「ノスタルジーに浸ってる場合じゃない」UKダブ総帥、エイドリアン・シャーウッドの未来へのまなざし
Adrian Sherwood
photography: yuichiro noda
interview & text: mars89
創設より40年以上にわたり、「DUB (ダブ)」という表現手法のもと、レゲエからポストパンク、インダストリアルまで幅広いサウンドを世に送り出してきたレコード・レーベル
気取らず率直に語る彼の言葉は、これまで携わってきた作品たちと同様に、ダブというテクニックを軸に過去と現在をつなぎ合わせ、濃密で重厚な40年を超えるキャリアを経てもなお、確かに未来を志向していた。ノスタルジーに浸ることを拒み、絶えず挑戦し続けることで、自分だけでなくコミュニティ全体を未来の可能性へと押し進めようとするその姿勢に、私たちは心を動かされずにはいられなかった。彼の言葉の随所に宿る未来へのまなざしを、このインタビューから感じ取ってほしい。
「ノスタルジーに浸ってる場合じゃない」UKダブ総帥、エイドリアン・シャーウッドの未来へのまなざし
Music
ーDUB SESSIONS が20周年を迎えますが、特別な気持ちや意気込みなどはありますか?
今回のイベントは、旧友たちが参加してくれるからとても感動的なものになるはず。もちろん、Lee Perry (リー・ペリー) や Andrew Weatherall (アンドリュー・ウェザウォール) はもうこの世にはいないのは残念だけどね。長年にわたって多くの素晴らしい日本のバンドが俺たちをサポートしてくれているのも嬉しい。今回は違うけれど、いつもは俺たちが大好きな最高の日本のバンドが参加してくれているから。そして今回20周年を迎えることができ、このブランドを継続することができているのは本当に幸せなことだと思う。
ー20年間、DUB SESSIONS を続ける中で変化したことと、変わっていないことを教えてください。
始まりから今まで、つまりこの20年間、俺はフロントマンとしての自分自身を磨くことに力を注いでいたと思う。なぜなら、これまでは常にバックグランドでミックスを担当したり、レコードレーベルを持ったり、音楽をプロデュースしたり、DJ をしたりする立場だったから。そういう時代を経て、今は自分で全てをこなすようにまでなった。それに今回は初めて、仲間のミュージシャンたちと一緒にステージでライブに挑戦している。それは進化だと思うね。
ーどちらの方が好きですか?
今の方がよりチャレンジングだね。まだこれから伸びていくと思うし、ミュージシャンたちも最高だし、今はまだ努力中。彼らは俺にとって表現したいものをアルバムで表現するための鍵となる存在なんだ。これからもっと前に進むなら、もっと大きなドラムをフィーチャーしたり、ミュージシャンを増やすこともできる。でも今回は、かなりルーツっぽいと思うね。生々しくて雰囲気があると思う。
ーLIQUIDROOM (リキッドルーム) であなたの DJ セットを見ましたが、あなたは音楽にエフェクトをかけて、ダブのテクニックと DJ のテクニックをミックスしていましたね。
DJ をする時、俺は SPD (電子パーカッションのサンプリング・パッド) を使っているんだ。今日も持ってきていて、サンプルは全部そこに保存しているんだよ。でも DJ ミックスは奥行きを与えるリバーブと、立体感を与えるディレイが入っている。例えば、曲の BPM が70だと分かっている時は、必ず付点三連符 (316ディレイ) に合わせるんだ。そして俺は、いつも付点8分音符を使う。なぜなら、リズムを回転させて速く感じさせるから。70 BPM、付点8分音符は321ミリ秒ということになるから、俺はそれを SPD に打ち込んで、DJ プレイ中に加えるんだ。DJ 中何かやることを作るためにね(笑)。少しだけ盛り上げるためさ。やりすぎは禁物だから。CDJ (プロ用DJプレイヤー) の操作では限界があるけど、これが俺のやり方。ほんの少しだけ活気づけたいんだよ。
ー元々、ダブという表現手法は音楽テクノロジーの進化から生まれた側面があると思いますが、長いキャリアの中でのテクノロジーの進歩、最近でいうと、賛否のある AI などとの向き合い方を聞かせてください。
今回初めて一緒に来てくれた俺のエンジニアが、本当に優秀なんだ。俺はビンテージのアナログ機材を使っているから、スタジオでは彼がコンピューターを操作して、技術的なサポートをしてくれている。俺たちは素晴らしい、そして新しいプラグインをたくさん持っているんだ。お気に入りの会社を全て挙げるとキリがないから言わないけど、とにかく常に新しいものが登場しているし、実際に活用している。でも、処理工程でそれらを使うことはあっても、最終ミックスの段階では今でもアナログ機材を使って、自分の手でミックスしているけどね。
ーAI についてはどう思いますか?
