Simon Holloway
Simon Holloway

「スタイルとは自信から生まれるもの」。サイモン・ホロウェイが紡いできたダンヒルの美学

Simon Holloway

photography: utsumi

Portraits/

dunhill (ダンヒル) のクリエイティブ・ディレクターに就任し、ファーストコレクションを発表してから約2年。その「原点回帰」をテーマにした Simon Holloway (サイモン・ホロウェイ) らしいクリエイションはメンズファッション史において、鮮烈な印象を残した。正統派のテーラリングを中心としたスタイルにわずかな色気を添える、そんな紳士像は今でも確かな説得力を放つ。

真の “英国らしさ” を形作る、普遍性と実用性、そして男性的なエレガンス。dunhill の確固たる世界観を受け継いでいく者として、彼はこの2年間、どんな想いで服と向き合ってきたのか。ブランドへ注ぐ内なる想いを話してくれた。

「スタイルとは自信から生まれるもの」。サイモン・ホロウェイが紡いできたダンヒルの美学

—— クリエイティブ・ディレクターに就任され、最初のコレクションが発表されて約2年が経ちました。これまでの道のりを振り返ってみていかがですか? 

振り返ってみると、非常に実り多く、充実した期間でした。就任当初、dunhill というブランドが持つ真に豊かな歴史を目の当たりにし、その重みを感じていました。 だからこそ、何かを刷新することではなく、まずはアーカイブや職人たちの声に耳を傾け、メゾンに人生を捧げてきた人々から学ぶことを大切にしました。最も記憶に残る瞬間のひとつは、ロンドンの街・ウォルサムストウにある私たちのレザー工房で過ごした時間です。何世代にも渡って同じ製法で作られ続けてきた製品を目にすると、既存のものに対する深い敬意の念が湧いてきます。そこで、自分の役割はその歴史を上書きすることではなく、新たな一章を書き加えることなのだと気づいたのです。

この2年間を通して確信を深めたのは、「dunhill の強みはその揺るぎない “オーセンティシティ (本物らしさ) ” にある」ということです。私たちが生み出してきたものはすべて、別の何かになろうとすることではなく、自分たちは何者なのかを深く理解することから生まれています。それこそが、この歩みのなかで最も大きな喜びだったと思っています。

—— 服作りの現場では、デザインチーム、職人、パタンナーはどのように協力し合ってコレクションを制作していますか?

それは継続的な対話の積み重ねです。私たちは多くの時間を費やし、プロポーションや構造、素材、そして手にしたときや、身にまとったときの感触について話し合います。最良のアイディアは、そうした対話のなかから生まれることも少なくありません。 職人たちが私たちに新しい視点での思考を促すこともあれば、逆に私たちが彼らに新たな可能性の探求を促すこともあります。私は、デザインとクラフトマンシップを別の領域だとは考えていません。それらは完全に結びついているものです。それぞれが専門知識を持ち寄ることで、一人では決して到達できない豊かなものづくりが実現するのです。

—— Ralph Lauren (ラルフ ローレン) や AGNONA (アニオナ) といった名だたるブランドでご活躍されてきましたが、Simon さんのクリエイティブな取り組みの根底には常に「ジェントルマン」という概念があるように感じます。キャリアを通じて常に大切にしてきた信条はありますか?

私は目新しさだけを追い求めるということにはあまり価値を感じません。それよりも、何年経っても人に愛され続けるものを作りたいと常に考えてきました。 また、優れたデザインは観察から始まるということも信じています。人々がどのように暮らし、何を身につけ、どのように動き、何を本当に必要としているのかを観察すること。そして、美しいデザインと卓越したクラフツマンシップを通じて、そうした日常の所作をより豊かなものへと昇華させるのです。

私にとってジェントルマンとは、年齢や職業で定義されるものではなく、「その人のあり方」です。好奇心、寛容さ、傲慢さのない自信、そして品質への敬意を持つ人。もし私たちの仕事がこれらの資質を反映していれば、正しい方向へ進んでいると言えるでしょう。

—— dunhill の DNA の中心にある “Motrorities (モートリティーズ) ” を、あなたの作品ではどのように解釈し、表現していますか?

dunhill と Motoring (自動車文化) との関わりにおいて私が何より惹かれるのは、単に自動車そのものではありません。それが象徴していた進歩、発明、そして近代的な暮らしへの希望です。創業者・Alfred Dunhill (アルフレッド・ダンヒル) は、男性の移動手段が変化していることをいち早く見抜き、その新しいライフスタイルに寄り添うためのアイテムをデザインしました。その精神は、今なお非常に現代的だと感じます。現代においても、私たちの生活は進化し続けています。移動の仕方、働き方、持ち歩くものも変わります。私の役割は、本質的には Alfred の考え方と変わりません。英国ならではの “洗練” と “実用性” を保ちながら、現代の生活に向けたエレガントなソリューションを生み出すことです。私にとって Motrorities とは、究極的には「動き」そのものです。

—— dunhill は膨大なアーカイブを所有しています。過去のデザインを現代のコレクションに取り入れる際、変えるべきではない要素と、意図的に適応させる要素の境界線をどこに引いていますか?

