「クリエイティビティは制約のなかでこそ生まれる」クレイグ・グリーンが描く、メンズウェアのその先
Craig Green
photography: piczo
text: mami osugi
独創的なアイデアと実用性を併せ持つデザインで、高い評価を集める Craig Green (クレイグ・グリーン)。2012年、Central Saint Martins (セントラル・セント・マーチンズ) の卒業コレクションで注目を集めて以来、Moncler (モンクレール) や adidas Originals (アディダス オリジナルス) といったブランドとのコラボレーションを重ね、コレクションごとに斬新なクリエイションで人々を驚かせてきた。
2023年にはファッションへの貢献により大英帝国勲章 MBE を授与。ひとつの評価軸に回収されることなく、彼の表現はなお流動的であり続ける。“注目の若手デザイナー” から、ロンドンのメンズファッションを代表する存在へと成熟を遂げた今も、ロンドン東部のスタジオでは実験的な試みが重ねられている。
今春、Dover Street Market Ginza (ドーバー ストリート マーケット ギンザ) のイベント「Open House」への参加のために来日。1階のエレファントスペースは2026年春夏コレクションの世界観で彩られ、訪れる人を彼の思考の内側へと引き込む空間に変換された。衣服を通して世界をどのように捉え、どのように再構築していくのか。本インタビューでは、その創作の哲学とブランドの現在地について語ってもらった。
「クリエイティビティは制約のなかでこそ生まれる」クレイグ・グリーンが描く、メンズウェアのその先
Portraits
ーデビューから13年になりますね。振り返って、強く記憶に残っている出来事はありますか?
あっという間のようでもあり、同時に長かったようにも感じます。特に印象に残っているのは、ブランドの節目となったタイミングですね。重要なコレクションもいくつかありました。たとえば、卒業後初のショーとなった2013年秋冬、初の単独ショーとなった2015年春夏、Fashion East や NEWGEN の支援から独立して発表した2018年春夏、そして初めてパリでショーを行った2020年春夏などが挙げられます。どれもブランドにとって非常に重要な瞬間でした。Moncler や adidas Originals との長期にわたるコラボレーションも、同じくらい記憶に残っています。過去を振り返るのは少し怖いですね。常に前を向いて進んでいきたいですが、過去を心に留めておくことも大切だと思っています。
ーブランドでは年2回のコレクションを発表していますが、現在は春夏のみパリでショーを行うスタイルが定着していますね。
はい。プレゼンテーションやショー形式での発表は年に1回と決めています。ショーになることもあれば、アートプロジェクトのような形になることもあり、そのコレクションに適した発表方法を選んでいます。ブランドには大きく2つの側面があります。ひとつはユニフォームのように機能的なメンズウェアのワードローブ、もうひとつは実験的なストーリーテリングです。ファッションショーは本来、感情に訴えかけるものであるべきだと考えています。人々を空間に招き、何かを体験してもらう以上、そこには強いストーリーが必要です。好きでも嫌いでも、すぐに忘れられてしまうより、何かしらの感情を残したいんです。そうした感情を揺さぶる場として年に一度ショーを行い、それ以外の時期はコレクションやプロジェクトを通して発信しています。
ー春夏シーズンを選んだ理由は?
単純に春夏の方が心地いいんです (笑)。すでに Craig Green はアウターウェアブランドというイメージが強く、ワーカージャケットといったシグネチャーアイテムは、秋冬向けなんです。商業的には秋冬のイメージは確立されています。一方で春夏は、より自由で、より表現的に、実験的なことができるシーズンだと感じています。コロナ以前は比較的決まったフォーマットに従っていましたが、その後はいろいろな形を試してきました。今はインディペンデントブランドとして、自分たちのやり方を定義できるタイミングにあると思っていますし、まさにそれを模索しているところです。ただ、2年後にどうなっているかはわからない。また変わっているかもしれませんね。
ーこの数年で世界を取り巻く環境は大きく変化しました。パンデミック、ブレグジット、物価高騰と、ブランドはそのなかでどう変わり、何を変えずにきましたか?
ファッションとは、その瞬間に世界で起きていることを映す鏡だと思っています。意識していなくても、創作の背景に必ず世界との対話がある。重要なのは、変化に適応しながら、自分のやりたいことに忠実であり続け、意図を持って行動すること。完全に独立したブランドであることの美しさはそこにあって、自分のやり方を選べる、変えられる。今のところはうまくいっています。
ーCraig Green のコレクションにはウェアラブルなピースとコンセプチュアルなピースが共存しています。クリエイションとビジネスの間で葛藤を感じることはありますか?
どのコレクションにも、リアリティとファンタジーの両側面が共存するべきだと考えています。実験的なことをするためには、まず伝統や現実的なものから出発し、その境界を押し広げていくことで新しいものが生まれる。とても挑戦的なものと身近なものを並べることで、互いがより引き立つこともあります。そこには、何かしら共感できる要素が必要なんです。それはおそらく、自分が最初にファッションに惹かれた理由にも繋がっています。もともとファッションデザイナーを目指していたわけではなく、彫刻家や画家になりたいと思っていました。その後、流れのなかでファッションを学ぶことになったんです。僕は、真のクリエイティビティは制約のなかでこそ生まれるものだと信じています。「何をしてもいい」と言われると、正直少し怖いんですよ。
ー毎シーズン、これまでに見たことのないものを生み出されています。これほどオリジナリティのあるコレクションを作り続ける源はどこにあるのでしょうか。
毎シーズン、違う入り口から始まります。多くの場合は素材やテキスタイルの実験がきっかけになります。コレクションを作る過程では、いろいろな参照が同時に進んでいて、その感触も毎週のように変わっていく。すごく感情に導かれたプロセスなんです。
ー2026年春夏もかなりユニークでした。The Beatles (ザ・ビートルズ) に着想を得たそうですが、彼らのどんな側面に惹かれたのですか?