いくつか AI で作られた音楽を聴いてみたけど、AI の曲って、結構面白く作られたものは面白いんだ。曲を聴く時、俺はいつもサウンドがどうというより、”どう感じるか” を重視するんだ。友人の Dennis Bovell (デニス・ボーヴェル) の息子が、彼が作った AI の曲を聴かせてくれたんだよ。彼が赤ん坊の頃から知っているけれど、今はもう大人で、AI を使って音楽を作っている。Dennis が昨日の夕食の時にそれを流してくれて、ジャズっぽくて、スカみたいでもあって、良い音ではあった。でも俺が「でも、何かがしっくりこないんだよね」と言ったら、デニスも「そうだよな、何かしっくりこない」と言っていた。たとえ電子音や機械で作られていても、そこに何か人間的な感覚が込められていれば、大抵は気に入るんだけどね。今までに聴いたものの中には、笑ってしまうものもあれば、「冗談だろ」と言いたくなるものもあったよ。
でも先月、アメリカのカントリー&ウエスタン・チャートで1位になった曲があるんだけど、聴いたことあるかな? もしまだだったら聴いてみてほしい。全部 AI が作った作品なんだ。史上初で、Johnny Cash (ジョニー・キャッシュ) が歌う「Barbie Girl (バービー・ガール)」も聴いた。いくつか聴いてみたけど、確かに面白い。でも結局のところ、さっき言った “感じるもの” ってやつがないんだ。5人か6人で演奏する昔のレゲエを聴けば感じられるかもしれない、あの感覚がね。でも、世界はクレイジーな場所だから、AI で素晴らしい音楽ができたって驚かない。ただ俺は、AI が作ったもので本当に美しいと思った作品にはまだ出会ったことがないんだ。
ーあなたの最近のアルバムのアートワークにまつわる話を思い出しました。Mark Zuckerberg (マーク・ザッカーバーグ) と Elon Musk (イーロン・マスク) の顔が混ざったものと言っていましたね。
アーティストの Peter Harris (ピーター・ハリス) は俺の友人で、たくさんのレコードのデザインを手掛けてくれているんだ。今回は俺が Peter に、「ピノキオみたいな感じにしたいんだけどできるか? 彼は嘘をつくと鼻が長くなるだろ? だからピノキオの人形にしたいんだ。で、彼が崩れているような感じにしてほしい」と彼に依頼したんだよ。そして、それをなんとなく Mark Zuckerberg と Elon Musk みたいに見えるようにしてほしいってね。
ー最新アルバム『The Collapse Of Everything』について、「この作品をライブへと発展させたいとも考えている」とコメントしていましたが、今日のライブではそれが体験できるということでしょうか?
