Shayna Arnold
Shayna Arnold

違和感の中に生まれる。シャイナ・アーノルドが創造する美しさ

Shayna Arnold

photography: Ibuki Yamaguchi
interview & text: Yoshiko Kurata

Portraits/

6月に表参道 ë BIOTOP AOYAMA(ヨー ビオトープ アオヤマ) でブックローンチイベントを開催したスタイリスト Shayna Arnold (シャイナ・アーノルド)。Tu es mon Tresor (トゥ・エ・モン・トレゾア) と ë BIOTOP 共同主催によって開かれたイベント当日には、作品集『SWANS』販売に合わせて3者がコラボレートしたオリジナルTシャツも発売し、多くのファンが集った。取材当日の彼女のスタイリングがすべてをあらわすようにヴィンテージから強くインスピレーションを得ながらも、スタイリストとしてはそこに日用品や異素材をミックスする不思議なリズムを挟み込んでくる。日本でのインタビューは初めてだという彼女。違和感のある美しさが潜む彼女の美学について、バックグラウンドから自費出版の写真集『SWANS』に至るまでチャーミングにすらすらと話してくれた。

違和感の中に生まれる。シャイナ・アーノルドが創造する美しさ

—日本でのインタビューは初めてということなので、まずはバックグラウンドからお伺いしていこうと思います。ファッションに興味を持ち始めたのは、いつ頃でしょうか?

嬉しい機会をありがとうございます。ファッション好きな母の影響で自然と、私も気づいたらファッションに興味を持っていましたね。小さい頃は、よく姉妹で老人ホームなどの場所で行われるチャリティランウェイショーに参加していて。振り返ってみれば、そこでさまざまなヴィンテージの服を着た経験がいまの自分のスタイリングにも影響しているのかもしれないです。そのまま純粋に高校生の頃には、NY のファッションスクールに入ろうと思っていたのですが、最終的に家に近いこともあってオハイオにあるファッションスクールのファッションデザイン学科に入りました。NY に憧れがあったので最初のうちは、撃沈していたのですが、二学期目のインターンシップを受けるプログラムをきっかけに LA のRODARTE(ロダルテ) とスウェーデンの Ann Sofie Back(アンソフィーバック) で経験を積んでから、オーストラリアの Dion Lee (ディオン・リー) とさまざまな都市を旅しながらデザインを学ぶ機会に恵まれました。一方で、彼らのもとで仕事する中で、生地や服に対しての自分のアプローチがいかに実験的なものなのか理解するようになって。例えば、卒業コレクションではスケートボードのグリップテープ、やすり、ワイヤーなどを使ったドレスを発表しました。ファッションデザインを実践的に知っていくことで、逆説的に自分が好きなスタイルのバランスはウェアラブルな服を作ることではないのかもと気づき始めたんです。

—そこからファッションスタイリストの道に行き着いたのですね。

作ること自体は好きだったのですが、なんだかファッションデザイナーという職業は向いていないような気がして。たしか、友達に「それならスタイリストは?」と言われたことをきっかけに作品撮りを始めました。でもそれまでのスキルが全く関係ないかと言われるとそうじゃなくて、いまも手作りのドレスをスタイリングに使ったり、自分らしい表現に活かされています。

—今回の来日のきっかけとなった、写真集SWANSについて教えてください。

双子の妹たちを撮った写真集です。わたしは4人兄弟の長女で、同じくファッション業界で服作りに関わる弟、そして5歳離れた双子の妹がいます。彼女たちはスタンドインするモデルでもあり、私にとって大事なミューズです。高校生の頃に母がファッションのお店を営んでいたのですが、そこで妹をモデルに写真を撮っていたことを始まりにスタイリストになってからも、よくモデルとして妹たちを起用してきました。その流れでこの作品集も、当初は形になるとは考えずにとりあえず数日〜数ヶ月間、NY のお互いの家で撮影していこうと思っていて。でも、最終的にパンデミックが始まったことで当初通りには進まず、5年間にわたって実験的につくることになりましたね。普段ファッションシューティングではなかなか使わないロケーションとして、農場が隣接する祖父母のオハイオにある家でたくさん撮影しました。その後私たちが住む NY のアパート、旅行に行ったメキシコなどさまざまな場所でとにかく写真を撮っていったので、まさか写真集としてまとまるとは思ってもみなかったです。

—ご自身で写真も、編集も行ったのでしょうか?

2つカメラを使って、そのうちのひとつは父親からのおさがりのオリンパスのカメラです。パンデミックで実家に帰った時にたまたま見つけて質感が好きだったので、そのまま使い続けています。膨大な数の写真を撮り終わった頃、なんとなく自費出版することを考え始めて、まず出版社「Art Paper Editions(アート・ペーパー・エディションズ)」の Jurgen Maelfeyt(ユルゲン・マエルフェイ) にデザイナーとして相談しました。2023年2月に始まり、今年2月にパリでローンチイベントをするまで約1年にわたって、彼と会話しながら進めていくプロセスは新鮮なものでした。でもひとつだけヒヤヒヤしたのが、よく印刷物ではあることらしいのですが、イベント前日まで届かなかったことですね(笑)。

—それは焦りますね(笑)。写真集に限らず、Shayna さんのスタイリングにはよくシアーやレースなどが使われているように思います。

そうですね。ヴィンテージに使われているような素材が好きです。でも私の場合、ただ単に伝統的な素材やシルエットをそのままに使うのではなく、木材やゴムなど異素材もミックスするバランスが好きです。どこか予期せぬ偶然性があって楽しいんです。写真集の中に登場する服もすべて手作りなので、またヴィンテージとは異なる独特のドレープを描いています。普段は エディトリアルや E コマースなどの仕事が多いので、作品集を通して生地屋だけではなく画材屋、ホームセンターなどに思いついたものを探しにいく実験的な方法を体験できて楽しかったです。

—今回、Tu es mon Tresor ë BIOTOP 共同主催によって開かれたローンチパーティにて来日されましたが、どのような経緯でイベント開催に至ったのでしょうか?

Tu es mon Tresor のアイミ(佐原愛美)さんからお声掛けいただいて、2022年のルックブックのスタイリングしたことが最初の出会いでした。Tu es mon Tresor の世界観に共感しながら、いつもインスピレーションをもらっているので、ブックローンチの場所としてぜひ日本でもなにかできないかと相談して。アイミさんの友人で、ë BIOTOPのエリナ(曽根英理菜)さんがオープンしたギャラリーのようなお店で開催することになりました。皆さんのおかげでブックローンチだけではなく、ヴィンテージライクな T シャツを作って、夢に見ていたようなファンの皆さんと交流できる機会に恵まれて本当に嬉しかったです。

—今後挑戦してみたいことはありますか?

うーん、なんでしょう(笑)。硬めな素材に最近興味があるので、家具や彫刻など構造的なシルエットを作っていきたいですね。振り返ってみるとそれも幼少期に、祖父がよく木材で机や家具を作っていた記憶があって、父親も弟も工作が得意なのでなにかしらの影響はあるかもしれないです。ミューズである姉妹とも、引き続き写真を撮っていきたいです。