対話がもたらす共鳴の拡張。元 colette サラ・アンデルマンのキュレーション論
sarah andelman
photography: local artist
interview & text: mami chino
母親の Colette Roussaux (コレット・ルソー) とともに築き上げたセレクトショップ colette (コレット) は、2017年にその歴史に幕を下ろした。サント・オノレ通りの213番地で20年という長い時を刻んで。パリの1区がそういったファッションとカルチャーが交差するエリアとして知れ渡るようになったのも、この店の存在があってこその結果だと言わざるを得ない。
そして娘の Sarah Andelman (サラ・アンデルマン) と言えば、Riccardo Tisci (リカルド・ティッシ) や Virgil Abloh (ヴァージル・アブロー) といったデザイナーたちをいち早く取り上げ、流行の先駆けとして世に知らしめた立役者。閉店のニュースから8年、Sarah が虎ノ門に現れた。SELECT by BAYCREW’S (セレクト バイ ベイクルーズ) で現在開催中のポップアップストア「JUST AN IDEA in TOKYO (ジャスト アン アイデア イン トウキョウ) 」の最終調整で店内をくまなくチェック。我が子を送り出すようなその眼差しからは、手掛けた空間への愛情がひしひしと伝わってくる。
イベントタイトルの「JUST AN IDEA」は Sarah が2018年に立ち上げたプロジェクト名。colette の知見を活かしたコンサルティング、アーティストを取り上げる書籍の出版、独自のネットワークを駆使したキュレーションなど手掛けていることは多岐にわたる。そのあらん限りの力を注ぎ、聞くと、構想に3年を費やしたという今回の肝入り企画。見どころを、彼女自身の言葉で教えてもらった。
対話がもたらす共鳴の拡張。元 colette サラ・アンデルマンのキュレーション論
Portraits
—買い付けやディレクションのセンスは唯一無二で日本人のファンも多かった colette が閉店し、その後すぐにスタートしたプロジェクトが「JUST AN IDEA」ですが、そのきっかけを教えてください。
実は閉店する直前まではまだまだ続けるつもりでしたが、母親の意見もあり一区切りをつけることにしたんです。とくに最後の時期だったからなのか、お店の1Fで行っていたポップアップでは「とにかく、やってみよう!」という言葉を口癖のように言っていて。その延長で「JUST AN IDEA」を始めることになりました。クローズ後、ゆっくり休むということがどうしてもできなくて、言葉の意味をそのまま体現するかのように、間髪をいれず動き出したのがこのプロジェクトでした。まずは、Nike (ナイキ) や Moncler (モンクレール) 、GINZA SIX (ギンザシックス) で行った Valentino (ヴァレンティノ) のポップアップなど、さまざまなブランドのコンサルティングをメインに。それから、2020年に書籍を出版するプロジェクトをスタートさせました。colette で行ってきた自分の好きなものや人をひとつの空間で繋げることをいまも実践できて、つくづくこの仕事が好きだと思いましたね。
—colette と JUST AN IDEA はそれこそ親子のように繋がりあっているようですが、強いて違いを挙げるとしたら?
シーズンごとに買い付けに追われ、ウィンドウやVMDも大きく変えなくてはならないというハイスピードさに適応していくことがショップには求められていましたが、いまはその拠点を持たなくなった分、より企画にフォーカスできるようになったことが大きな違いでしょうか。あとは今回のポップアップが実現するまで3年も要しましたが、これもひとつの方法だと思っていて、それぞれの企画にあった進め方と時間の使い方を取り入れられるようになりました。とはいえ、仕事量自体はショップ時代から変わらないんですが。
—その JUST AN IDEA はどういう場面で発生しますか?
人と会ったり、リサーチをする中で突然出てくるものなんです(笑)。このプロジェクトは ÉDIFICE (エディフィス) に声をかけてもらったことがきっかけでしたが、新宿のショップで実際にお買い物をした時にいろんなイメージが思い浮かんで。そこで感じたことを彼らと3年もの長い時間をかけてじっくり何度も話し合ってきました。ベストな開催場所と、プロジェクトに参加してもらうゲストたちの選定、理想のギフトショップを作るためにいろんなブランドやメーカーと会ってきましたし、今回のために特別なアイテムを作ってくれた日本のデザイナーズブランドも小木 “Poggy” 基史さんが繋げてくれたり……。そういうプロセスを経て、東京とパリ、そして桜をひとつにコネクトさせた空間を完成させました。
—ÉDIFICE はすでに独自のスタイルを確立しているセレクトショップですが、その中で提案するJUST AN IDEAに何か特別な視点はあったのでしょうか?
もちろんスタイルを確立しているけれど、いい意味でセレクトショップって間口が広い存在なので多様な表現を受け入れてくれるだろうと見積もっていて、自分ならではの視点を余すことなく取り入れようと思っていました。それと、過去に André (アンドレ) をはじめフランスのアーティストとのコラボレーションも行っていたそうなので、自分のコミュニティと近い雰囲気を初めから感じていました。その共通している世界をさらに広げるような企画を考えました。
—今回の企画の中でとくにおすすめしたいブランドは?
EN VRAC PARIS (オン ブラック パリ) というブランドで、Hermès (エルメス) に20年ほど勤めたマリーが立ち上げました。ヴィンテージのシャツにシルクスクリーンプリントを施してリメイクしていて、今回のためのオリジナルデザインを用意してくれました。あとは、3Dバーチャルクリエイターの Chris Labrooy (クリス・ラブロイ) とのコラボレーションは私にとって特別です。お相手の Team Ikuzawa (チームイクザワ) に完成したイメージを提出したときはかなり驚かれました。結構、変ですもんね!これを実際に会場まで足を運んでくれた人が見てどう感じてもらえるのか気になります。今回はそのイメージを落とし込んだTシャツをリリースすることになりました。これは裏話ですが、たった今、会場に到着したばかりなんです。
—東京のクリエイターやブランド、アーティストは率直にどういった点で惹かれましたか?
「TOKYO FASHION AWARD」の審査員をパリでしたことがあって、その時にいくつかのブランドは見させてもらっていました。中でも KOHKI (コッキ) は実際にデザイナーにもお会いして、初めて服を間近で見た時は、すべてが好きなデザインだったので興奮したことを覚えています。そんな出会いを経て、今回はシャツとパンツの全面に刺繍を入れたエクスクルーシブなアイテムを作ってもらえました。あまり高価な金額になっていないことを願っていますが……どうなんでしょう?
—お店で確認しましょう。では最後に、今回も常に新しい出会いの中心にいらっしゃいましたが、改めて Sarah さんにとってキュレーションをすることとは?
これは、いつも答えているフレーズがあって、私の中でキュレーションとはパズルをはめるような作業だと考えています。その時々でいろんな形のピースがあって、それを最終的に集めてひとつのパズルとして完成させるんです。今回は完成するまでにたくさんの時間をかけたので、その分気合いの入った内容になっているので楽しんでもらいたいです。この虎ノ門ヒルズに入っている他のセレクトショップも素敵なので、その中のひとつの空間として今回開催することができてよかったなと思っています。