The Beatles をベースにしていますが、音楽やファッションそのものではなくて、あれほど若くして、短い期間で大きなことを成し遂げたという事実に興味がありました。若さの可能性というか、自由を与えられたときに若い人たちが何を生み出せるのか。そのエネルギーに着目しました。ブランドではユニフォームや集団的な服装というテーマを軸にしていますが、現代は個性を大切にする個人主義的な時代。同じ髪型、同じ服装で同じ美学を共有する4人が集団として力を持つという The Beatles のあり方は、今の時代では珍しいものになりました。
また、60年代後半から70年代初頭のイギリスでは、“ハーベストイエロー (収穫の黄色)” が時代の色とされていました。黄色はポジティブな色とされているけれど、黄色い部屋では人が口論しやすく、赤ちゃんもよく泣くという研究もある。その対立的な性質が面白いと感じました。
ーサイケデリックなイメージのある鮮やかなプリントも印象的です。
グラフィックの多くは、ヴィンテージショップで集めた古いベッドシーツからインスパイアされています。考えてみると、ベッドシーツって不思議なものですよね。ホテルで見知らぬ人が使ったシーツには抵抗なく寝るのに、その人の下着を共有するとなったら絶対に嫌だと感じる。どちらも同じくらい肌に近い、親密なものなのに。そして人は眠るとき、最も無防備な状態になる。だからベッドシーツは、ある種の保護の層でもあるんです。
ー確かに面白い視点です。モデルの口から出ていた布の役割は何ですか?
現代美術家・Matthew Barney (マシュー・バーニー) の映像作品集『The Cremaster (クレマスター)』サイクルに登場する口のなかの布にずっと魅了されてきました。あの作品では暴力的な文脈でしたが、今季はベッドシーツを噛むような感覚、安らぎを求めるような感じを出したかったんです。また、エクトプラズム (人間の霊魂が実体化し口などから流出するとされる超常現象) のようにも見えて、かつて降霊術師が偽の写真を作っていたときのような、霊体が体から出てきているような奇妙さがある。あの時代はホラー映画の重要な時期でもありました。こうして様々なアイデアが積み重なって、最終的にはひとつの意味を成していくんです。
ー目をぎらっと光らせるアイコニックな LED グラスのアイデアはどこから?
The Beatles と LSD にリンクしていて、当時の人たちが覚醒して未来を見ているような、ダークでありながらポジティブな感覚を出したかった。実はあのライトはドールハウス用の電球を使っているんです。ドールハウスの世界を見ているような感覚が気に入って、それが全体のテーマとも繋がっています。もちろん薬物を勧めているわけではなくて (笑)、あの時代の自由な若いエネルギーを表現したかったんです。
ー今はどのようなチームの体制で動かれていますか。ロンドンのアトリエはどんな環境ですか?
いつも実験を繰り返しています。ミシンやパターン用のテーブルがあるアトリエのスペースと、インスタレーションや彫刻を作るための制作スペース。フルタイムで13人のチームで、PRとセールスは外部ですが、それ以外は全部内部で。小さい会社なのでみんなが多くの役割を担っていて、インスタレーションの制作が忙しくなれば経理担当者までも一緒に作ったり、塗ったりしますね。それが一体感に繋がっていて、チームワークを発揮させるんです。
ーブランドのロゴである「○」には、どのような意味が込められているのでしょうか。
たくさんの意味を持っています。仲間が集まるサークルやワークフォースのような、人々の集団を示すものでもありますし、決して完成することなく、アイデアが循環していくという感覚も表しています。また、ホラー映画で魔除けとして床に塩で円を描くような、バリアのようなイメージもあります。太陽や月といったモチーフへの興味もあって、2018年春夏の「パラダイス」コレクションではそうした要素も探求しました。”何かを加えるというよりも、何かを取り除く” というニュアンスを感じられるところも気に入っています。こうした複数の意味が重なり合って、ブランドコンセプトをよく表していると思っています。
ー今後の目標を教えてください。ウィメンズウェアへの拡大など、新たなカテゴリーへの展開は考えていますか?
好きなことを、好きな人たちと一緒にできていることへの感謝を忘れないことが一番大切だと思っています。朝目が覚めて、創作へのエネルギーを感じられる。クリエイティブな人間として、それ以上に望むことはあまりないですよね。今後も強いアイデンティティを持つブランドとのコラボレーションも、これからも取り組んでいきたいですし、いつかはウィメンズにも挑戦したいと思っています。今までのブランドのストーリーは、男性であることとは何かという問いに深く根ざしていて、「男性的とは何か」「男であることの脆さとそのなかの強さ」が軸にありました。なので、ウィメンズを始めるとしたら、メンズとは新たな異なる哲学が必要です。実はそれが面白い探求になると思っていて、密かな楽しみでもあります。
ーもし今後、他のブランドのクリエイティブ・ディレクターに打診されたら、検討されますか?
もしオファーをいただけるとしたらとても光栄なことですが、ブランドとの相性が何より重要だと思います。関わるすべての人にとって良い結果になってほしい。正しいタイミングで、適した環境やチームが揃っていること。そして、なぜ自分がそれを引き受けるのかという意味や感覚に納得できること。そのすべてが整っていることが大切だと思います。
ーいつかそのタイミングが訪れることを楽しみにしています。














