮を務めたのは Rashida Jones(ラシダ・ジョーンズ)。Quincy Jones (クインシー・ジョーンズ)と Peggy Lipton(ペギー・リプトン)の娘として生まれ、パートナーのエズラ・クーニグの間に生まれた男の子の母親でもある。劇中で彼女が演じたスージーも男の子の母親で、ある理由から孤独を抱えている。AI は人間を孤独から救う存在になり得るのか、人間らしさとは何なのか。今の時代を生きる人間が直面している問いを、Rashida Jones に尋ねた。

ラシダ・ジョーンズと考える、欠陥を抱えて共に生きる私たちの“人間らしさ”について

—『サニー』であなたが演じるスージーは、劇中で西島秀俊さん演じるパートナーの知られざる様々な面を後から知っていくこととなります。Rashida さん自身に秘密はありますか?

確かに、私の秘密をすべて共有するのに今が最適な機会かもしれないですね(笑)。でも、私の秘密ってなんだろう? この年齢になると、もう秘密なんてないのかも。もうとっくに私の全ては明らかになっているようにも思います。もしまだみんなに伝わっていないことがあるとしたら、私は自分自身について「経験豊富でうまくやれている」とは感じていないということですね。

演技には、たくさんの不安が伴います。なぜなら、毎回新しいキャラクターで、全く新しい脚本で、そのドラマの中の世界全体を最初からやり直さなければいけないから。「達成した!」「やり遂げた!」「成功した!」と感じるのは、とても難しいんですよね。プロジェクトには失敗がつきものだし、「大丈夫かもしれない」と思えるようになるまで、努力を続けなければ。

—確かに、あなたが抱えている不安を、他人はあまり想像しないかもしれませんね。劇中には、「人間だから、失敗をする」というセリフがあります。Rashida さんは、失敗とはどういう役割を持っていると思いますか。

年齢を重ねるにつれて、失敗についての考えは変わってきたとは思います。今は、失敗も成功の一部で、二律背反しないというのは理解しています。自分に厳しくなりすぎず、生きていることは失敗することだと理解できるようになるまで、とても長い時間がかかりました。

みなさんご存知のように、私たちはみな大きな欠点を持っていて、間違いを犯してしまうことは問題ではありません。ただそれは自分の間違いから学び、成長する場合ですよね。これもまたみなさんわかっていると思うけど、その欠点を破壊的な方法として使用するのは良くない。これが、今回のドラマのテーマみたいなものですね。劇中で私が演じたスージーも欠陥のある人間ですが、他者や AI ロボットと繋がる機会を得て、自分の欠点や不安と向き合うことを余儀なくされます。彼女は、たとえ自分が変化を望んでいなかったとしても、強制的に変化させられ、それが結果彼女を成長させました。

—日本は特に、失敗をすることが許されづらい世の中になっているように感じています。自分や他人の人間らしい失敗を許していくことには、どんなメリットがあると思いますか。

人間の失敗という考えは文化的な、あるいは内面的な、押し付けのように私は感じます。とても相対的で、実際は解釈次第ですよね。

アメリカは、「NO」と言われても受け入れず前進し続けて、転んでもまた立ち上がるという考えに基づいて構築されていると思います。俳優としての私のキャリアだって、人に「NO」と言われることを繰り返して成り立っているもの。オーディションで、何度断られてきたことか。でも俳優として成功する唯一の方法は、それでも努力を続けることなんです。続けてきた私が、他の人よりも優れているわけじゃないですよ。「NO」と言われて諦めて辞めてしまったら、「失敗した」と感じた記憶が残るだけ。何かに向けた成長の一部として、失敗を受け入れましょう。さもなければ、成功することは決してないでしょう。

「大きな間違いを犯した」と憂いている人を、他人が見て「この失敗はあの人にとって必要で、素晴らしい機会だ」と感じていることだってありますよね。例え、その失敗を本人が恥じていたとしてもね。本当に、解釈次第なんですよ。

