Stella Donnelly
Stella Donnelly

生活と歌のあいだで、ステラ・ドネリーが見つけたもの。今の彼女が語る「自分らしさ」

Stella Donnelly

photography: kai naito
interview & text: kaede wakabayashi

Portraits/

2019年に初来日した Stella Donnelly (ステラ・ドネリー) の第一印象は、チャーミングなシンガー・ソングライターだった。あの親しみやすいキャラクター、アイロニーとユーモアに富んだリリック、そしてやわらかく余韻を残す歌声。あの夏、彼女に惹かれた人は多かったと思う。社会問題やジェンダーに対して等身大の音楽で向き合う。その姿はいつも身の回りの誰かに向けて歌っているようにも見えた。

2025年、前作から3年ぶりとなるアルバム『Love and Fortune』がリリースされた。今作の中心にあるのは “友情の終わり” というテーマ。そう聞くと、喪失や痛みを真正面から描いた作品を想像するかもしれない。けれど実際に耳に残るのは、それだけではない。悲しみの只中にある声というより、その感情を引き受けたあとに残る静けさや、少しずつ自分を立て直していく感覚。優しく、寂しく、それでいて芯のある歌が並んでいる。彼女は自分自身のために歌っていた。

前作のツアー後、Stella は一度、音楽活動から距離を置くことを選んだ。自分と音楽との関係を見つめ直すためだったという。しばらくの間、彼女の Instagram に映っていたのは、友人たちと笑う姿や、雄大な自然といった身の回りの穏やかな日常だった。その時期、彼女は表立った音楽活動から離れ、夜明け前からベーカリーで働いていたそう。もしかすると、その時間のなかで “友情の終わり” も経験したのかもしれない。

今作には「いつになったら私は大丈夫になれるんだろう」と不安に揺れる瞬間もあれば、「いつかまた笑って、目を見られる日が来ればいい」という祈りのような感情も込められている。このアルバムのリリックが空疎に響かないのは、彼女がまず自分自身に誠実であろうとしているからだろう。“友情の終わり” を悲しさだけで終わらせないこと。音楽からいったん距離を置いたうえで、自分のクリエイティビティをあらためて見つめ直すこと。その過程で彼女は、ソングライティングが自分自身を確かめるための行為でもあることに気づいていったのだ。だからこそ『Love and Fortune』には、別れそのものだけでなく、そのあとを生きる時間までもが刻まれているように思える。ツアーの終わり、そして新しい季節の入口で聞きたかったのは、今の Stella が何を歌っているか以上に、どのように生きているのかということだった。

生活と歌のあいだで、ステラ・ドネリーが見つけたもの。今の彼女が語る「自分らしさ」

『Love and Fortune』のリリースからもうすぐ半年ですね。まず最初に、最近のあなたのムードを教えてください。

本当に気分が良い!  ヨーロッパを回って、そのあと日本って、ちょうど5週間のツアーを終えたところなの。ずっとツアーの生活に慣れていると、また日常に戻るのに1週間くらいはかかる気がするのよね。でも全体としては、ここにいられることが本当に嬉しいし、心から感謝しているよ。

日本はこれから夏に向かうんですが、オーストラリアはこれから冬に向かっていきますよね。不思議な感じがして想像がつかないんですが、オーストラリアの冬ってどんな感じなんですか?

日本の冬ほど寒くはないにしても、私が住んでいるメルボルンはかなり寒いの。オーストラリアには冬がないと思っている人も多いんだけど、雲がすごく低く垂れこめて、3ヶ月くらい空が見えないこともあって……。それでけっこう気が滅入るかな。でも素敵なヴェニューや居心地のいい本屋さん、映画館がたくさんあるから、カルチャーとか場所そのものがそれを補ってくれる感じだよ(笑)。

あらためて東京でのライブ、本当に良かったです。すごく心を打たれました。お誕生日も祝われていましたよね。おめでとうございます!

