現代美術界のパワーカップル「クサカシオとジョナスウッド」が 京都の禅寺で創造した新しい景色
Shio Kusaka & Jonas Wood
photography: Ryo Kawano
interview & text: Akiko Ichikawa
晩秋の京都、祇園の禅寺・両足院にて「クサカ シオ とジョナス ウッド」の二人展が開催されている。陶芸を基軸に制作を続けるクサカとペインターのウッドは学生時代に出会い、今や両者ともに世界のアートシーンを牽引するメガギャラリーに所属するスター作家へと成長した。650年の歴史を刻む寺院建築と京都でも有数の名勝庭園を背景に、クサカとウッドのポップで現代的な作品が、まだ誰も見たことがない新たな景色を創造する。展覧会が生まれるまでの経緯や背景、そして二人のクリエーションの原点について二人に話を聞いた。
現代美術界のパワーカップル「クサカシオとジョナスウッド」が 京都の禅寺で創造した新しい景色
Art
—両足院で展覧会をしてみていかがでしたか?展覧会のアイディアはどこから出てきたのでしょうか?
ジョナス:とてもスペシャルな展覧会になったと思います。二人展はこれまで5〜6回はやっていますが、デヴィッド・コルダンスキーギャラリーから両足院で展示をやってみないか? というオファーがあった時、すぐにシオと一緒にやりたい、というアイディアが浮かんできました。春に両足院を訪れ、二人でプランを練りました。
シオ:ギャラリー以外の場所で展示したことはこれまでもあるのですが、寺院建築自体に特徴があるので、作品をどのように馴染ませるか、というのは色々と工夫が必要でした。L Aのスタジオで事前にシミュレーションはしたものの、現場で置いてみるまでは100%決められないところもあって、私はジョナスより1日早く現場入りして設置を始めました。最終的には満足いく展示が出来上がったと思います。日に日にお庭の紅葉が色づく最高の時期に展示できたことはとても嬉しかったです。
—ジョナスさんによる2Dの作品とシオさんの3D作品の対比が寺院建築の中で際立っていたように感じます。室内から見える京都でも有数の名庭園と言われている秋のお庭の光景も借景となって、見事にインスタレーションに活かされていました。
ジョナス:今回設置した作品は両足院から直接的に着想を得て制作されたのではありませんが、作品は自分のものも、そしてシオの作品もそれぞれ寺院の空間に置かれることでよりストーリー性が出てきたと思います。特に絵画の中の線が、(日本家屋特有の畳や障子、柱など)部屋のグリッドと呼応するようにも見えてきました。
シオ:春に両足院を訪問した際、内装やディティールなどの写真を撮影したのですが、のちに写真を見た時に、寺院建築がグリットのように立ち現れてきました。普段作品には、あまり絵を取り入れることはないのですが、両足院のインテリアを陶器の表面に取り入れた作品を制作してみることにしました。このインテリアの作品は自分にとっても新しい取り組みで、今後も継続して作っていきたいと思っています。
提灯の作品は2024年にパリで展示したもので、京都の小嶋商店で作っています。私たちの自宅にも小嶋商店の大きな提灯の照明があって、毎日使っています。

—ジョナスさんによる2Dの作品とシオさんの3D作品の対比が寺院建築の中で際立っていたように感じます。室内から見える京都でも有数の名庭園と言われている秋のお庭の光景も借景となって、見事にインスタレーションに活かされていました。
ジョナス:水月亭に展示するのは最初のプランにはなかったのですが、展示作業をしている間に使えることになって。
シオ:縄文土器風の香炉を持ってきていたので、ジョナスの小さい盆栽の絵の下に置いてみたらぴったりとはまりました。臨池亭の方はカラフルな設えなので、コントラストが出てよかったと思います。
—LAのスタジオはどのあたりにあるのですか? お互いのスタジオはよく行き来されるんですか?
ジョナス:特定の名前はないエリアで、ダウンタウンの西のほうって言えばいいかな。僕とシオのスタジオは通りを挟んで隣同士にあります。シオは家の中にもスタジオがあってそこでもよく制作していますね。
シオ:お互い相手が何を作っているかは自然に見えてきます。特にジョナスは家でも自分が何を作っているかの話をよくしてくれますね。
ジョナス:ふたり展を行なう場合も、具体的にコラボレーションしながら作品作りを行うことはないんです。普段から家族として多くの時間を共にしているし、スタジオではお互いの作品を日常的に見ているので、作品にも何らかの関係性が出てくるのは当然でしょう。ふたりの作品を一緒に展示するといつも自然と良い感じにマッチします。
—陶芸を始められた理由についてうかがえますか? おばあさまはお茶の先生でいらっしゃったとか
シオ:はい、幼い頃からお茶会に連れて行ってもらったりして、お茶の道具に囲まれて育ちました。子供のころは全然楽しくなかったのですが、高校生くらいになって興味が湧いてきて、教えてもらうようになりました。茶会の流れの中で茶道具を手に取ってじっくり鑑賞するという時間を持つことで、物をじっくり見るということを学びました。何もわからないながらに小さい頃からそういう環境にいられたことは、とてもラッキーだったと思います。
祖父は書道の先生で、近所の子供達に教えていましたので、私も習っていました。特に真剣に取り組んでいたわけではなかったのですが(笑)。いわゆるアートといわれるものとは無縁で、茶道と書道が私にとってのアートでした。陶芸に出会ったのは渡米してからのことです。学校に行く気にならなかったので、行きたくなるような気持ちになれる授業を取らなければ、と思って陶芸のコースを取ってみることにしました。それまで経験は全くなかったのですが、初めてみたら面白くなって。それ以来、ずっと続けています。
—その後、アートスクールでジョナスさんとも出会われたのですよね。ジョナスさんの幼少期はどんな感じでしたか?
ジョナス:僕の祖父はアートコレクターで、家に様々なアートがありましたが、それらが重要な作品だと気づいたのはずっと後のことでした。例えばよく家族が集まる部屋のピアノの上にかけてあったのがフランシス・ベーコンの絵だということを知ったのは、アートを学びだしてからです。彼は医者だったのですが、晩年は絵を沢山描いていました。父は建築家、そして母は舞台の先生で舞台衣装やセットを作っていました。そんなクリエーティブな環境で育ちましたが、自分は医者になることを目指して大学では心理学を学んでいました。
もともと手先が器用で、絵を描いたり、何か作ったりということはずっとやっていたのですが、当時は自分に才能があるとは思っていませんでした。でもシアトルの大学院に進学して最初の数週間、アートの授業を集中して取った時に、初めて自分はアーティストになりたい、と思ったんです。それまで自分はアーティスティックではあると思っていましたが、アーティストになるという覚悟まではなかったですね。その後まもなく、学校でシオに出会いました。23〜24歳くらいの頃のことです。
—お二人ともアーティストとしての道のりを一緒に歩まれてきたんですね。
ジョナス:実際にアーティストとしての活動をし始めたのは卒業してLA に引っ越してきてからです。シオも僕もLAアーティストのアシスタントとして働き始めたのがスタートになりました。以来ずっと、製作活動もお互いサポートし合いながら、ここまで来た感じですね。
—最後に、今後のプロジェクトについて教えてください。
シオ:LACMA(ロサンゼルスカウンティ美術館)に設置する大型作品を製作しています。12フィート(3.65m)になる予定で、今までで一番大きなサイズ。そして屋外に作品を設置するのは初めてなので楽しみにしています。
ジョナス:今はテニスコートのペインティングのシリーズを描いていますね。あとは美術館で展覧会もやる予定です。















