yayako uchida
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振り返ると、すべてが繋がっている。内田也哉子が対話するカルティエと日本

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photography: masahiro sambe
text: manaha hosoda
location: j-wave(81.3fm)

Portraits/

1974年に Cartier (カルティエ) が日本で最初となるブティックを東京・原宿にオープンしてから50年の月日が流れた現在、メゾンと日本の絆を紐解く「カルティエと日本 半世紀のあゆみ 『結 MUSUBI』展 ― 美と芸術をめぐる対話」が東京国立博物館 表慶館にて開催中だ。Cartier と日本の対話が始まったのは、さかのぼること創業家3代目 Louis Cartier (ルイ・カルティエ) がメゾンの経営に携わるようになった19世紀末。本展では、貴重なアーカイヴコレクションに加えて、日本が世界に誇る現代アーティストたちの作品が並び、Cartier と日本、そしてカルティエ現代美術財団と日本人アーティストの結びつきを、様々なストーリーとともに紹介している。膨大なコレクションが物語るのは、日本の文化と美学に対するメゾンの敬意、そしてアートへの造詣の深さだ。

振り返ると、すべてが繋がっている。内田也哉子が対話するカルティエと日本

本展に直接足を運び、新たな対話を紡いだのは、文筆家の内田也哉子。内田は今回、自身のルーツや視点を交えて、本展の魅力を解説。ナビゲーターは、クリス智子。その対話は J-WAVE(81.3FM)でスペシャルプログラム「J-WAVE SELECTION Cartier MUSUBI – Dialogue of Beauty and Art」として放送され、ポッドキャストでもアーカイヴ配信中だ。

「トリニティ」イヤリング¥500,500、ネックレス¥962,500 *日本先行発売、ブレスレット¥2,983,200 、リング¥4,118,400/以上 Cartier (カルティエ)、その他 *本人私物

メゾンのヘリテージコレクションとの対話

クリス智子(以下、クリス):美と芸術とのことですが、展覧会を見てから対話をするという企画はなかなかないですよね。

内田也哉子(以下、内田):そうですね。国立博物館の荘厳な雰囲気の表慶館で Cartier と日本の歴史、そしてその相互関係を背景としながら、現代アートの分野で Cartier との新たな歩みを築いてきた様々なアーティストが紹介されていましたね。Louis Cartier が収集した日本の古いアート コレクションも数多く展示されていて。Cartier のクリエイションに影響を与えた日本の印籠や、着物の柄、はたまた包装紙など。日常の暮らしのなかにあるものから日本の伝統美術まで多種多様なものがフランスに渡りインスパイアを与え、それらがまた新たな解釈をされ、時計やジュエリーなどにデザインとして還元される。この文化や時空を超えたダイアローグに触れられ、とても感慨深いものがありました。

クリス:そのレイヤーがとてもすごかったですよね。資料としても貴重なものでした。

内田:一生に一度お目にかかれるかかかれないか、といったものばかりでした。

クリス:Cartier の想いというか、日本美術をどのように解釈したのかが面白かったですね。印籠と似ている形なんだけれど、また別のものとして小物入れになっていたり、置き時計に変換されていたり、手鏡をモチーフにしていたり。その繊細さ、緻密さに圧倒されました。

内田:贅を尽くしたというのもそうなんですが、手仕事の素晴らしさが見て取れますよね。たくさん展示物があるのですが、ひとつひとつに向き合う時間がものすごく必要でした。

クリス:あまりにも圧倒されるのですが、もう一方で、ここからこういう発想が生まれたのか、親近感というか、興味、好奇心がとてもそそられました。

日本人アーティストによる圧倒的な作品群

内田:そしてまた博物館の左右にウィングが分かれていて、右側には Cartier のアーカイヴコレクション、そして左側にはカルティエ現代美術財団が紹介してきた日本のアーティストの作品がある。

クリス:横尾忠則さん、北野武さんも描いてらっしゃいましたね。

内田:ちょうど私がお邪魔した際に(北野武さんが)いらっしゃって、武さんはアーティストや映画監督としてももちろん素晴らしいですが、とりわけフランスから勲章をいただいているのもあってか、武さんがフランスに行くといつもモーゼの十戒のような光景が見られるんですって(笑)。今回の博物館でもそうでしたね。お客様や、迎い入れる博物館や Cartier の方々が、みなさんあがめているようで神々しかったです(笑)。そういう存在感との対比というか、敢えて作品のシリーズ名は「アート小僧」と和訳できるような遊び心満載さが武さんならではでしたね!

