DENKI GROOVE
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無駄こそ真理なり。電気グルーヴ、35年の軌跡。

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photography: Naoya Matsumoto
styling: So Matsukawa
hair & makeup: Yoshikazu Miyamoto
interview & text: Rei Sakai

Portraits/

どれだけ時代が変わろうと、電気グルーヴの美学はいつも変わらずそこにある。言語化できない二人のバランス感は、その先を誰にも予測させず、行き止まりのない道を自由に歩いているようだ。石野卓球とピエール瀧は、この35年で何を目にし、何を守り続けてきたのか。笑いの絶えない二人の掛け合いから、電気グルーヴの輪郭を紐解いていく。

無駄こそ真理なり。電気グルーヴ、35年の軌跡。

―新作「32周年の歌」、「34周年の歌」、「35周年の歌」が発売されました。ツアータイトルは3594=三國志ですね。「誰だ!」という曲の中にも三國志が出てきますが、何か縁があるのでしょうか。

石野卓球(以下、卓球):全巻集めているのは誰だ、ね。三國志読んだことないんですよね(笑)。

ピエール瀧(以下、瀧):僕もないです(笑)。

卓球:ないんですけど、35は入れた方がいいなって。

瀧:チャットで決めました。

卓球:あと、「直木三十五」っていう直木賞の作家がいるでしょ。あの人、毎年年齢ごとにペンネーム変えていたの知ってます?「三十五」のときもあったらしくて。ただそれだとちょっとわかりづらいなっていうのと、直木先生の本を読んだことないので、まだ三國志の方がね。

―周年ソング、20周年から続いていますよね。“前髪垂らした知らないやつ”、今回も出てきて嬉しくなりました。

卓球:実は最初、シングルのCDをファンクラブの会員証にしていたんですよ。入会すると貰えるっていうやつで。それを続けてて、20周年のときに曲を作ろうっていうんで、あのフレーズを使って25周年もやったら5年ずつの刻みでやらざるをえなくなっちゃって。

―はい。

卓球:気がついたら30周年で独立したりと、いつの間にかもう5年経ってて、やらないわけにはいかないじゃないですか。35やらなくて次40ってなると、40のときうちら60なんですよ。

瀧:60オーバー。

卓球:なので、そこまでちょっと待てないっていう(笑)。

 

―ジャケットは日本の硬貨で、よく見たら1週間しかなかった昭和64年ですね。

卓球:そうなんですよ。実はあの年に僕ら結成していて。厳密にいうと4月に結成してるんで、ぎり平成なんですけど。64年の硬貨ってすごい少ないんですよね。

―そうみたいですね。

卓球:周年のときにいつもお願いしてる FrameGraphics (フレイムグラフィックス) の田中秀幸さんと話して、ジャケットどうしようかって。最初は35周年の1曲だけの予定だったんで10円玉にしようって。50円玉とかも色々アイディア出てたんですけど、10円玉が一番わかりやすいんですよね。50円玉の50って書いてある方って、実はすごいシンプルなんですよ。で、これじゃあんまりだなって話してるところで曲がまたできて来たんで、じゃそれ使いましょうって。

―32周年で500円、34周年で50円、35周年で10円玉ですね。

卓球:時間が経つごとに、だんだん価値が下がっていくっていう(笑)。

―(笑)。ミュージックビデオとディープフェイク、素晴らしい相性でした。

卓球:元々そんなようなことやってたので親和性あるんですよね。でもこれ以上AIが発達しちゃうとあんまり合わなくなってくるんじゃないかな。あれ、いくらだっけ商業用に使うの?

スタッフ:4〜5万円ぐらいですね。

―完全にAIに任せているのですか?

卓球:完全に。いわゆる呪文を入れてっていうやつなんですけど、こんなんできましたよって確認していく。なにかあればって言われるんですけど、なにかあったところで別に直しようがないっていうか。なのでそれでいいですって。委ねるの大事ですよ。

―委ね方が潔すぎて、誰もやってこなかったですよね。

卓球:適当すぎてでしょ?意外によかったっていうマイナスからのスタートで(笑)。

―おふたりの進め方やスタンスは、自然と固まっていったのでしょうか。

卓球:話し合って決めるとかはないですけど、基本的にうちらのいくつかある指針の中に、「無駄こそ真理なり」っていうのがあって。無駄な部分っていうのはみんな捨てるところだって思うと思うんだけど、無駄ほど贅沢なものはないっていう考えなので。まあその良い部分と悪い部分はあるんですけど、うちらの判断基準の中で、面白くて良い無駄っていうのはなるべく掲げてやりたいなって。ためになりたくないっていうか(笑)。

―過去のインタビューでも、面白いかどうか、自分たちが思っていることに対して反してないかどうかが軸になるとありました。お二人とも出会ったときから価値観が合う感覚はありましたか?