そうだね。アルバムの半分くらいはプレイする予定だよ。
ー続けて、「自分自身をコンフォートゾーンから引き離したい。それが成長するためには大切だからね」と仰っていたことも印象的でした。『The Collapse Of Everything』に関しても、未来へ向いた志向を感じました。40年以上にわたる長いキャリアの中で、そうやって未来を見据えて成長し続けるモチベーションの源泉を教えてください。
若い精神を持ち続けることはとても大切だと思う。その点で、俺は恵まれていると思うんだ。俺には子どもも孫もいて、みんな音楽が大好きだからね。それに、仕事に行くとみんなが新しい音楽を聴かせてくれる。スタジオで Lee Perry がいつも言っていたのを覚えているよ。「仕事に行く時は、自分が素晴らしいことをしているんだと信じろ。マジックを作り出せ」ってね。だから、俺が心がけているのは、仕事に行く時、それを仕事と捉えないこと。仕事ではなく、俺たちは素晴らしい何かを成し遂げようとしているんだ、という気持ちで臨んでいる。
あと、俺はあまり働きすぎたくないんだ。大体週2くらいを心がけている。スタジオの環境に長く居すぎると、倦怠感に陥るからさ。でも、俺は今でも一生懸命努力している。何かを想像する未来をいつだって楽しみにしたいんだ。そのために、常に音楽を聴き、本を読み、降りてきたもので何をすべきかのアイデアを得る。今回のアルバムの制作も、3年かかっているしね。次に作るレコードでも、「何かをやるときこそマジックが起きる」という感覚を持っていたい。単なる形だけの作業はやりたくないんだ。
ーUK でのダブ・シーンに流行などの波はありますか?
ジャマイカの音楽は、スカ、ロックステディ、レゲエへと遡る。そしてレゲエの時代にダブが始まった。レゲエから進化したものではあるけれど、ダブはそのごく一部。小さな世界みたいなものなんだ。テクノアーティストならレコードのダブ・ミックスが作れる、というのは皆が知っているフレーズだけど、サウンドシステム・ダブのコミュニティはどこにでも存在する。日本にも、フランスにも、イタリアにも、ドイツにも、サウンドシステムの文化やダブ・シーンを愛する人々はどこにでもいるんだ。そこには、意識の高い人、スピリチュアルな人、ベジタリアンや動物愛護、世界への関心を持つ人々が集まりやすい。ダブのコミュニティは、そういう人々が集まる場所なんだよ。今夜の観客の多くは、他の音楽の観客よりも意識が高いと思う。レゲエやダブ、ジャングルは、そこに宿るスピリチュアリティの感覚を求めている人々が多いからね。でも現実には、とても政治的なものでもある。インスト音楽であるにも関わらず、良い人々が集まるからこそ、そうなるんだ。だから、ダブが持つ力はとても強いと思う。
ロンドンでは、Aba Shanti-I (アバ・シャンティ・アイ)、Mad Professor (マッド・プロフェッサー)、Iration Steppas (アイレーション・ステッパーズ) のどのライブに行っても、オーディエンスはすごく安全で良い環境だよ。フランスに行けば、Brain Damage (ブレイン・ダメージ) や O.B.F (オー・ビー・エフ) をはじめとするサウンド・オペレーターたちがいるし、すごく良い雰囲気で、観客は誠実で意識も高くて、良い人たちばかりだ。だから、俺たちの音楽、俺の作品は、ダブの進化系だと思うよ。俺の友人たちもそう。その中でも Dennis Bovell はキングだよ。彼は俺たちにとって最も重要な人物の一人であり、俺のヒーロー、そして友人でもある。ダブの進化形である彼は72歳。そして、そこに新たに参入してくる人々。形は変わることはあっても、彼らはいまだに集まり続け、彼らの味を加えることで変化を生み出してきた。そして、それがどういうわけか政治化された領域を作り出しているんだ。
ー前回の来日の時に、今回の公演のことはもう頭にあったんですか?
いや、なかったよ。今回のショーが実現したのは、Beatink (ビートインク) のおかげなんだ。彼らとはもう35年の付き合いになる。彼らが日本で始動する前からの付き合いなんだ。彼らは仲間であり、本当に素晴らしい組織だと思う。イギリスとアメリカにも拠点を持ち、オランダやバルセロナの仲間たちとも繋がっている。俺たちには、もっと健全なものが必要だと思う。
今、ロンドンでは、本屋が素晴らしいコミュニティを築き上げているんだ。本を愛する人たちだけが働き、コーヒーを出し、みんながそこに集まってくる。レコード店もそれをやるべきだった。Spotify やそういう連中に「失せろ」と言って、「俺たちはコミュニティを作る」と宣言すればよかったんだ。クラブ、本屋、レコード店、アートショップといった、若者たちが集まれる場所やコミュニティが必要なんだよ。若者たちが集まれる場所、それこそが俺たちに必要なものさ。Beatink は、コミュニティでもありイベント・プロデューサーでもある。そして、彼らが手がける全てのイベントが素晴らしいんだ。
ーAfrican Head Charge (アフリカン・ヘッド・チャージ) にインタビューしたとき、彼は「音楽には魔法のような力があると信じている」と言っていました。あなたも、ダンス・ミュージックやダブ・ミュージックの中に一種の魔法のような力があると思いますか?