ありがとう!  バンドのみんなと一緒にお祝いできたのも、とても特別でユニークな体験だった!

MC では幼い頃の話を少ししていましたよね。細かい記憶そのものというより、自分はどんな子どもだったと思いますか?

親から言われたことでもあるんだけど、私はとにかくよくしゃべる子だったみたい。想像力もすごく豊かだったし、長女でもあったから、どうしても目立ちたがり屋みたいなところもあったと思う。ちょっと恥ずかしいけど、たぶん本当ね(笑)。

“目立ちたがり屋” っていうより、“チャーミング” って感じですよね(笑)。

じゃあ “チャーミング” ってことにしておこうかな(笑)。

今話している時もそうですし、ステージ上でのユーモアや佇まいもすごく印象的です。

ずっと「良いライブがしたい」って思っていて。自分の音楽を始める前は、カバーバンドとかウェディングバンドでも演奏していたから、観客をちゃんと引き込んで、楽しませることが大事だってわかっていたの。

あなたの音楽にはいろいろな感情が詰まっていますが、そういうバランス感覚は、昔から自然に身についていたものなんでしょうか?

うん。それに私が書いていた曲は悲しいものが多かったから、ステージの上には、少しでも光や喜びを持ち込みたかったの。お客さんにとって、あまりに重苦しいものにはしたくなかったんだ。

なるほど。それこそ『Love and Fortune』は “友情の終わり” を経験したことから始まったと伺いました。

別のことについてアルバムを書こうとしていた時期もあったんだけど、けっきょくそのテーマに何度も戻ってしまったから、「これはもう友情の終わりについて書くしかないな」と思ったんだ。そこから私にとってすごく興味深いテーマになっていったの。友情の終わりって恋愛の終わりより難しいと思っているんだ。自分自身の多くがその友情の中に入っているからね。

そのうえで、ソングライティングの過程がそれを乗り越える助けになったとも話していましたが、具体的にはどういうプロセスでしたか?

自分が “ある登場人物” だと思って書いていたの。本の中のキャラクターみたいに、自分の感情から少しズームアウトして、そのときの人生や経験を書いているつもりでいたんだ。このアルバムを一冊の本を書くように扱っていたのよね。各曲はそれぞれ違う章で、そのキャラクターが友情の終わりにまつわるいろんな感情をたどっていくの。ある曲は苦さについて、別の曲は悲しみ、また別の曲は希望、というように、それぞれが違う感情を扱っていったのよ。

曲を書き終えたときと、ツアーを終えた今とでは、それぞれの曲に対する感情も変わっていると思うんですが、今はその曲の意味や、自分と曲との関係をどう思いますか?

今はちょっと “嫌な時期のポストカード” みたいに感じる。退屈な旅行の絵葉書みたいな(笑)。もちろん演奏していて、そのときの感情を思い出して入っていくことはできる。でもその度に自分自身が強くなってることにも気づくんだ。曲を書いて、録音して、ミックスして、マスタリングして……ライブでやる頃には、もうその曲を何千回も聴いているわけでしょう。だから少し距離ができている感覚かな。でもライブで、お客さんがそれぞれの感情で曲を受け取ってくれるのを見ると、そこでまた繋がれるの。お客さんがどう感じているかを想像しながら、もう一度その感情に接続していく感じね。

『Love and Fortune』の制作は、自分の生き方に向き合うことだったとも思います。制作の中で、新しい自分の一面を発見したり、前より大切にするようになった習慣はありますか?

自分の直感を前より大事にできるようになった。今回はアルバムを1人でプロデュースしたんだけど、それは私にとってすごく大きな挑戦だったの。でもその分だけ “この曲に何が必要なのか” を判断する力に、前より自信が持てるようになった。それはアーティストとしても、プロデューサーとしてもね。

今まではあまり自分に自信がなかったということですか?

今ほど自分のスキルに自信があったわけでもないし、直感もそこまで信じていなかったの。若い頃って、誰かに「こうあるべきだ」って言われたら、それを信じたくなるものじゃない?