卓球:それもあったし、16のときからやってかれこれ40年くらい一緒にいるんで、一緒にならざるをえないっていうか。

瀧:明確に文言ができていたわけじゃないと思いますけど、高校生くらいなので。なんとなく共通で持ってる感覚を長年かけて言語化するとこういうのが残るっていうことなんじゃないですかね。

卓球:仕上がってくるにしたがって、世間からの剥離がすごいんですよ。

瀧:世間が寄ってこなかった。

―学生の頃、クラスメイトとのずれは感じていましたか?

瀧:この人(石野)とかあったんじゃないですかね。

卓球:すごい厳しい学校だったんでね、そこでこういう変わった性格が培われて(笑)。学校が狂ってたので、いわゆる普通の学校の中で1人で浮いてたっていうよりも、学校も俺も狂ってるんで、お互い相乗効果で。

瀧:割と管理する学校だったよね。いま振り返るとよくそこに3年間いたなと思いますけど。

卓球:我ながら思いますよ。たまに夢見ますもん、いまだに。また高校だっつって。

瀧:でもそこでドロップアウトするのも損だっていうのもちょっとあるよね。

卓球:懲役3年っていう(笑)。入学したときにそういう気持ちで入ったんです。校長先生が98歳とかで現役だったんで、まだその戦中戦後の教育のままの、軍隊的な感じだったんですよね。僕は軍隊から一番遠いじゃないですか、戦場で一番最初に死ぬやつですもん。

瀧:弾が飛んでるところに行かないだろ(笑)。

―瀧さんは、その頃世間とのずれを感じませんでしたか?

瀧:ずれを感じないというか、合わせることも可能みたいな感じでしたね。学校は一応進学校だったんですけど、テクノ周りで共通の知り合いがいて、彼に紹介してもらって遊びに行ったりはしてました。

―それから音楽の世界に入って、ある程度の自由はあると思いつつ、音楽業界でも管理されているような感覚はありましたか。

卓球:メジャーデビューだったからね。しかも音楽の売り方がいまと全然違ってたから。テレビ出なきゃいけないとか、タイアップとか、そういうのをやらないと売れないっていう。

瀧:アルバムが出ないとツアーはやらないとかね。ツアーはアルバムを売るためのプロモーション。

卓球:ライブギャラ0とかあったよね。ずーっと0。それ宣伝だからっていう。僕らも宣伝だと思ってたんで。

―ええ!

瀧:まあ大手のレコード会社だったっていうのもあるから、向こうのやり方で進むし僕らもそれしか知らなかった。

―そういう進め方にショッキングだったというよりは、音楽ができるしそういうことならと。

卓球:まあもちろんぶつかりはありますけどね。たとえばこの番組のタイアップに次のシングル使えるけど、歌詞を変えろとかって。でも別にね、じゃあそれでいいですよっていう感じなんですけど、いま考えるととんでもねえ話だなって。そういうのが当たり前だったから。でも最初のうちだけで、だんだんキャリア積んでくるとこっちの発言権も出てくるし。最初のうちだけでしたねそういうきついのは。

瀧:わからないしね、こっちもね。向こうもまあこんなような連中なんで、つっぱねてもあれだからある程度ここは折れておこうみたいな。

―過去の作品、もちろん音楽もそうですし、世に出すビジュアル、パフォーマンスとして自由があるようにも見えました。

卓球:自由にやってましたよ。ジャケットは、最初レコード会社に紹介されたデザイナーの人とやってて。違うってなっても締め切りがあって直しができなかったんですよ。それが最初の1枚目とかだったんで、それ以降は違うってなるならもうそっちでやれってなって、デザイナーさん探したりしてね。

瀧:ある程度デビューしてからちょっと知名度というか、寄ってきてくれる人もいるし、そこで出会った人たちもいたしね。肌感覚が合う人がいるから、次のジャケットはあの人に頼もうとかっていう提案ができるようになってくる。

卓球:人脈ができたね。

瀧:そうそう。でもそれは多分、ある程度の知名度がないとついてこないっていうのはありますね。いまみたいにね、SNSがあって直で募集できたりとか、直で自分のところにそういう人たちが集まってくるっていう手段がなかったんで。まずは出る。メディアなり、こういう取材なりに出るのが先だった。

―それこそ今回のデザイナーの田中さんとの出会いは衝撃的でしたか?

