Blondshell
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「ただひたすら自分の精神のために」ブロンドシェルがロックで代弁してくれるもの

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photography: shono inoue
styling: hiromi toki
interview & text: mami chino

Portraits/

NY生まれ、現在はLAを拠点とする Sabrina Teitelbaum (サブリナ・タイテルバウム) が Blondshell (ブロンドシェル) として活動し始めたのは2022年。彼女は、収束の糸口が見えないパンデミックのなか、鬱蒼としてしまった自分自身を救う一心で曲作りに励んでいた。翌年、それらを集約した同名のデビューアルバムを Partisan Records (パルチザン・レコード) からリリース。その頃には既にアメリカ以外でも多くのファンを抱えるほどの人気者に。そして、今年の2月には初来日(自身にとってはアジアそのものが初となる)を果たし、単独公演を大盛況のうちに終えたところだ。

「ただひたすら自分の精神のために」ブロンドシェルがロックで代弁してくれるもの

彼女の音楽がこれだけ急激に愛されているのは、誰しもが抱えるなんとも言えない苦しさを、くっきりと浮かび上がらせてくれるからではないだろうか。「He’s gonna start infecting my life, it will hit all at once like sepsis, what if I’m down to let this kill me? (彼は私の人生を感染させる、敗血症みたいに一気に襲ってくる、これで死にたくなったらどうするの?)」ろくでもないデート相手にも好かれようとしてしまう、ある種の承認欲求の強さを描いたデビュー作「Sepsis」。その痛烈なリリックなんかも共感せずにはいられない。自分自身のありのままの姿をどう受け入れたのか、そしてきっかけをくれた”Riot Grrrl (ライオット・ガール)”のことについて話を訊いた。

—オーディエンスとの一体感を味わうために、ライブ中はギターを弾かず、歌に専念しているそうですね。今回の初来日公演で、何か感じられたことはありました?

まず日本のファンを実感できたことがクレイジーで刺激的だった。他に感じたことと言えば、アメリカとはまったくの別物ノリだったってこと。知っての通り、何もかもエクストリームなアメリカに対して、日本は一曲一曲が終わるのを待ってから盛り上げてくれる感じ。すごくおしとやかだよね。その態度がクールに思えた。

—そもそも初来日だったんですよね?

そう。着いてすぐライブハウスに向かったから、まだ実感がないんだけどね(笑)。自分の音楽との旅って思うと、人生のなかで最も大きな冒険のまっただなかにいるような気分よ。ギグで訪れた街のなかでいちばん遠い文化圏なわけだし、たくさんのことを吸収したいって思っている。

—日本以外のアジアにも興味はありますか?

もちろん!そもそもアジア自体が人生初だったからね。家に帰ったら、今度はアジアツアーを計画するつもりよ。

—では、ここからはあなたの音楽について質問をしていきます。いろんなインタビューで自身のスタイルに大きな影響を与えていたシーンとして”Riot Grrrl”を挙げていましたよね。なぜそこまで強く惹かれたのでしょうか?

ファーストアルバム『Blondshell』の制作期間中、そのシーンとの繋がりを強く感じていたからかな。幼少期に聴いていた時は、激しい内容なだけにハマれなかったんだけど、大人になってもう一度聴いてみたら、その激しさの意味をようやく理解して共感できた。Angel Olsen (エンジェル・オルセン)、The Strokes (ザ・ストロークス)、Interpol (インターポール)、最近だと Mitski (ミツキ) といったアーティストが大好きだったの。

—そうして”Riot Grrrl”から影響を受けて音楽を作り始めた時、最初に向き合ったことを教えてください。

ありのままを表現する上で、自分がどんな人かを知ることかな。意外なことなんだけど、作りたい音楽とできあがった音楽は必ずしもイコールではないんだよ。

—どういう意味でしょう?

