M/M (Paris)
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エムエムパリスが現代に放つ「?」の引力、立ち止まるデザイン

Mathias Augustyniak (左)、Michael Amzalag

M/M (Paris)

photography: Akira Yamada
interview & text: kaori watanabe

Portraits/

Mathias Augustyniak (マティアス・オグスティニアック) とMichael Amzalag (ミカエル・アムザラグ) が1992年に結成したクリエイティブユニットM/M (Paris) (エムエムパリス)。パリを拠点にファッション、アート、音楽などの分野で20年以上にわたり、活躍を続ける2人だ。Björk (ビョーク)、Madonna (マドンナ) などのトップアーティストのアルバムジャケットや、名だたるラグジュアリーブランドのキャンペーンなどを手がけてきた。代名詞ともいわれる、抽象的かつパワフルなタイポグラフィーで LOEWE (ロエベ) のロゴを一新。2019年春夏シーズンには、MIUMIU (ミュウミュウ) とのコラボレーションライン「eMIUticons」もリリースしている。最近パリのシャンゼリゼ通りにオープンした「ギャラリー・ラファイエット」のグラフィックデザインも彼らによるもの。今回、新生渋谷PARCO (パルコ) のシンボルともいえるロゴのデザイン、オープニングの広告ビジュアルを手がけた2人に話を聞いた。

エムエムパリスが現代に放つ「?」の引力、立ち止まるデザイン

― 新生渋谷PARCOのための新しいロゴ、ビジュアルの制作について教えてください。

Mathias: 僕たちは2014年の秋冬シーズンから4年間、PARCOの広告を手がけていて、今回はさらに新しく生まれ変わる渋谷PARCOのロゴも担当しました。リニューアルし、再び、渋谷のランドマークになる渋谷 PARCOをお祝いするような気持ちを込めたんです。新しいロゴは、パルコの5つの文字、P=FASHION, A=ENTERTAINMENT, R=ART, C=FOOD, O=TECHNOLOGYという5つの要素を表現しています。PARCOは単なる商業施設を超えて多くの人が集い、インスパイアされる場所になるべき。ロゴもモダンで洗練されたものであることはもちろんだけれど、多くの層に響くよう、エモーショナルな部分、人間味が溢れる部分も加えたかったのです。だから、キャラクターとしてもキャッチーで人々に愛されるものに仕上げました。これは、商業施設のビジュアルだけれど、自然の中で撮影したことにも通ずることですね。

Michael: ファッションとは自由で遊び心に溢れたもの。誰かに見せびらかすものではなく、自分自身でその楽しさを体感することが大切だと思います。PARCOは万人にとって、自由で開かれた場所となってほしい。訪れた人が自分らしく、それぞれの方法で楽しみ方を見つけられるような新しい場所ですね。そういう想いから擬人化された、ポップなロゴが生まれました。それと同時に、新しい文字を使ったキャラクターが出現することで、PARCOが常に変化しているということに気づけてもらえることも、大切だと考えました。

― 東京では、たくさんのファンが渋谷PARCOのリニューアルオープンを待ちわびてきました。お二人の作ったロゴやキャラクターは新生渋谷PARCOの象徴として、渋谷を行き交う人々に、そして同じ道を志す若者に、たくさんの気づきをもたらしそうですね。

Mathias: アートを学んでいた学生時代は、僕自身がPARCOの広告ビジュアルが大好きで、たくさんのインスピレーションをもらっていたんです。PARCOの仕事をすることは、ゴールといっても過言ではないくらいにね。50周年という節目にキャンペーンを任されたこと、ブランディングに関わることができてとても光栄です。東京には多くの優れたグラフィックデザイナーがいて、成熟したマーケットとして保護された環境がある中で、ヨーロッパで生まれ育った僕たちが受け入れられた。そこに新しさがあり、今の時代を象徴する何かが生まれたならとても嬉しいですね。

― 90年にお2人が手がけたYohji Yamamoto (ヨウジ ヤマモト) の広告やカタログも今なお色褪せずに心に残っています。

Michael: キャリアのスタートにもなった仕事ですね。当時は日本の文化にとても興味があったものの、実は一度も来日したことがなかった。だから、あれは、僕たちの持つ東京ブランドへのファンタジーから生まれたものなんです。ヨウジからの注文は「なにか面白いものを作って」のたった一言だけ。信頼してくれて、際限なく自由を与えてくれました。ショーを見に行っただけで、仕上がるまで直接的なコミュニケーションは取らずにやった仕事なんです。

Mathias: マーケティングプランもなし、イメージボードもなし、キャスティングもなし。もちろん、SNSもなし(笑)。彼はファッションデザイナーで、誇りを持って洋服を作る。アートディレクターの僕らはショーを見て考え、想像し、彼の洋服の世界観を押し広げる。役割がはっきりと分かれていたから、両者の間にいい意味で余白というものがあった。今はメゾンのデザイナーはみんな、クリエイティブ・ディレクターを名乗り、洋服のデザインだけじゃなく、キャンペーンビジュアルも店舗展開も考えなくてはいけないですけれどね。

Mathias (左) と Michael

― たくさんのファッションブランドの広告制作に関わっていらっしゃるお二人ですが、今のファッション産業、そして広告ビジュアルについてはどう思われていますか。

Michael: SNSが主流になり、人はブランドの世界観に夢を抱き、想像することよりも、もっと直接的に自分自身で携帯電話を使って、ひとつのアイテムをいかにして手に入れるかということにシフトしていきました。それでもLOEWEもMIU MIUも、GUCCIもファッションブランドは今も昔も変わらずに、パワフルな世界観やメッセージを持っていると思います。

Mathias: 今はファッションの持つ夢が狭まってきて、確かにリアリティが重視される時代といわれていますね。でも、そもそもリアルとフェイクの境目ってなんでしょうね。今でも懐古的な写真やアナログな手法は使われているし、リアルと言ってもセットされた中で作られているものだったりしますからね。とにかく、世の中にたくさんのキャンペーンビジュアルが溢れるなかで、僕らは、ブランドの伝統や世界観に、物語性や夢をプラスできるように作っています。それは、SNSをはじめ、インターネットを使って、誰しもが簡単にアプローチできる時代だからこそ大切なことだと思います。

― M/M (Paris) のウェブサイトが驚くほど簡素な作りであることも、インターネット時代を逆手にとって意図されていることなのですか?

Mathias: そうともいえますね。今はコンタクト先があれば十分だと思いますし、あなたが疑問を持ってくれたことこそが重要なんです。「なぜ?どうして?」というクエスチョンマーク。なんでもすぐに結果や解決法に辿り着いてしまう世の中で、僕らはデザインやアートを通じて、考える時間という「余白」を作りたいと思ったからです。

― 新生渋谷PARCOをどんな風に楽しんでほしいですか。

Mathias: きっと、先ほどの「余白」の話と同じですね。ここはショッピングを楽しむだけの場所ではありません。シアターもガーデンもあり、ユニークな飲食店も立ち並び、様々なカルチャー的要素がひしめき合う、小さな街のような場所です。まさに東京ならでは、渋谷ならではの施設です。楽しい「クエスチョンマーク」が乱立する場所で立ちどまって考え、新しい価値観やインスピレーションを発見してほしいと思います。