"Best Band In The World" を超えていく。Fontaines D.C. が払拭する残像
Fontaines D.C.
photography: michi nakano
interview & text: riku ogawa
映画『The Godfather』から登場キャラクター Johnny Fontane (ジョニー・フォンテーン) の名前を拝借し、そこに地元アイルランドはダブリンを意味する “Dublin City” の頭文字 “D.C.” を付け加えたバンド Fontaines D.C. (フォンテインズ D.C.)。2017年に詩を通じてダブリン市内のロック専門学校 BIMM (British and Irish Modern Music Institute) で出会った5人組は現在、辛口批評で知られる国際的な音楽メディア NME に “Best Band In The World” と言わしめる。
同郷のダブリン出身で、20世紀の最重要人物の1人とされる James Joyce (ジェイムズ・ジョイス) ら作家や詩人を敬愛するフロントマン Grian Chatten (グリアン・チャッテン) が綴るリリックは、たとえ和訳であっても文学的であり、それを乗せたアイリッシュなバンドサウンドが最大の魅力であった。だが先日、鞍替え先であるレーベル「XL Recordings (XL レコーディングス)」からリリースされた 4th アルバム『Romance』では、音楽性とスケールが押し広げられ良い意味で過去の残像を払拭している。
そんな彼らが、2022年のキャンセルを経て初出演となった FUJI ROCK FESTIVAL (フジロックフェスティバル) のため約1年半ぶりに来日。ステージングの数日前、メンバーを代表してギタリストの Conor Curley (コナー・カーリー)、ベーシストの Conor Deegan III (コナー・ディーガン3世)、ドラマーの Tom Coll (トム・コール) の3人が、短い時間ながらレーベルの移籍経緯から『Romance』の制作過程、一新されたルックスについてまで答えてくれた。
"Best Band In The World" を超えていく。Fontaines D.C. が払拭する残像
Portraits
ー今回の来日は FUJI ROCK FESTIVAL (フジロックフェスティバル) のためですが、スケジュールを見る限り約1カ月前の Glastonbury Festival (グラストンベリー・フェスティバル) 以来のライブでしょうか?
Conor Curley (以下 Conor):そう、だから腕が鈍っちゃってるかもしれないね(笑)。FUJI ROCK FESTIVAL というと、2000年に出演していた Elliott Smith (エリオット・スミス) のライブが YouTube に掲載されている映像の中で一番好きだから、同じ舞台でプレイできることにワクワクしているよ。
Tom Coll (以下 Tom):会場が大自然の森って聞いたんだけど、本当なの?
ー森の中ですし、ほぼ100%の確率で雨が降りますね。
Tom:No way.
Conor:そういえば、Elliott Smith のライブでも雨が降っていたね。
ー来日ライブ自体は昨年の2月以来で、その間にレーベルを「Partisan (パルチザン)」から「XL Recordings (XL レコーディングス)」へと変更されていますが、移籍の決め手は何だったのでしょうか?
Conor:ちょうど「Partisan」との契約が切れるタイミングで、「XL Recordings」に声を掛けてもらったんだ。「XL Recordings」は、1990年代のレイヴをはじめダンス・ミュージックに強いレーベルのイメージが強いかもしれないけど、今はロック系の良い作品も数多く出しているから個人的に好きだったレーベルで、所属できていることがすごく嬉しいよ。
ー移籍後、明確なメリットを感じることはありましたか?
Conor:メリットとは少し違うけど、クリエイティブなディレクションのおかげで活動がしやすくなったかもしれないね。
ーそんな「XL Recordings」からは1作目のリリースとなる4thアルバム『Romance』は、何か出発点となるきっかけがあって自然発生的に制作したのか、それとも計画的なものでしたか?