Blondshell 名義前にポップソングを作っていた時は、とくにそのギャップを感じていた。インディーロックに傾倒しても、実際に作った音楽は思ったよりポップな仕上がりで……。なぜそうなるのか正直わからなかった。だからこそ、自分をよく知る必要があるし、ギャップを埋められるように技術的にも鍛錬を重ねる必要があった。

2024年3月にリリースされたばかりの最新曲「Docket」。本人が大ファンで、直接オファーしたという Bully (ブリー) をフィーチャー。

—では、ファーストアルバムで表現したかったBlondshellの姿とは?

あの時はコロナ禍で、すごく孤独を感じていたんだよね。人との繋がりが絶たれて、ひどい自己嫌悪に陥っていた。とにかく気分が悪かったの。そんな私を救うために作った音楽だったと言えるわね。正直、方向性やコンセプトを何も決めないまま完成させたアルバムで、ただひたすら自分の精神のために作られたものだったの。

—完成した時、とくに気分がよくなった曲はありますか?

「Sepsis」。クソみたいな日々でも超いいものを作れたっていう達成感があるから。最悪の出来事だったのに、何かプレゼントをもらった気分よ。

—今回のライブでは、Le Tigre (ル・ティグラ) の代表曲「Deceptacon」のカバーを披露してくれましたね。過去には Liz Phair (リズ・フェア) のツアーにも参加していたり、敬意を払っているシーンのアーティストと接点を持つことで、Blondshell の音楽に説得力のようなものが肉づけされている印象です。そこも意識的に表現している部分なのでしょうか?

まず女性であること、そしてロックであることは業界の体質的にタフなことなの。レコーディングやステージでの安全が約束されない環境下、80年、90年代の女性ロックバンドは負けじと精力的に活動していた。そうやって下馴らしをしてくれたお陰で私たちも活動できているってわけ。ってなると感謝しきれない気持ちになるのよ。

—その感謝の気持ちを形にするためのカバーなんですね。

そこまではっきり表現したかったわけじゃないんだけどね(笑)。ただ単純に、自分の好きなものに対してピュアな行動をしているだけというか。彼女たちの音楽が大好きだからこそ、シンプルにプレイしたかったのが第一。来日公演でも、Le tigre のことはみんな知ってそうな雰囲気だったしね! 私の曲はライブだとシリアスなムードになりがちなんだけど、あの曲はそんな空気を吹き飛ばしてくれるようなものだったなって。あ、逆に私からも質問があるの!

—なんですか!?

アメリカでは私の歌詞に共感してくれる人が多いんだけど、日本ではどうなの?とくにライブに来てくれた人って必ずしも英語が流暢なわけじゃないんだよね?そういうリスナーさんは何かフィーリングから私の音楽を気に入ってくれていたのか、それとも歌詞からなのか、どっちなんだろうと思って。

—英語がネイティブじゃない場合は、歌詞からハマることは少ないと思います。そういう時はもっと感覚的に、直感的に音楽を楽しんでいるというか、その後に歌詞を知ってより理解を深めているような気がします。

なるほど。クールだね。

—では、少しだけ話を戻しますね(笑)。”Riot Grrrl”から約30年が経過したいま、「#MeToo」を筆頭に世のなか的に少しずつではありますがフェミニズムが浸透してきています。先程、ロック業界も下馴らしがあって女性ミュージシャンが活動しやすくなっているというお話でした。では、これから先についてはどう見ていますか?

未来に希望を持っていたいから、いまよりもいい状況になっていると思いたい。でも、まだ虐げられてる人がたくさんいるのも事実で、ルックスとか、コンセプトとか、女性ミュージシャンはこうあるべきみたいなイメージを押し付けられることはいまもよくある話ではあるの。そういう固定概念は一刻も早くなくなってほしいよね。あとはアメリカのインディーロックシーンって、なぜか白人メインのジャンルなの。遠くない将来、そういう垣根もなくなって、もっと多くの人に愛されるような音楽になったらと願っているわ。

—最後に、音楽と出会えてなかったら、代わりにいまどんなことをしていると思いますか?

音楽以外のことって全然ダメで、わかんない!(笑) 本を読んだり、テレビを観たり、友達と遊ぶのは好きだよ。でも私にとっては音楽と向き合う時間が人生のほとんどなの。そんな人生でよかったって心から思っているから。