自分が良いと思っても、相手がどう受け取るかはわからない不安はありますよね。

アドバイスを受け入れたいし、頑なな人にもなりたくない。でも今はそのバランスが取れるようになった気がする。『Love and Fortune』では、今できる最高のことが出来た実感があるの。自分の強みや弱点、どこが限界なのか見えるようになったよ。

「音楽をやめてしまうかもしれないと思った時期があった」というインタビューもお見かけしました。

うん。制作前の話だけど、私は一旦ツアーをやめると決めたの。それはすごく意識的な決断で「自分がまだ曲を書けるのか。本当に書きたいのか」を確かめるためでもあったんだ。ツアーがソングライティングの邪魔になっているように感じていたからなんだけどね。それで、活動を休んでベーカリーで働き始めたの。毎朝、夜明け前に仕事に向かう生活をしているうちに、また自然と音楽を書きたいって思うようになったんだ。だからこのアルバムは、そういう生活から生まれてきたものでもあるのよね。

その状態からもう一度創作に戻れたのは何がきっかけだったのでしょうか?

大きな転機だったのは、「音楽でお金を稼ごうとするのはやめよう」って決めたことだと思う。「音楽は書く。でもお金は別の方法で稼げばいい」って思えたんだよね。その2つを無理に結びつけ続けると、クリエイティビティがうまくいかなくなるって気づいたの。私には音楽をいちばん大事なものとして置く必要があった。お金はあとから何とかなるし、オーストラリアでは普通の仕事をすればいい。そう思えたことが大きかったかな。

「燃え尽きてしまって、音楽を楽しめるかどうかもわからなくなった」とも話していましたよね。そこを経て、これから活動を続けるうえで、“もうこれは犠牲にしない” と決めたものはありますか?

アルバムに必要なだけ時間をかけることかな。急いで仕上げようとは、もう思わない。休んでみてわかったのは、休んでも大丈夫だっていうことだったから。「世界が終わるわけじゃない」ってね。私にとっては、クリエイティビティがいちばん大事だって見つめ直す期間だったのかも。

以前の制作ではかなり自分を追い詰めていたってことですか?

そう、前はね。少しスケジュールに追われていた感じはあったかな。自分がいる業界からのプレッシャーもあったし、自分自身でかけていたプレッシャーもあったんだ。「この勢いを保たなきゃいけない」だったり「活動が止まったらファンが離れる」みたいなことを、ずっと言われるし、思っていたんだよね。

そうすると休むことが怖くなってしまいますよね。

うん。活動を一度やめることは、キャリアにとってかなり大きなリスクだったかもしれない。だけど休んでみてわかったのは、時間が経ってもファンはちゃんとライブに来てくれたということだったの。待っていてくれたこと、それが本当に救いだった。「業界が言うことは間違っていたんだ」って。アーティストは、自分に必要なだけ時間をかけて、ちゃんと良い作品を作ればいいんだと思うよ。

では、それを経て今回のツアーを終えて、以前とどう感じ方が違ったか聞いてもいいですか?

今回のツアーは、本当に自分たちの力でやったことが多かったの。私自身がツアーを組んで、自分たちでマネジメントもした。それってあらためて自分に自信をくれる経験だったんだ。しかもこんなにも素晴らしいオーディエンスに恵まれていて、どのライブでもみんなが大きなリスペクトを持って来てくれたしね。だから本当に感謝しているし、心の底から満足してる。終わったばかりで、まだちゃんと消化しきれてはいないんだけど、今聞かれて初めて「わあ、すごいことだったな」って思ったよ。

―あなたは人前で歌うアーティストという外向きの面を持ちながら、日常の小さくてシンプルなこともすごく大切にしている内向きな面もあるように見えます。その2つの自分が、いちばん自然につながるのはどんな瞬間ですか?