何かを変更するかどうかを決める前に、それがなぜ存在したのかを理解する必要があると思います。dunhill には、最初から完成された美しさを備えていたからこそ、メゾンを象徴する細部のデザインとして定着したものがあります。「Alfred (アルフレッド)」バッグのハンドルはその完璧な例です。時代を超越した明瞭さとエレガンスを既に備えていたため、新たにデザインする必要性を感じませんでした。

一方で進化が重要だと考えるのは、プロポーションや軽さ、そして実用性です。現代の男性のライフスタイルは変化しています。衣服はより自由に動けるものであるべきですし、レザーグッズはデジタル時代の使い勝手に対応する必要があり、テーラリングはより軽やかな着心地が求められます。ですから、私はこの変化に対し、様々な要素を単に維持することや過去を現代風に作り変えることが最適だとは捉えていません。むしろ、オリジナルのアイディアを自然な形で生かし続けることが重要なのだと考えています。

—— Simon さんの考える dunhill における真の英国らしさとは何ですか?

私にとって英国らしさとは、「洗練」と「奇抜さ」のバランスだと考えています。英国には卓越したクラフツマンシップとテーラリングの伝統がありますが、同時に、既成概念を問い直すという素晴らしい考えも持ち合わせています。英国のスタイルは完璧さを追い求めるものではなく、「個性」を大切にするものです。それこそが dunhill を際立たせている要素だと思います。極めて高い洗練がありながらも、決して過度に堅苦しさを感じさせません。美しさと実用性、エレガンスとユーモアが共存しているのです。そして最も重要なのは、静かな自信を感じられることです。それは、目立って注目を集めようとするものではなく、確固たる個性として存在しているのです。

—— 「原点回帰」をテーマにしたファーストコレクションは、ブランドの本質を突いたクラシックなアプローチで評価されました。洗練されたクラシックとは、Simon さんにとってどのような意味を持ちますか?

私にとってクラシックなデザインとは、過去を振り返ることではありません。それは、時を超えてもその価値や魅力を失わないものを作り出すことなのです。本当に長く愛されるデザインは、驚くほどシンプルです。それは、徹底的に無駄が削ぎ落とされ必要なものだけを残した結果なのです。私にとっての洗練とは、まさにそういうことなのだと思います。親しみのあるものをベースにしながら、その本質を損なうことなく、より軽やかで、柔らかく、快適で、そして人々が心から求めたくなるようなものへと昇華させること。 本当に優れたクラシックなワードローブとは、コスチュームのように感じるものではなく、その人にごく自然に馴染むものであるべきです。

—— 日本人はクラシカルなスタイルに深い理解と敬意を持っています。そうした服を現代的に楽しむためのアドバイスはありますか?

私は常に、個々のアイテムに囚われすぎず、全体の雰囲気を意識することをおすすめします。クラシックな服も、肩の力を抜いて着こなすことでモダンな印象になります。例えば、美しいカッティングのブレザーに、柔らかな仕立てのトラウザーズを合わせる。シャツとタイの代わりにカシミヤのニットを合わせる。あるいは、リラックスした仕立ての服に、上質なローファーを合わせるといったことです。真にエレガントな男性というのは、服装選びに時間を費やしたように見えません。結局、スタイルとは複雑さからではなく、自信から生まれるものなのです。

—— クラシックなスタイルに対する Simon さんの見方に影響を与えた映画や著名な人物はいますか?

たくさんいます。私は以前から、映画『The Ipcress File (ザ・イプクレス・ファイル)』での Michael Caine (マイケル・ケイン) が見せる、控えめながらも洗練された、そのエレガンスなスタイルに憧れてきました。彼の着こなしには “本物” の雰囲気が漂っており、決して芝居がかった印象を与えません。また、Merchant Ivory Productions (マーチャント・アイボリー・プロダクションズ) 作品の世界観も大好きです。そこでは服が物語の一部となり、一着一着に歴史や質感、そして独自の個性が宿っています。

映画以外では、写真家の Cecil Beaton (セシル・ビートン) や画家の David Hockney (デイヴィッド・ホックニー) といった人物に惹かれます。彼らは皆、流行を追っているようには見えながらも、紛れもない独自のスタイルを確立していました。そうした姿勢は、今でも私にとって尽きることのないインスピレーション源です。

—— 初めて手掛けた新作のレザーコレクションに関して、特に気に入っているディテールはありますか?

私は一見しただけでは気づかないようなディテールに惹かれます。手作業でパティーナ加工 (経年変化を楽しめる仕上げ) されたカーフレザーが時間とともに深みを増していく様子が好きです。持ち主の旅に寄り添うごとに、ますますパーソナルなものになっていきます。「Alfred」バッグのハンドルも非常に気に入っています。それはメゾンの歴史と直接つながるディテールだからです。ハンドルを目にするたびに、1世紀以上前から存在し続けているにも関わらず、今なお現代的であり続けることに感銘を受けます。そうした控えめなディテールこそ、時間をかけて少しずつ発見されるものであり、私にとって最大の喜びなのです。

—— もし Alfred Dunhill が今も生きていて、Simon さんのコレクションを見たら、なんて言葉をかけられると思いますか?

彼自身の仕事を特徴づけていたのと同じ「好奇心」の精神を見出してくれることを願っています。彼は実業家であると同時に発明家でもありました。男性がどのような生き方を求めているのか先読みする、並外れた才能の持ち主でした。私たちがその価値観を尊重しつつ、メゾンが前進し続けていることを、彼も評価してくれると思います。そして、おそらく彼は「次はどうする?」と尋ねるでしょう。絶えず発明を続けるよう、彼が今も私たちを後押ししてくれる……そんな姿を思い浮かべています。

—— 最後に、dunhill の今後の取り組みや展望についてお聞かせいただけますか?

私の目指すことは、実にシンプルです。男性が心から価値を感じ、一過性のものではなく、長年にわたって愛用できるものを作り続けることです。そのためには、クラフツマンシップへの投資、英国で製造することへのこだわり、卓越した素材、そして思慮深いデザインをこれからも大切にしていきます。