クリス:なんだか少年のような。

内田:パリで展示された作品は、フランスの子どもたちにも大いに楽しまれていたと小耳にはさみました。また、横尾忠則さんは以前から個人的に交流があり、アトリエにもお邪魔させていただいたり、私の著書『BLANK PAGE』でも対談させていただきました。6時間くらい2人きりで、宇宙人と交信するような(笑)。忘れ難い時間でした。横尾さんは今回、作品を展示しているアーティスト全員の肖像画を描いておられましたね。

クリス:2階(の中央部分のロタンダ)にあったのを私も見ました。

内田:どの方も特徴的でユーモアがあって、可愛いっていうか愛おしい(笑)。荒木経惟さんとか森山大道さんとか、一人一人のポートレートに愛と遊び心が溢れてました。

クリス:あのコーナーも横尾さんのさまざまなテイストが感じられましたが、ポートレートはさりげなくて温かみがありましたよね。

内田:今回展示されているものは日本のアーティストに限定されていましたが、カルティエ現代美術財団と関わりあるすべてのアーティストのポートレートも含めると200点以上あるんですよね。圧倒されました。また、写真で言うと森山大道さん、荒木経惟さん、川内倫子さんといった錚々たるメンバー。森山大道さんは本という形態そのものにも思い入れがあるそうで、スクリーン自体が大きな本の形で、そこに作品が投影されていたのが彼へのリスペクトを感じましたし、荒木さんと William Eggleston (ウィリアム・エグルストン)、森山大道さんの三人が対話をしているように展示されていたのが印象深かったです。

クリス:展示の方法にも対話が組み込まれていたのですね。

内田:そうですね。そして、アート作品側にはカルティエ現代美術財団の建物を彷彿とさせる無機質なデザインで展示棚がつくられていて、アーカイヴの方は畳が敷かれてあって日本を感じるような。その上のガラスケースに100年以上前につくられた日本の美術品と、それをインスピレーション源として実際につくられた Cartier の作品がディスプレイされていました。もう本当に盛りだくさん!(笑) インスピレーションの嵐ですよね。五感から第六感まで染み渡ってくるような……。私、まだ余韻に浸ってます。

「空間をすべて埋め尽くすオーラというか、ちょっと厳かな、でも恐れ多いという意味で鳥肌が立つような。藤棚のエネルギーがすごかったです」内田が一番印象に残っていると語ったのは、杉本博司による 「春日大社藤棚図屏風」

「空間をすべて埋め尽くすオーラというか、ちょっと厳かな、でも恐れ多いという意味で鳥肌が立つような。藤棚のエネルギーがすごかったです」 内田が一番印象に残っていると語ったのは、杉本博司による 「春日大社藤棚図屏風」©︎Cartier

世代を超えて継承していく

クリス:也哉子さんが国立博物館で着ていらしたお着物も素敵でした。

内田:ありがとうございます。あれは母が残したものなんです。母は古いものが好きだったので、あれは昭和初期のものなんですが、母から私、そして娘や息子も着回しています。古いものって職人の手仕事、手刺繍を含めて本当に感動するし、時空を超えている。そういう意味では Cartier のジュエリーなども同じように世代を超えて継承している。そんな想いを込めて古い着物を着て行きました。