俺は、自分が「ダブをやっている」とは言わない。俺はダブの技法を使って、プロデュースをしているんだ。だから、ダブだけじゃなくて、フォークが好きだからフォークもやったし、ジャズ、アフリカン・ミュージック、ファンク、何でもやっている。そして、その全てにダブの技法を使っているのさ。俺たちのダンスイベントに来る人たちには、素晴らしい時間を過ごし、精神的に高揚していると感じてほしい。そして、「ああ、これは最高だ!」と心から思ってもらいたい。
間違いなく、例えば、もう亡くなってしまったけど、Jah Shaka (ジャー・シャカ)、そして Aba Shanti-I、Iration Steppas といった偉大なサウンドシステムを操るアーティストを観に行けば、彼らの音楽は神々しいほどの温もりと広がりを持って人々を魅了して、オーディエンスを恍惚とさせる。それはとても特別な、霊的な体験だと思うね。そこには何か特別な力があり、人々を集め、高揚させるんだ。その力は本当に素晴らしいと思う。今では、テクノイベントに行くと5,000人もの人々がエクスタシーでトリップしている。時には衰退することもあるけれど、それは今もなお、地球上で再発明されながら続いているんだ。そこには若者が必要だと思う。若く魅力的な男女が現れ、既存の形式に少し変化を加え、再発明する。それは確かに、ダブの技法と健全な要素を融合させたとても大きなアクションの一つだと思うね。
ースピリチュアルな瞬間を体験するためには時間がかかると思いますし、ある程度の時間、ダンスフロアに身を置かないとその体験はできませんよね。若い人たちには、そうして得られるスピリチュアルなつながりを楽しんでほしいですが、今は SNS に夢中で、音楽を楽しむ忍耐力が無い人が多いですよね。
必要なのは、ノスタルジーに浸って過去に戻り続けることじゃない。とにかく、レゲエやダンスフロアに集まる観客を育てていくしかないんだ。今の若者たちは、親や祖父母世代の音楽なんて欲しがらない。自分たちの音楽が欲しいんだ。俺が好きではないものだって、若者にとっては最高なんだよ。必要なのは、要素を愛しつつ、再発明する人物が現れること。それが起こらなければいけない。ノスタルジアは音楽の死を意味するからね。ノスタルジーに浸った瞬間、音楽は死ぬ。だから、誰かが現れてこう言う必要があるんだ。「ジャズの最高の要素、ノイズ・ミュージックやダブの最高の要素を取り入れて、全く新しいものをつくりだせ。健全なシーンを築け」ってね。集まって、助け合って、他者を助ける。無私無欲で、人々を引き寄せる何かを作る。ダブである必要はないんだ。どんな形でも構わない。世の中には、そういうものが足りないんだ。
今の時代、プレッシャーに押しつぶされ、世の中が人々を分裂させている。その狂った世界から逃げるように、自分を追い詰める人も多いかもしれない。だからこそ、どうすれば人々が助け合い、互いに優しく、素晴らしい音楽を生み出せるのかが課題であり、音楽コミュニティには優れたリーダーが必要なんだよ。彼らが立ち上がり、創作し、人々が集う場が必要なんだ。小さな部屋に閉じこもり、画面越しに誰かと話すだけの生活から抜け出して、皆が隠れることなく集う場所がね。今のイギリスにはその資金がない。そういう場は次々と閉鎖を余儀なくされ、人々は外出もビールを買う余裕すらなく、会場に入る費用も払えない。だから人々は家にこもり、ハイになって時間を浪費する。10人くらいの間で理屈を交わし、議論し、対話するという交流が、今はほとんど選択肢にないんだ。これは大きな問題であり、大きな課題。人々の中にリーダーが存在し、志を同じくする若者たちを集め、健全な活動を育む必要があると思うね。














