小雪が伝統工芸との対話で出合う真の豊かさ。グッチ「Bamboo 1947: Then and Now」展
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koyuki
photography: yuki kumagai
styling: hiromi oshida
hair & make up: kimiyuki misawa
interview & text: mami hidaka
edit: manaha hosoda
100年以上にわたり、洗練されたラグジュアリーを提供してきた GUCCI (グッチ)。現在、東京・銀座のグッチ銀座 ギャラリーでは、GUCCI の日本上陸60周年を祝して「Bamboo 1947: Then and Now バンブーが出会う日本の工芸と現代アート」展が開催されている(〜 9月23日[月・祝])。
本展では、ブランドを象徴する〔グッチ バンブー 1947〕ハンドバッグのタイムレスな美しさを伝えるとともに、日本の伝統工芸作家やアーティストとコラボレーションした全60点のアートピースをお披露目。GUCCI の専任アーキビストが厳選して買い戻したというヴィンテージの〔グッチ バンブー 1947〕ハンドバッグに、それぞれの匠の技と美学で新たな生命を吹き込む試みでもある。
このアップサイクルの試みに共感するのは、俳優の松山ケンイチとともに、捨てられてしまう獣皮を「資源」と捉えて価値あるプロダクトに変えるプロジェクト「momiji(モミジ)」を立ち上げた小雪だ。「日本の素晴らしい伝統や技術、資源を継承していきたい」と語る小雪と、本展の出品作家の一人である彫金家の北東尚呼(あい・なおこ)が、本展を皮切りに美や豊かさの本質について意見を交わした。
小雪が伝統工芸との対話で出合う真の豊かさ。グッチ「Bamboo 1947: Then and Now」展
Portraits
小雪:若い頃からラグジュアリー・ファッションのモデルをさせていただいていたこともあり、国内外の究極のアートや伝統工芸に長年触れてきました。北東さんがコラボレーションした〔グッチ バンブー 1947〕ハンドバッグは、ジュエリーを超えるような美しいアートピースでした。持ち歩ける究極の伝統工芸ですね。
北東尚呼(以下、北東):GUCCI 創設者の Guccio Gucci (グッチオ・グッチ) さんの息子で2代目社長を務めた Aldo Gucci (アルド・グッチ)さんが、「Quality is remembered long after price is forgotten. (価格は忘れられても品質は長く記憶に残る)」という言葉を残しているのですが、私自身もその言葉に非常に共感します。私の師匠である人間国宝の桂盛仁先生からも、「とにかく完成度を高めろ」「完成度を追求しなければ品は出ない」と厳しく言われてきました。品質や気品は生涯残るものなので、妥協せずに完成度を追求しています。
小雪:私が一番気になったのは、中央に置かれていたキャメルのオーストリッチです。金属のハンドルは淡いラベンダー色の照りが美しく、このバッグを持つなら他はなにも飾らなくていいほどラグジュアリー。上品でどんなファッションにも合わせられそうですが、私なら白を基調としたシンプルなコーディネートにひとつポイントで際立たせたいです。どのようなテーマで今回のコレクションを制作されたんですか?
北東:侘び寂びを重んじてきた日本の金工には「照りは抑えたほうがいい」といった囚われがあるのですが、今回はそういったものを取り払い、新しい表現に挑戦したいと思いました。小雪さんが気に入ってくださった淡いラベンダー色は、初めて表現できた色です。GUCCI とのコラボレーションを機に、師匠が特別に煮色の薬液の配合を教えてくれました。金工は、大根による表面処理や丁寧な煮色・着色、松ヤニを使う「象嵌(異質の素材を嵌め込む技法)」など自然物を生かすさまざまな技術があり、表現の幅も広いです。
小雪:大根や松ヤニなど身近な自然を生かすプロセスに、職人の方々の知恵を感じました。伝統工芸やアートを生み出す芸術的感覚は、元々は生活や身の回りの自然の中から学んできたもののはず。土の上を裸足で走り回ったり、草原の中に咲く紫色の花を見つけて色彩を学んだり、そういった感覚は実際に目で見て触れないと得られません。金工の技術や美意識を確立した先代の方々は、暮らしの中で五感をフルに使っていたのだと想像できます。
北東:小雪さんのおっしゃる通り、本来工芸は時代や人々の生活とともにあるものです。金工は飛鳥時代に生まれた技術なのですが、当時の人は五感をフルに使って生活していたからこそ、この技術の価値に気づけたのだと思います。一方で、今はモノと情報で溢れ、新しいものも安いものも、あまり苦労せずに欲しいものが手に入ってしまう。そういった中で、「本当の美や豊かさとはなにか」を自分なりに考え、意見を持つことはどんどん難しくなっているのかもしれません。小雪さんは、ジビエのレザーブランドを展開されているようですが、美や豊かさについてどのように向き合っていますか?
小雪:今、日本のレザーアイテムは、ロシアや北欧、中国など海外からの輸入に頼っているのですが、国内には使いきれていない獣皮がたくさんあります。そういう余ったものに価値を見出し、リサイクルしていくべきだと思い、2022年に「momiji」というブランドを立ち上げました。わが家ではお肉は自給自足の生活なのですが、狩猟で得たお肉をいただいた後の獣皮を捨てることに抵抗があり……貴重な資源として利活用したいと思ったのが最初のきっかけです。獣皮を捨てるのにはお金も労力もかかるし、環境破壊にもなってしまう。獣皮のアップサイクルは、環境保護になるのはもちろん、マタギの人たちの収入の安定につながりますし、さまざまな職人の方とコラボレーションすることで伝統工芸の素晴らしさに光を当てることもできます。そしてその活動は、自分のアイデンティティになり、長く続けることで未来を変えられるはずです。
北東:今すぐには変化が見えないものであっても、人や自然環境に還元していこうという意識が素晴らしいです。そして金工に限らず伝統工芸は後継者がいないことが大きな課題なので、小雪さんのような影響力ある方の発信や、今回の GUCCI とのコラボレーションを通じて、若い人に日本の伝統工芸の魅力に触れていただきたいです。
小雪:GUCCI のような世界的なラグジュアリーブランドが日本の伝統工芸とコラボレーションし、アップサイクルを試みることは、見る人の中に「日本にはもっと世界に誇れる技術や資源がある」という意識が芽生える重要なきっかけになると思います。