変化の時代に、映画は何を映すのか。ソフィー・マルソーに訊くいまとこれから
Sophie Marceau
photography: zero wang
interview & text: eri tsukinaga
1980年、日本でも一大ブームとなった『ラ・ブーム』に13歳で出演し、その後数えきれないほどの映画に出演してきた俳優 Sophie Marceau (ソフィー・マルソー)。名監督たちと仕事をし、ヒット作にも数々出演する彼女は、自ら監督や作家として活動するアーティストでもある。2026年3月、「第33回フランス映画祭 2026」のゲストとして来日した彼女に、主演作『LOL 2.0 (原題)』のこと、俳優としての想いを聞いた。
変化の時代に、映画は何を映すのか。ソフィー・マルソーに訊くいまとこれから
Film
—今回、フランス映画祭で上映された主演作『LOL 2.0 (原題)』は、2008年にフランスで大ヒットした『LOL 愛のファンタジー』の17年ぶりの続編で、思いがけず祖母となったシングルマザーのアンヌと、恋人と別れ実家に戻ってきた25歳の次女ルイーズの物語が、両者の世代間のギャップを交えて描かれます。この企画はどのように決まったのでしょう? 当時からいつか続編を、という話が出ていたのでしょうか?
前作の『LOL』は、フランスで本当にものすごいヒットを記録し、他の国でも大ヒットをしました。日本では劇場公開されていないんですよね? この新作を機に、日本でも2作品を一緒に公開してもらえたら嬉しいのだけど(笑)。
前作の公開当時は、この続きの話を作ろうとは誰も考えていなかったと思います。でも監督の Lisa Azuelos (リサ・アズエロス) はあの映画のあとに、『LOL 2.0 (原題)』で私が演じたアンヌと同じようなことを経験していったのです。子供が成長して一度家を出て行き、また実家に戻ってきたり。振り返ってみると、この17年間に SNS やいろんなネットワークが誕生し、私たちをとりまく環境や家族関係はものすごい速さで変わってきた。そういう今の状況を映画にしてみたい、という話がリサから生まれ、私もすぐに出演を OK しました。
—2008年から考えると、フランス映画の状況も大きく変わったんじゃないでしょうか。日本で公開されるフランス映画を見ていると、ジャンルや主題、描かれる社会状況もどんどん多様になってきているなと感じますが、ソフィーさん自身も、そうしたフランス映画の変化を感じていらっしゃいますか?
すべてのものが急激に変化していますよね。でも映画が社会の変化とともに変化していくのは当然のこと。フランス映画には本来、社会に深くコミットしていく側面があります。どうして今こういう映画を撮らなければいけないのか、社会について考えるきっかけを人に与えることが、映画にとって何より重要だと思います。
それと、これは国民性なのか、フランス人はとにかく映画が好きなんです。フランス映画に限らず世界中の映画を見ているし、大衆映画もアート映画も、ジャンルを問わず大好きなところは、今も変わっていないのかなと思います。

—『LOL 2.0 (原題)』で面白かったのが、主人公たちがパリのカフェに行く場面です。カフェのシステムや雰囲気がスターバックスのようなコーヒーショップに変わっていて、それを見たアンヌたちが「私たちの知っているパリのカフェはどこに行ったわけ?」と呆然とする。たしかに、パリのカフェはフランス映画において象徴的な場所でしたし、街の社交場というイメージを世界中の映画好きが共有してきました。こうした街の変化も、今の映画に影響を与えていると思いますか?
街の景観もそうだし、人々の世界観みたいなものが昔とは激変してきましたよね。SNS が出てきてから誰もが常時スマートフォンの画面を見ているのが普通の光景になって、見ていてちょっと怖くなるくらい。私なんて、いまだにキャッシュレス決済に慣れていないし、これだけ速くいろんなものが変化していくと、どうしたって不安を感じます。私より上の世代の人たちにとってはもっとそうでしょうね。そういう世界の変化や、混乱したシチュエーションをあえてコミカルに描こうと考えたのがこの映画だといえます。ああ、でも安心してください。たしかにパリの街は大きく変わったけれど、伝統的なカフェはまだたくさん残っていますから(笑)。
—本作では、アンヌが孫を持つことを受け入れられず戸惑う、という場面が繰り返し描かれます。「おばあちゃん」になることにこんなに動揺する女性の姿を映画で見たのは初めてな気がして面白かったです。
そういえば、私が今度映画でおばあちゃん役を演じることになったと話したら、男性の友人ふたりが「君がおばあちゃん役!? 嘘でしょ!?」とものすごく動揺していました(笑)。この映画のなかのアンヌの反応はまさにこれと同じ。彼女はまだ現役でバリバリ働いているし恋愛だって楽しんでる。だから「おばあちゃん」なんて呼ばれたくない、この状況を受け入れるまでもう少し時間がほしい、と思わずにいられないんです。監督のリサはそういう女性の反応を、ちょっと挑発的にコメディとして描いていて、私はそれがすごく面白いなと思いました。普通だったらもっと社会の視線を気にして、「孫が生まれるって本当に素晴らしいことだよね」とか「赤ん坊はなんて可愛いの」なんて言いそうなものだけど、アンヌはまったく別の反応をするわけだから。

—『LOL 2.0 (原題)』は、娘たちの世代がもたらす変化に戸惑いながら、やがて自分自身も新しい挑戦をしていく女性の話です。あなたが演じたアンヌは、長年建築家としてキャリアを積んできたけれど、子供たちから刺激を受け、幼い頃からの夢だった職業にチャレンジします。ソフィーさん自身も、俳優として活躍しながら、映画監督や作家としても活動されています。新しいことへの挑戦を、どのように捉えていらっしゃいますか?
女性は女性であるというだけでいろんなことに挑戦できる才能をもっていると思います。昔の女性は、子供を抱えながら料理をして掃除もする、なんてことを当然のようにこなしていたわけで、それだけで女性が多彩な才能を持っていることがわかるでしょう? 特に今の女性はみんな自立しているから、年齢とともに好奇心を活かせる場面や、新しいことを学ぶ機会がたくさんある。私自身、庭いじりも好きだけど文学も好きで作家活動も好きで、というように、自分の関心の赴くままにいろんなことに挑戦してきたし、今後も映画のキャリアだけでなくさまざまな変化を経験したいという好奇心があります。
—俳優としていろんな作品に出演し、さまざまな監督と仕事をしてこられたソフィーさんにとって、作品を選ぶときの基準や大事にしているものがあれば教えてください。
一番大事なのはシナリオ。シナリオを読みこの世界に入ってみたいと感じたら、出演を決めます。もちろん監督も大事な判断材料です。だから素晴らしい監督がいて良いシナリオがあるのが理想的ですが、ときには、この監督との仕事だったらシナリオを読まなくてもやろうと思える人もいます。多くはないですけど。自分がその役を人間として演じられるか、ということも大事ですね。たとえどんなに嫌な人間の役でも、何かひとつ自分自身と通じるものを感じられればやってみようと思える。ひとりの人間を演じるわけですから、その役を自分のものとして受け止め、体現できるかどうかが重要なんです。













