shintaro sakamoto
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「自分で作った気がしない」と思えるまで。坂本慎太郎インタビュー

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photography: chikashi suzuki
interview & text: hiroyoshi tomite

Portraits/

坂本慎太郎の5枚目のアルバム『ヤッホー』が発売される。前作『物語のように』から3年半が過ぎていた。今回も前作同様、坂本慎太郎バンドのメンバーを中心にレコーディングされた。70年代歌謡やサーフ、ディスコファンクを独自の配色で練り上げたサウンドに言葉が乗ったとき、言葉はタイムレスな歌として響く。ファンダムはもはや日本に留まらない。昨年はUSツアーに続き、メキシコ公演も成功させた。2017年からコンスタントにライヴを続ける坂本慎太郎バンドサウンドは、いよいよ仕上がりきっている。

その反面、「なるべく明るくしたかったんですけど、色々引っ張られて重くなっちゃったかもしれないですね」とインタビューで口をついた通り、本作から先行リリースされている「おじいさんへ」や「あなたの場所はありますか?」を聴けば、歌詞の政治性は直裁的だ。それでも、とろみを増した音像は心地よく認識にズレをきたす。身体がおのずと揺れる。踊るしかない。

アルバムのリリースに先駆けて、The Fashion Post に本作の創作姿勢とプロセスを語ってくれた。写真家の鈴木親は『まともがわからない』時期のアーティスト写真を撮影していたことや、私自身インタビューの機会が2度目ということもあってか、取材は和やかに進んだ。質問に対して煙に巻くことはなく、慎重に言葉を選びながら、ただ淡々と話してくれた。それでも、ところどころポロッと溢れる言葉やあえての沈黙から、音楽的な挑戦を続けてきた坂本慎太郎だから辿り着いた、軽やかな感慨が漂っていた。

「自分で作った気がしない」と思えるまで。坂本慎太郎インタビュー

「言いたいことは何種類もない」

—2018年にバンド編成で初めてライブをしてから、コンスタントに活動を続けているイメージがあります。生活スタイルはここ数年、変わってないですか?

そうですね。変わってないです。

—最近、何か掘っているジャンルとかはありますか?

特定のジャンルにハマっているとかはなくて。適当に目について気になったものを買ってみるとか。新譜のアナログ高いから。昔みたいに「試しに買ってみよう」みたいな感じではないです。ただ、昨年のUSツアーの時に Stones Throw (ストーンズ・スロウ) の事務所に行って。サンプル盤の倉庫で「好きなの持っていっていいですよ」と言われていっぱいもらって。いいのがいっぱいありましたね。元々好きなミュージシャンがいっぱいいるレーベルだったので、うれしかったです。

—昔のロックやディスコを聴くイメージでしたが、好みのサウンドは新譜でもあったりするですか?

新譜もちょこちょこ聴いていて。今のドラムの感じとか、違和感なく入ってくるなんかいいと思うのありますね。自分の好きな音が増えました。逆に90年代とか2000年ぐらいの方が聴けない。今の時代の曲の方がいいですね。

—他に特に思い出は。

ポートランドに初めて行ったんですけど、なんか雰囲気すごく良くて。会場の雰囲気もよかったし、なんかお客さんの雰囲気もよかったし、街もなんかおしゃれな感じで。よかったですね。

—去年はUSツアーに続いて、初のメキシコツアーも開催して。いかがでしたか?

アメリカも日本に比べるとお客さんの反応いいんですけど。メキシコはそれ以上。曲のピークでの歓声、じっくり聴く曲は集中して聴くなどメリハリのある観客で、ただ騒ぎにきている感じでもないという。

—歌詞の面でも聴いてくれている実感はありますか?

ストリーミングでは基本歌詞が見れないですが、 CDやレコードには最初から英訳の歌詞も入れていたので。日本語で合唱も起きたりして。

—ファンからのリアクションがいいと気持ちよくライブできますか?

そういうのあるかもしれないですね。やっぱり。

—昨年末の LIQUIDROOM (リキッドルーム) でのライブを拝見しましたけど、ライブアレンジが割と自由にメンバーそれぞれあったり、ソロのセクションが伸びているように感じて。坂本さんのギターも自由になっているように感じました。バンド体制はいかがですか?