卓球:30年以上の付き合いなので、うわすげぇ!とはもうならないけど(笑)。田中さんも最初遊び友達だったもんね。

瀧:そう、元々は。

卓球:さっき言ってた通り、いまだとSNSっていう手段があるけど当時はないから、結局遊び友達になるんだよね。

瀧:人の家に遊びに行って紹介されたりとか、もうちょっとなんだろう、アナログな、肉体が伴うもの。

卓球:そっちの方がいいとは思わないですけどね。いまだったらもっと色々できるじゃないですか。

瀧:それこそ一度も顔を合わせないでものができあがるっていうことも可能だしね。

―そうですね。

卓球:それってやっぱり便利ですよ。それはそれで。

―でも肉体をともにした友達だと、

瀧:ちょっと言い方があれ…

―訂正します(笑)。物理的に時間を共にした人だと、言語外のことも伝わったりしますよね。やっぱりデジタルでコミュニケーションすると、言葉以上に伝えることが難しかったりして。

瀧:辛辣なギャグを言ったときにそれは笑うんだったか笑わないんだったか、嫌な顔するんだったかっていうのは肌感覚でわかるのはあります。でもその代わり、会わなくてもいい人に会っちゃうことはあるんですよ。

―たしかに。

瀧:その弊害はもちろんあるので、こっちが正気を保ってないと(笑)。

卓球:会わなくていい人と会っちゃうこともあるけど、こっちの出方次第でなんとかなるしね。

―いまお仕事されている方々は、30年来の方が多いですか?

卓球:新しい人もいるしそうじゃない人もいるよね。うちらの信条で、人との出会いって無理矢理つくるものじゃないっていう。関係性つくろうとすると大体いい結果生まないっていうかね。

瀧:SNSとか見ててああ面白そうだなっていう人とかはもちろんいますけど、ただそれを仕事に、コンタクトとってやってくっていうのは、なかなか腰が上がらないですね。

卓球:蛭子能収さんがいってた言葉で俺がすごい好きなのが「友達はつくるもんじゃなくてできるもの」っていう。これ前もインタビューで言ったかも、いぼ痔と同じって。

―本当そうですね。先ほど知名度というお話がありましたが、売れようと戦略的にされていたこともあるんでしょうか。

卓球:売れるに越したことないですけど、売れすぎるとコントロールできなくなるからほどほどにっていう。

瀧:売れようっていう明確なものはそんなになくて、ある程度露出とプロモーションだっていうのがあるから、たとえばラジオ番組やったり、ふたりのキャラクターが浸透してくっていうのはありましたね。

卓球:売れる部分が目的じゃないっていうか、やりやすいっていう感覚を手に入れるにはどうするかっていう。その中にある程度売れないとっていうのがあったっていう感じかな、正確にいうと。

瀧:会社の人から売れればなんでも好きなことできるって言われて、じゃあそのためにはっていうね。卵が先か鶏が先かじゃないですけど。

卓球:あんまり売れすぎるとね、やりづらくなる。これいうと負け惜しみっぽい(笑)

瀧:わざと売れなかったわけじゃない(笑)

卓球:まだ本気出してない。還暦前にしてまだ本気出してないっていう、やればできると言われ続けて40年。

―やめてください(笑)。お二人のグッズ、象徴的なものが多くていつも気になります。

卓球:元々買うのも好きなんですよ。好きなバンドのとか。コンサート見に行くと、とりあえず物販コーナーに行って、好きなやつを端から端まで全部買う。

瀧:迷ったら買っとけっていう。

卓球:そう。一期一会じゃないですか物販って。ミーハーなんで、アーティストグッズが好きなんですよね。だからこういうのあったらいいなとか、作るのも好きなんですよ。邦楽のアーティストで結構ありがちなのが、バンドのロゴだけでいいのに、変に格好つけて普段着れるやつとか狙ってるんだけど、そうじゃないっていう。ロゴを背負いたいんだっていう。

瀧:ナイキのスウォッシュがいいんだよみたいな。

卓球:物販で普段使いとか考えるんじゃない、あさましいって。なんだったら買った時点で物販の役割って終わってるから。お祭りの風船と一緒で、次の日しぼむじゃないですか。あれみたいなもんで、買うことに意義がある。

瀧:金魚掬いは、掬うことに意義があるっていう。金魚なんかどうでもいい。

卓球:帰り道捨てるんでしょ?(笑)

―おふたりは喧嘩とかされないんですか?