—スージーは年の離れたバディを得ますが、あなたには年の離れた友達はいますか?それらの友達から、何かを学んだ経験はありますか。

そうですね、私よりもずっと若い友人もいれば、私よりもずっと年上の友人もいますよ。年の離れたリレーションシップは、双方にとって学ぶべきことがたくさんあると私は信じています。運が良ければ、私もそれだけ長生きできるということですよね。だから私は、年上の友達が好きなんです。だって幸運な人たちでしょ?でないとそんなに長生きできないですから。彼らが自分自身の人生と私についてどう感じているか質問して、その答えから学んでいます。

若い友人と一緒にいるのも良いことですね。なぜなら、彼らはたくさんのエネルギーを持っていて、まだ年上の人ほど人生に疲れたり失望したりしていないから(笑)。

—ドラマの舞台は、今よりさらにテクノロジーが進化した近未来です。ラシダさん自身は未来にどんなテクノロジーを望みますか。テクノロジーで何を解決したいでしょうか。

私の脳に、多言語を理解できるようになるマイクロチップを入れてほしいです。ちょっと、やってみようかな(笑)。「バイバイ、バイバイ、さようなら」!あとは世界の歴史もダウンロードしたいし、空も飛べるようになりたいな。ドラマの中みたいに、家事を手伝ってくれる AI ロボットが実現したら素晴らしいですよね。劇中のサニー(AIロボット)はちょっと問題もあるんだけど。実際にテクノロジーや医療は、私には把握しきれないほど加速的に進歩していますよね。私は、テクノロジーが人々の距離を近づけることを常に望んでいます。

—劇中でもそうだったように、AI ロボットは女性が社会に進出するのも助けてくれるかもしれないですね。Rashida さんのように俳優をやりながらプロデューサーとしても活躍するなど、マルチで活躍する女性も増えていますが、女性が社会に出て活躍しやすくなるには何が必要だと思いますか。

そうですね……、女性はマルチになんでもできるという神話はありますよね。少なくともアメリカでは、女性は全てのことを同時に簡単に実行できる、そして不平も言わない、という奇妙なプレッシャーがあるのを感じるんですよ。フェミニストの運動によって「私たちはなんでもできる」と感じられるようになったのは、素晴らしいことだと思います。でも、全てを自分だけでやろうとするのは難しい。だからロボットが手伝ってくれれば助けになるし、パートナーや周囲の協力が必要です。

—タフであることが期待される中で、ラシダさんは自分をケアするのにどのような方法をとっていますか。

深い呼吸をするのを、忘れないようにしていますね。瞑想や、運動も。毎日体を動かして汗をかくことは、メンタルヘルスにも良い影響があります。あとは仕事とも、家族とも関係のない、自分のためだけの時間を取るように努力しています。ただただ自分のためだけに、というのが大切なんです。

—では AI ロボットには実現できない、実装されない、人間らしさというのはどういう部分だと思いますか。

それが大きな疑問なんです!人間性とは何ですか?私たちが他のものと違うのは何でしょうか?私たちは何世紀にもわたって、それを問い続けてきたと思います。なぜ私たちは“異なる種”なのでしょうか? 

また、私たちは「なぜ自分たちが他のものと違うのか」を考えるように作られているのでしょうか?他の動物は、その問いを持つでしょうか。考えて、理解したように感じて、また考えて、もっと理解したように感じて……。そうやって人が子供のように問い続けているのが、私は大好き。「なぜ自分たちが他のものと違うのか」の答えはわからないけれど、「他のものにはできなくて、私たちにはできること」がわかるときが来るでしょう。それが私たちをAIや他の種と区別するものです。

私たちはそれぞれに自分だけのニュアンスがあって、時に灰色で、敵か味方か、生か死か、その真ん中で生きていることもある。自分以外の誰かを見て、彼らを愛し、彼らを怒ったり嫌ったりする。同時に、魅力的に感じることもある。良いか悪いかだけではない、物事の解釈の仕方がある。それを私は、“とても人間的である”と感じます。