Mona Jensen
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トムウッドの美学。モナ・ヤンセンが思い描く、伝統と革新

Mona Jensen

photography: daikichi kawazumi
interview & text: ayana takeuchi

Portraits/

ジェンダーレスに楽しめる定番のシグネットリングが瞬く間に人気となり、ファッション好きの間でお馴染みとなったノルウェー発の TOM WOOD (トムウッド)。その記念すべき国外初となる旗艦店が、11月25日に東京・青山にてオープンした。そこで、大の日本好きと語る、クリエイティブ・ディレクターの Mona Jensen (モナ・ヤンセン) が来日。日本の魅力から、ジュエリーデザインの核とも響き合うショップのコンセプト、サステイナブルへの取り組みまで話を聞いた。

トムウッドの美学。モナ・ヤンセンが思い描く、伝統と革新

―国外初の旗艦店オープンの場所を、日本に決めた理由からおしえてください。

ブランドを始める前から毎年訪れていて、常にインスピレーションをもらう場所でした。とても重要なマーケットでもあり、いつか”TOM WOOD House”を日本に持つことが夢だったので、出店を決めたことは自然な流れでしたね。

―日本のどんな点に魅了されていますか?

都内から地方まで、さまざまな場所を訪れたのですが、景色が素晴らしいですよね。それだけでなく、クラフトマンシップ、歴史、ディテールへの深い愛に、常に触発されています。クリエイターでは、安藤忠雄、山本耀司、川久保玲に影響を受けています。

―いま名前の挙がった作家から連想されるモノトーンのソリッドな世界観は、ブランドのイメージにも共鳴しますね。今日のファッションもオールブラックですが、あなたにとって黒はどんな色ですか?

いろいろ考えずに着ることができるエフォートレスな服が好き。服はあまり買わないので、このドレスは3年前のものですが、着心地が良く、どんなシーンにも寄り添ってくれるので愛用しています。黒は私にとって、キャンバスみたいなものでしょうか。

―ショップについて戻りますが、あなたのおっしゃる”TOM WOOD House”はどのように構築していったのでしょうか?

フルラインの展開となるのでマキシマムだけど、ミニマムな見え方になるよう目指しました。1階は「伝統を壊す」というテーマで、アルミニウムやスチールなどのリサイクル可能な素材を使ったコンテンポラリーな空間です。2階は「プライベートギャラリー」で、アポイントを取ってくださったお客さまがくつろいでショッピングできるスペース。ここでは、クリエイションに対する情熱をより身近に感じてもらえるような、居心地のいい空間を意識しました。

―2階のインテリアは、日本の工房や作家に特別オーダーしたものがあると聞きました。

日本のクラフトマンシップへ敬意を示して、職人の伝統技術を若い世代に継承していきたいというサステイナブルな姿勢も表明したかったんです。木製のテーブルとベンチは、ノルウェーの屋外でよく見かけるものをイメージして、石巻工房に特注したもの。切り株のスツールもスカンジナビアンにはお馴染みのもの。空間を優しく照らす提灯も昔から思い出があるもので、京都の小嶋商店に依頼しました。シェルフに飾られている陶磁器は益子焼きのコレクションです。スペースの中央には、ノルウェーのオフィスと別荘でも使用している、友人の Andreas Engesvik (アンドレアス・エンゲスヴィック) がデザインした黒のチェアを配置しました。階段を上がってすぐ左に位置するモスグリーンのウールを貼ったベンチは、北欧を拠点にする Kvadrat (クヴァドラ) が Raf Simons (ラフ・シモンズ) とともに製作したファブリックを使用したものです。それから、シルバーのチェアとサイドテーブル、鉢カバーは、山本大介に特注したもの。語り出すときりがないですが、スカンジナビアと日本のカルチャーの新旧が交差するようなスペースでお客様を迎えます。

―新旧と向き合うことが、店舗づくりにおいて大切にしているフィロソフィーなのだと解釈できました。それは、ジュエリーデザインにおいても言えることでしょうか?

そうですね。私のデザインは、昔ながらのものをブラッシュアップして新しいものに変えていく作業が多いんです。そのなかで大切にしていることとして、ミニマリズムとピュアネスも欠かせません。

―ブランドを象徴するシグネットリングは、まさに昔ながらのデザインを再解釈したアイテムですよね。この旗艦店でしか手に入らない「Mined Ring Red Garnet」について、おしえてください。

既存のシグネットリングシリーズの「Mind Ring」を、このためにアップデートしました。今までは、シルバーの地金の一部にゴールドカラーの加工を施し、ダイヤモンドを埋め込んでいたのですが、素材をラジウムに変えてレッドガーネットのストーンをあしらいました。日本文化への敬意を込めて、政治的な国旗ではなく、美しいサンセットとしての日の丸を表現しています。旗艦店では、こうしたシグネットリングに加え、アーカイブの商品を多数用意しています。そこには、9年前から大切に温めていたエクスクルーシヴなデザインもありますね。そういったアーカイビングは今後も続けていきたいと思っています。

―アーカイビングは、ブランドにとってどんな意味をもっていますか?

少し時間を置いて良いタイミングで商品化するだけでなく、売れ残った商品をリミテッドアイテムとして再販売することも予定しています。いずれも、サステイナブルなやり方でジュエリーの価値を残したいという意味合いがあります。わたしたちの商品はいつ手に取ってもタイムレスなものでありたいと考えているからこそのアプローチですね。

―HPにはサステイナブルに関するレポートを掲載していますが、循環型のクリエイションを実現するなかで、印象的なエピソードはありますか?

素材の産地を明確にすることはもちろん、JC認証を受けている工場に依頼しています。そういった透明性のレポートを毎年提出していますし、ひとりの社員が専任でカーボンニュートラルの実現に取り組む業務にたずさわっています。その取り組みが認められ、Cartier (カルティエ) や Tiffany & Co. (ティファニー) をはじめとしたジュエラーのCEOも参加するカンファレンスで、実績を発表する機会に恵まれました。お互いにインスピレーションを与え合う有意義な時間です。今年も秋に Gucci (グッチ) がホストになってイタリアで開催されました。