卓球:しますよ。長年一緒にいるからこそするというか、他愛もないことですよ。

―以前に、お化けが出る出ないで喧嘩したと。

卓球:そういう感じです本当。何かについての、お前が間違ってるに違いないという認識の元に、お互い引かないっていうところから、なんで揉め始めたとか関係なくなって、引かないお前が憎いっていう(笑)。元を正すと、何をきっかけに喧嘩になったかっていうのは関係ないんですよ。さっきの物販を買うことに意義があるじゃないですけど、揉めることに意義がある。

瀧:たまに、犬がじゃれあって噛み合ってるうちに、一瞬本気になる瞬間あるじゃないですか?あの感じ。本気で噛むなよ〜みたいな。

卓球:俺が意味なくつねって、それが痛かったとかね(笑)。まじでちょっとつねってみようかなと思って、楽屋とかで黙ってる時に、退屈だからちょっと内腿でもつねるかな〜って。

瀧:いってーなって。

卓球:こっちにしてみれば、何いてーなってマジになってるんだよっていう。こっちはレクリエーションのつもりでやってるのに、「じゃあもう一発」「よせよ!」っていう、そういう50代半ばすぎの喧嘩。

瀧:恐ろしい社会です。

―瀧さんからそういう仕掛けをすることはないんですか?

瀧:まああんまりないですね。でかいのから噛みにいっちゃいけないじゃないですか、犬界のルールとして(笑)。まずはちっちゃいのから、散々来て散々ちょっかい出して、なんかがんって来たときにワン!っていう。

卓球:それが見たいっていうのはあるかもしれない。どのへんで怒るかなっていう。

―喧嘩ができる関係、羨ましいです。

石野卓球:音楽グループって解散できるけど、友達って解散できないじゃないですか。いま絶交すると恥ずかしいっていうか、それを説明しなきゃいけないじゃないですか。昔レーベルにいた頃の事務所のお偉いさんが、お前らが解散するとしたら金か女だなって。女はないんですよ、お互い良い年で家庭もあるし。金も、一緒に事務所つくっちゃったんで金もなにもないっていうか。だからよっぽどのですよ、楽屋ぱっと開けたら俺の財布から金を抜いてたぐらいだったらもうお互いね…

瀧:いやありじゃんそんなの。

卓球:いつからやってた?っていう。むしろそこに興味がある。

瀧:1回くらいいいようにして、日が経ってからそれ言って、「あの時盗ってたの俺見てたからね」「まじでー?」っていう。

卓球:札に印つける?ちょっと見せてみって。

―それでも解散しなさそうですね。

卓球:それはしないですね。むしろ新しい側面を発見したというか、こいつ泥棒でもあったっていう。

瀧:どっちが先?泥棒が先?友達が先?

―なんというか、人間としての圧倒的な信頼なのでしょうね。それを笑いにできるのがすごい。

卓球:腐れ縁ってやつですよね。

瀧:いやちょっと、盗んでないですよ!?盗んだことになってるけど盗んでないですよ?

(一同爆笑)

卓球:まあどっちかが、仮に一方的に盗んでたとしたらだめだけど、お互い盗んでたらまあ…

瀧:プラマイゼロ。

―野望はありますか?5年後、10年後。

卓球:上場ですよ。

瀧 :知らなかったわ。

―(笑)。

卓球:たしかに上場もよくわかってないんだけどね。

瀧:会社を作るってなると、上場は絶対目指すべきっていう漠然とした情報がね。あのカランカラーンっていう(笑)。

卓球:いまだに?(笑)。まずは上場とはなんたるかっていうのをググってからですね。

―最後にひとつ、おふたりの“かっこいい”の基準が気になっていて。ださいとかっこいいの境界線には何があるのかなと。

卓球、瀧:難しいですね。

卓球:毎回同じじゃないから。ださいからかっこいいもあるしね。

瀧:いまはださいけど、後になるとちょっとよかったりとか、昔はださかったけどいまは大丈夫とか、いまかっこいいけど後ださくなるっていうことも多分いっぱいあると思う。その基準は明確にあるわけじゃないので、まあ長年のっていうところもあるでしょうし。ふたりが持ってるものも時代によってちょっとずつ変わってると思うんですよね。

卓球:ふたりとも違うしね。うちら大体ださいんですよ、基本的に嘘つくんで(笑)。普通否定したいじゃないですか、でも嘘で言ったことがそのまま世に出てるんで。それこそ新曲のMVも嘘が混ぜこぜになってますけど、それがうちらとしては楽だなっていう。

瀧:もうちょっと嘘ついたほうがいいですよ。

卓球:嘘っていうかホラです。

―いまホラ吹く人いないですもんね。

卓球:イメージだけど、嘘はよくないけどホラは許されるっていう。

瀧:ホラはおとぎ話みたいに消化できそう。

卓球:聞いてる人もまたまた、どうせホラでしょってなるじゃん。

―そうですね。若い世代が楽に生きれるヒントかもしれないです。

卓球:もっとホラ貝とか吹いたほうがいいと思います若い人たち。そこから来てるんじゃないですかね、ホラ吹くって。ブオンブオーンって。

瀧:ホラー小説でも持って。

卓球:スティーヴン・キングのね。