Conor:僕らの場合、アルバムをリリースして何年か経ったら各々が新たなアイデアを自然と思いつくから、それを持ち寄って1つずつ試しながら「これはいいけど、これは違うね」といったプロセスを踏んで制作したよ。もし出発点があるとすれば、楽曲自体はだいぶ前に作ったけど“Favorite”かな。
ー資料によると、制作にあたってパリやロサンゼルスに滞在するなど、メンバー同士で物理的な距離を置いていたそうですが、その理由と過ごし方を教えてください。
Conor:そんなこと書いてあったの? (笑)。その時間は制作のためでも、特に計算していたわけでもないよ。ツアーで長いこと一緒に過ごしていたから、それが終わった休暇として各々が個人の時間を持ちたいと思っただけさ。それに、僕らは全員が自分のスタジオを持っていることもあって、個人個人で勝手に曲作りを始めたんだ。
Tom:今、僕はロンドンに住んでいるんだけど、あそこでの生活が大好きだからほとんどの時間を過ごして、いろいろな音楽を楽しんでいたね。
ー長い休暇というと、日本では地元に帰る人も少なくないのですが、いかがでしたか?
Tom:ロンドンの居心地が良すぎて、全く帰らなかった (笑)。長いこと家を空けていると、自分の家が一番だとより感じるね。
Conor Deegan III (以下 Deegan):僕もダブリンには戻らず、2020年から住んでいるパリの家で友達と一緒に曲を作っていたよ。
ーDeegan はなぜパリを拠点に?
Deegan:コロナ禍の時に、ふとアイルランドではない違う国に住みたいと思ったんだ。とはいえ、イングランドはアイルランドと歴史的に複雑なわだかまりがあるし、どちらかといえば君主制ではなくて共和制の精神がある国に住んでみたかったからだね。
ーなるほど、そのようなバックグラウンドがあったんですね。そんなメンバー同士が世界各国でバラバラに過ごす中で、どのように『Romance』を形作っていったのでしょうか?
Tom:基本的にはオンラインで、それぞれが作った素材を送って擦り合わせて進めていたね。リリックはほとんど Grian が書くけど、メロディとかはみんなのパートをミックスしている感じ。最終的には、ロンドンのスタジオで約4週間にわたってレコーディングして形にしたよ。
ーGrian が書いたリリックのうち、自分の心情等を代弁してくれている楽曲があるとすれば?
Tom:「Horseness Is The Whatness」かな、とても美しいリリックなんだ。
Conor:「The Modern World」の多次元的な感覚というか、会話のような構成がお気に入りだね。
Deegan:「Sundowner」は Grian じゃなくて Conor が書いて歌っているけど、自分の気分にすごく合っている気がするよ。
ーありがとうございます。また、アートワークが以前までのクラシック調のデザインからガラッと変わった印象を受けました。
Tom:現代的な視点で書かれたアルバムの楽曲に合うようにした結果で、AIが制作したようなハートの面相がブルーの背景に浮かぶビジュアルは、作品全体の持つフィクション性をより推し進めていると思うね。
ーここからは質問をガラッと変えて、ビジュアルについて質問させてください。世界的な人気になってメディアへの露出が否応なしに増えたことで、バンドの見え方や見せ方、自分たちのビジュアルがどう映るかについて考えることが増えたかと思います。それによって、ポジティブ/ネガティブになったことはありますか?
Tom:メディア露出に関してそこまで意識したことはないけれど、スタイリングは自分自身がどんなキャラクターを演じるかだと思っているし、着飾ることでどんなことを感じているかを周りに示すことでもあるから、ファッションについてはいつだって熟思しているよ。
ー2019年のデビュー時と比較すると、テイストが大きく変貌しましたよね。
Tom:歳を取るにつれて、実験的なファッションを試すことに対して積極的になってきたんだよね。最初は聞こえなかった内なる自分の声に耳を傾けるようになり、挑戦したい気持ちに素直になっていろいろなスタイルを楽しんでいる真っ最中さ。
ーということは、今日も含めて普段からスタイリストは付けていないんでしょうか?
Tom:そうそう。撮影だとスタイリストと話しながら一緒に洋服を決めることもあるけれど、基本的には自分自身で何を選ぶかが大切だと思っているからね。
ーもう時間になってしまったので、最後の質問を。人気と比例してブランドから着用依頼が増えることは珍しくないですが、いかがですか?
Curley:そういえばまだないけど、adidas とかストリートウェアが好きだから提供してくれたら嬉しいな。
Tom:いいね、今日は僕も Carlos も adidas のスニーカーを履いているし。
Deegan:おいおい、何言ってんだよ! せっかくなら Gucci とかもっとハイブランドの方がいいだろ! (笑)。これを読んでいるファッションブランドの関係者、よろしくね。