同じメンバーで長くやってきてるんで、独特のノリができてきているのかもしれません。

—ホーンセクションのソロやフルートも2曲ぐらい入ってましたし。ライヴでも自由で豊かな膨らみを感じたんですけど。そのアレンジとかもみんなでやっていく中で自然と。

まずはスタジオで試してみるという。サックスに関しては全部西内さんにお任せで。ベーシックのリズムアレンジが固まったら、それを西内さんに「ここでサックスなんか入れてください」とか、「ソロ吹いて」とかその程度ですね。フルートはデモで僕の指定したフレーズがある場合と、もう丸投げで全部お任せでやってもらう場合と両方あります。

—『物語のように』から3年半経ちましたけど、どういう制作の流れだったんですか?

未だにデモはパソコンじゃなくてMTRで作ってて。一回アルバムができたら、昔のデモトラック全部捨てるんで。曲ができたらまた一から。ちょうど2024年末の LIQUIDROOM のパフォーマンスが終わった後に、メンバーにデモトラックを渡して「年が明けたらこれを練習したい」と伝えた感じですかね。その年はたくさんライヴをやったんで。1月に聴いてもらって、2~3月でバンドリハーサルをして、4月にレコーディングを開始しました。

—制作はデモを渡してからは、割とスムーズに進んだんですね。

歌詞が間に合わなくて、結局。夏からライブがあったんで本当は6月中に完パケしたかったんですけど。途中でちょっと中断して。

—そうだったんですか……。今までも結構あったんですか?

大体レコーディングが始まる時、歌詞が全部できてなくても、途中で全部揃えてたパターンなんですけど、今回は初の”歌詞待ち”になっちゃいましたね。夏のライブ後、8〜9月で仕上げたって感じです。

—今振り返ってみて、明確に歌詞が出てこない理由はありましたか?

スタートする時点で、2曲しかできてなかったんで。前は7曲ぐらいは歌詞できた状態でレコーディングに入りましたけど。

—できていたのは既に先行配信されている「おじいさんへ」と「あなたの場所はありますか?」ですかね。

そうだった気がしますね。

—書けない状態から突破口はありました?

全然。ただ一曲一曲。一曲ずつ仕上げてって、集まったらこうなったって感じですね。

—いつにも増してサーフや昭和歌謡のテイストが混ざっているように感じましたが、狙いはあったんですか?

アルバム全体として「狙い」というのはなくて。まあ、いつもの感じといえば、いつもの感じですね。

—『物語のように』では語り部として坂本さんが物語を俯瞰で語る楽曲群でした。今作は坂本さん自身の心象風景に近いものがより出てるし、シリアスな部分が顕著で。きな臭い時代に対するリアクションとしてにじみ出てるように感じました。でも反面すごい音が軽やかな分、コントラストがいつにも増して強く感じて。

ああ、そうですか。なるべく明るくしたかったんですけど……。やっぱり色々と引っ張られて、重くなっちゃったかもしれないですね。歌詞は年々難しくなってきていますね。自分で歌ってしっくりくるような、言いたいことは何種類もないですし。

ダサくても、ポロッと出てハマっちゃったら動かさない。

—唯一ポジティブというか、知らない誰かへの明確な呼びかけで終わるのが、表題曲の「ヤッホー」。象徴的なストレートさで、靄(もや)がかった後ろ暗さの中で、すごく響いてきたんですよね。この曲はどういう流れで?

歌詞がいつできたかは忘れちゃったんですけど、ポロッと「ヤッホー」という言葉が出てきて。「ちょっとダサいかな?」とも思ったんですけど。ハマっちゃったらそこから動かせなくって。で、動かしようがなくなったら、まぁそのまま行くのがいい。今までの経験上。

—サウンドに関しては、「麻痺」なんか顕著に腰が揺れるBPMとグルーヴ感が気持ちいい印象を受けました。メロディーにカチッとハマっているからこそ、頭でっかちにはならなくて済むというか。一方で歌詞の落としどころとしては、じゃあやっぱり自分の生活とか、普段身の回りで感じていることから、立ち上げていく作業をされたんですか?

何も考えないように、なるべく集中しないようにして。思ってもみなかったようなことが口からポロッと出てくる取っ掛かりを待っている感じですけど。

—集中しないように……。普通の人だといかに集中できる環境を作るか考えて生活している気もしますけど。

偶然の要素やハプニング的なものを取り込んで完成するっていうのが、いいような気がしてて。イメージが広がるとそこから考え出すのがいつものパターンで。自分の中にあるものだけで、辻褄が合いすぎても、スケールが小さくなっちゃう気がしてるんで。

—自分の想像を超えたものを待っている。

あー、そうですね。歌い出しで思ってもいないようなことを言っちゃわないか。それ待ちみたいな。歌詞を書こうと思って、机に向かうように書くと説明的になってしまうから。もちろん仕上げる時は字を見て考えるんで、最終的にまとめる時に何かしらの意味みたいなのは出てきちゃったりするんですけど。

—極力、意味を持たせたくないというのがあるんですか?