クリス:今回の展示を見れば、なにかを見て素晴らしいと感じる理由に「時を超える、時代に耐えうる」といった要素があるなと感じました。

内田:今回の展覧会のタイトル「結 MUSUBI」は、ご縁が結ばれていく、というような日本独自の思想が感じられます。

クリス:温かくて良い言葉ですよね。結び、絆って。

内田:余談なのですが、私は初めて母に連れられて映画館で観た映画が Jean Cocteau (ジャン・コクトー) の『恐るべき子供たち』という作品なんです。小さすぎて覚えていないのですが、のちに母にそれを聞いてから自分の中で何かがスパークして、そこからフランス映画やフランス語が原作の本を読むようになり、とても Jean Cocteau に惹かれて。そうした時に15歳くらいの時に夫に出会うのですが、夫はもともと Jean Cocteau を敬愛するファンだったんです。彼とゆかりのあるアトリエや教会に足を運んだり、展覧会に行ったりして崇めていました。そういうところで彼と出会い、絆を深めていきました。そして Jean Cocteau は Cartier の「トリニティ」リングを二連付けしてるのが象徴的でしたし、彼が手がけた『美女と野獣』という映画の中の涙を流すシーンでは、涙を Cartier のダイヤモンドで表現したそうで、Cartier と Jean Cocteau の絆が見て取れますよね。そして、のちに私に子どもが産まれ、ロンドンに住んでいた時にパリで行われた Cartier の大きな展覧会に1時間以上並びやっと入って、そこに Jean Cocteau の「アカデミーの剣」という本の中でしか見られなかったもの実物が飾られてあり、とても感動したのを覚えています。私はJean Cocteauをきっかけにフランスに興味を持ち、高校はフランス語圏のスイスに留学に行き、大学もパリ、そして今、時を経て娘が大学院でパリに行っているんです。私の人生、振り返ると Jean Cocteau、そして Cartier と繋がっているんですよね。

「パンテール ドゥ カルティエ」トップハンドルバッグを合わせて。

オープニングイベントでは、樹木希林さんから受け継いだ着物に「パンテール ドゥ カルティエ」のトップハンドルバッグを合わせて。©︎Cartier

改めて絆について考える

クリス:今のご家族の話もそうですが、絆のようなものを感じる展覧会でしたね。相互理解をしようとする気持ちとか、果てしない時間とか。Louis Cartier さんは日本に来るのは叶わなかったけれど、あれくらい日本の美術への憧れと美しさ、尊敬をもっていらっしゃるんですね。

内田:すごいですよね。フランスに行くと日本ブームだなあと感じることはありますが、当時は簡単に行き来ができなかったからこそ、イマジネーションも無限大だったのだなということが分かりますね。だからこそ見たこともないような作品へと昇華していくという。

クリス:Cartier と日本の繋がりの深さも感じることができましたね。日本初店舗は原宿にオープンし、そこから50年。けれどももっと前からインスピレーションという意味では対話が行われていたのだなという感動もありました。この「絆」ですが、也哉子さんはこの言葉を聞いてなにを想像しますか?

内田:やっぱり見えないものではあるので不確かではあるのですが、時間をかけて人間関係を重ねていって、もしかしたら命を閉じるときに「ああ、あれが私とあの人との絆だったんだな」と気づけるものだと思います。不確かなものを育てていくという醍醐味はありますよね。それは家族だったり、もしかしたら仕事仲間であったり、いろんな絆があると思うのですが。

クリス:そうですよね。Cartier と日本という、我々が直接関わっていない絆だけれども、不確かなものゆえに感銘を受けるのかもしれないです。

内田:あと面白いなと思ったのが、カルティエ現代美術財団とコラボレーションをした日本人アーティストがとても多いということです。世界中のアーティストと比較しても、日本人アーティストが最も多いと聞きました。日本の伝統文化なのか、日本人の DNA の中で受け継がれているなにかなのか。なにか共鳴し合うものがあるのだなという驚きがありました。

クリス:改めて、そこにも気づく部分があったのかもしれません。個々のアーティスト作品はこれからも見る機会があると思うのですが、Cartierとの繋がりを集結させたような、今回の展覧会の文脈で見ると全然違うものに見えてくるのも面白かった。

内田:あと、媒体が写真であったり、オブジェであったり、アートって本当に表現方法が無限大じゃないですか。コンセプトのようなものも含めて。人間の想像力、そしてクリエイションという意味での創造力が多岐に渡ってひしめきあっているようでした。何度でも見に行きたいです。そして、子ども達にも見せたくない?大人はアートを見る視点が癖づいてしまっているけれど、まっさらな目で見る子どもたちに見せたい。宝石の持つパワーもそうだし、人間がグラフィカルに自然を取り込んで創造していく過程とか。

クリス:そのへんは今の子どもたちも面白いと思いそうですね。そしてそれがまた次の世代にどう受け継がれるんだろう。夏、7月28日まで展示が開いているので、夏休みなんかに。

内田:家族みんなでどの世代の人たちも行ってほしい。味わえると思う。

クリス:そろそろ終わりのお時間ですが、本当に話が尽きない。あっというまでした。ぜひみなさんも足を運んでみてください。

内田:じゃあ、展覧会一緒に行っちゃいます?(笑) ここで話しつくせなかったことをまた話しましょう。