私にとってその2つの面が繋がる場所は歌詞の中だと思う。日常の暮らしっていう私にとっての当たり前と、外向きな自分の性格が曲の中で一緒になる感じかな。今はとにかく家に帰って、不機嫌になっているだろう飼い猫にごはんをあげて、友だちと夕食を囲んで、プールで泳いでっていう日常がとても楽しみなの。そんな時間を何週間か過ごすと、またみんなの前で歌いたいって気持ちになれる気がする。そういうフェーズの繰り返しだと思うんだよね。

 

 

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今までの音楽だったり、ステージ上での発言も含めて、あなたは社会や政治的な出来事に対して、自分の誠実さや感覚を持って向き合っている人だと感じています。

ずっとパーソナルな物語と政治的な物語を混ぜ合わせてきたんだと思う。考えてみると、ずっと “組み合わせ” かな。外に向かって声を上げることもあるし、同時に曲の中に喜びや、人の繋がりを持ち込もうともしているの。

“組み合わせ” ですか?

世界中の誰でも、1人の人間の1日って退屈で単調なことの連続でもあるじゃない?  起きて、洗濯して、仕事に行って……でもニュースを見ていると、世界が終わりそうになっている。その一方で、友情もあれば恋愛もあって、誰かにときめいていたりもする。私はたぶん「人生って常にそういうものなんだ」ということを書こうとしているのかな。

音楽を聴いていても無気力になってしまうぐらい、最近は毎日悲しいニュースがありますが、音楽にできることはどんなことだと思いますか?

本当にクレイジーな世界よね。でも音楽にできることはすごく多いと思う。私は Kneecap (ニーキャップ) みたいなアーティストの大ファンなんだけど、ああいうふうに怒りを完全に解放しているアーティストは、今とても重要だと思うの。このめちゃくちゃな時代にちゃんとサウンドトラックを与えてくれるから。それに音楽で何かが変わると信じている。そこは絶対にそう。アーティストは昔から人の考え方や心を変えてきたから。どんな誰よりもね。

あなたが最初に来日してから、もうすぐ7年が経ちますね。初めて日本へ来たときに聞かれていたのと同じ質問を、このインタビューの最後にしたいと思っています。「ステラの音楽を聴いていると、“自分らしくいる” ことの大切さについて、考えさせられます。“自分らしくいる” ためにはどうしたらいいか、最後に聞かせてもらえますか?」

私にとっては周りにいる人たちが自分の中ですごく大きいんだ。その人たちが、自分がどういう人かを思い出させてくれるし、自分を地に足のついた場所へ戻してくれるから。だからその人たちに正直でいることかな。今、一番自分の中で安心や平穏を感じるのは、愛する人たちのそばにいるときなの。あとは自分の限界も含めて受け入れること。自分に優しくすること。それはすごく難しいんだけど(笑)。

『Love and Fortune』を聴いていて、同じようなことを感じました。

このアルバムのテーマでもある “友情の終わり” を経験したとき、私はすごく取り乱していたの。そのときね、ある友だちが私の肩をつかんで「私のこと好き?」って聞いてきたから、私は「うん、好きだよ」って答えたんだ。そしたら彼女は「私はあなたの鏡なんだから、ステラは自分のことも好きじゃなきゃだめだよ」って。それって本当に良いアドバイスだと感じた。私は自分の友だちのことが大好きだから、「じゃあ私はきっと悪い人じゃないんだろう」って思えたの。あのときはこの出来事が本当に助けになった。この人がこんなに素晴らしいんだから、私もきっと大丈夫なんだって。

この質問をしたかった理由は、人生のいろいろな経験をしてきて、その答えが2019年からどう変わったのか知りたかったからなんです。

そのときの私はなんて答えていたの?

正直でいること” でした。変わっていませんね。

そこはずっと変わらないね(笑)。だからこそ、このアルバムを作ったんだと思う。商業的に大きな野心があるアルバムだったとは言えないけれど、「そのときの自分がどういう人間だったか」をそのまま写したポストカードみたいな作品になって良かった。今もやっぱり “正直でいること” が私の道だからね。