どうでしょう。全く無意味でかっこいいものができたら、それが一番かっこいいとは思うんですけど。なかなかそれを今自分が歌ってしっくりくるのか? というのもありますしね。その折り合いがつくところを探している感じですかね。

—歌詞が浮かばない時はどうやって?

ギターを弾きながら歌ってみて、2〜3回やって出ないならやめて。違うことをします。そういう状態の曲がいっぱいあって。あとは散歩したり車を運転してる時に、頭でループしてみたり。それで一行目が閃いたらその曲について考えるんですけど。

—歌い出しで、自分でも思ってもみないような言葉が出るまで粘るんですか?

ただ偶然やハプニング的なものを取り入れて作りたい。でも自分一人でやってると矛盾が生じてきてしまうので。関係のないものがバンっと入ってこないかなぁと。 YouTube の音を消して、くだらない動画を見ながらやってみたりとか。そういう意味で「集中しない」ということを言いました。絵描きの人は、描いてしっくりこない時にバチャンと絵の具をぶちまけたり、絵を逆さにしたりするじゃないですか。

—そうは言いながらも練り上げられた楽曲です。坂本さんは、何をもって完成とするのでしょうか。

最終的に自分が作ったんじゃないみたいなのがよくて。自分で作ったんだけど、なんか自分で作った気がしない、みたいになれる時があるんですよね。形がカチッとハマると。そうすると割とストレートな歌詞でも、歌える。

—『ヤッホー』はそういう作品なのかもしれないですね。

元からある曲みたいに感じられると自分の中で完成ですね。そうすると自信を持って歌える。型にハマっちゃうと、メロディーにピッタリ言葉がハマると意外と言葉が目立たなくなるというか。音になって。あんまり恥ずかしさが薄れる。けど、ちょっとズレてると、恥ずかしい。

—Leon Michels (レオン・ミシェルズ) が率いるプロジェクト El Michels Affair (エル・ミシェルズ・アフェア) の楽曲「Indifference」では、久しぶりにゆらゆら帝国時代を彷彿とさせる語りパートもあったり。自分の作品の枠を超えていくと、また違うアプローチになるんですか?

アプローチが違うかわからないですけど、人の曲だと客観的に見えるので、この曲だったらこういう言葉が乗ったらよくなりそうだな。ここにフックになる言葉がきたら、曲にインパクトが増すなとか自分なりに見えるので、そういうのは作りやすかったりしますね。自分のやつの方が難しいです。……まあ、ケース・バイ・ケースですけど。

鈴木親:インタビューを聴いていても淡々とされているなかで、坂本さんが無理することってあるんですか?

やりたくない仕事や、やったあと落ち込むような仕事は受けないように。ストレスをなるべく自分に与えないようにっていうのはあります(苦笑)。でも多少無理しないとダメですよね。一個一個乗り越えて、できたら達成感というか開放感があるんで。今回もなんとか乗り切った、という連続でここまできてるだけです。

—曲を作らず何もしない時もあるのですか?

何にもやる気が起きなくて、何にもしないという日はあります。そんなにうまく行かないことの方が多い。僕の場合、アトリエがあるわけじゃないし何時から何時までというのもないので。ごろごろして1日終わっちゃう日もありますし。でも依頼された仕事などやんなきゃいけないのがあればそれを優先させて。自分の楽曲は思いついた時にコツコツと。急にはできないんで、1年や2年かけて。曲のアイデアが溜まったらまたそこからアルバムを、という感じですね。

—今年はどういうモードですか?

モード的には今はライブも楽しいですね。海外の方の反応も含めて。ヨーロッパでも、行ったことのない街に行ってみたいです。

—変わらず楽しい気分で活動を続けてくださることを祈ります。

まあ、やりすぎるのもあれなんで。適度に。自分が飽きないように適度な本数でやっていきたいなと思ってます。

ヤッホー / 坂本慎太郎 (Yoo-hoo / Shintaro Sakamoto) 2026年1月23日(金) Digital/CD/LP/リリース

ヤッホー / 坂本慎太郎 (Yoo-hoo / Shintaro Sakamoto) 2026年1月23日(金) Digital/CD/LP/リリース