冬のスタンダード、色褪せないアーカイブ。
my new wardrobe
standard vol.4
photography: wataru shimosato
edit: takuya kikuchi
TFPが注目する人々にワードローブに欠かせないアイテムの魅力を教えてもらう連載企画。今回は冬のスタイリングに欠かせない定番アイテムをメンズ3名からヒアリング。シーズンを越えても大切に取っておいたという3人のアーカイブを通して、各々のスタイルの作り方とファッションとの距離感が見えてくる。
冬のスタンダード、色褪せないアーカイブ。
「OAMCのバーシティジャケット」
recommended by
Taroimai
—OAMCのジャケットがスタンダードになった理由は?
このバーシティジャケットは2017年に Terry Richardson (テリー・リチャードソン) が東京で撮影した Valentino (ヴァレンティノ) の2018SSの広告キャンペーンのギャラで購入した、自分にとって最初の OAMC (オーエーエムシー) のアイテムです。新宿のセレクトショップ JACKPOT (ジャックポット) で購入した2017AWのもので、当時は10万円以上する服を買うのが初めてだったので、緊張しながら思い切って購入したのを覚えています。普通スタジャンの襟や袖はリブになっていることが多いのですが、これは身頃と同じメルトンで折り返すことでよりシックな見た目に。2017年のものでもシルエットがとても今っぽくて品があり、切りっぱなしの裾やボタンやジップなどのディテールも凝っていて、ひと目で「いい服」だとわかる点が気に入っています。今回同じ企画に登場されている Kosuke Adam さんもお揃いのものを持っています。ニットとブーツは2019AWの OUR LEGACY、デニムは90’sの Levi’s の 501。古着はセレクトされた古着店ではなく郊外にある普通の中古品店の古着コーナーで掘り出し物を見つけるのが好きですね。JACKPOT のオーナーの奥山達也さんや Kosuke さんなどまわりにかっこいい先輩が多いので、彼らから良い影響を受けています。撮影現場で会ったスタイリストさんや編集の方が着ているもので気になったらすぐにどこのものか尋ねますし、いいと思ったらすぐに真似して手に入れることも。あとは街行くお爺さんたちの着こなしも密かに参考にしています。彼らはいい時代を生きてきたからこそ、格安のファッションにはない上質さのあるものを綺麗に着ている方が多いですよね。
—ディレクション業などモデル以外の仕事も増えているそうですね。
6年ほどモデルとして活動する中で思ったのが、この仕事は一期一会な部分が大きく、見た目やオーラなど言ってしまえば“持っているもの勝負”だということ。その場で求められていることに対して自分が表現するものがしっかりハマれば仕事がもらえるし、ハマらなければ次の仕事はもらえない。一瞬の「かっこいいかそうでないか」で仕事が決まるのが、難しくもありエキサイティングな部分でもあると思います。国内でのモデルの仕事はフリーランスで受けているのですが、続けてきて良かったなと思うのが、撮影で関わる皆さんと自分なりのコミュニケーションを必ず取るということ。現場で会って現場で終わる撮影でも、かっこいいと思う人に服のことを訊いたり、音楽の話をしたりとできるだけ対話することを心がけてきました。元々ファッションが好きなところからスタートしてモデルをやっているので、着ている衣装が気になったり、写真に自分がこう写るんだとか、このスタイリングでこの天気ならこんな風に撮れるんだとか、カメラの奥のことも気になり始めて、最近はディレクションやスタイリングなど裏方の仕事も任せてもらえるようになりました。スタイリングは師匠について修行した経験がないので、ロケの時は車を運転したりケータリングを用意したりと今の自分にできることは何でもやって、「Taro に任せれば何とかなる」と思ってもらえるようになりたいです。
—若くして自分の中にしっかり芯が通っている印象があります。
モデルでもスタイリングでもディレクションでも、アウトプットは何でも楽しんで取り組めると思っているのですが、自分に嘘をつくことだけしないようにしています。ディレクションやスタイリングをする時にかっこいいと思えないものを妥協して作ることは絶対にしたくないですね。常に自分自身がちゃんと納得できているか考えるようにしています。自分には合わないと思っていたブランドの仕事でもやってみたら意外とハマったりして、そんな自分を俯瞰で見るのが好きだったり。経験値がまだ高くないからこそ、まず何でもやってみようという思いが大きいです。クリエイティブで0を1にすることがまだ苦手で、1を10にする方が今の自分には向いていると感じています。物事に対して否定的になることはやめて、30代になるまでは直感で興味があると思ったことには飛びついていこうと思っています。現実的なことを考えてやる前から諦めてしまうよりも、やりたいことをリストにして一つずつでもクリアしていったほうがいい。まわりのかっこいい先輩たちから学ばせてもらう部分もたくさんありますが、その一方で2000年以降生まれの自分より若い世代の、自由でオープンな考え方も見習いたいなと思っています。
Taroimai(モデル/DJ/ファッションディレクター)
「MIU MIUのロングブーツ」
recommended by
Kosuke Adam
—MIU MIU (ミュウミュウ)のメンズということは15年以上前に購入したもの?
このブーツは2007AWのアイテムで、 MIU MIU のメンズラインの最後の秋冬のアイテムです。当時はLAから日本に帰ってきて数年しか経っていない頃で、色々な東京のショップを夢中になって回っていました。その時に旧渋谷パルコの路面店のウィンドウでマネキンが履いているのを見つけて、その時のヴィジュアルマーチャンダイジングも含めてかっこいいなと強く惹かれた記憶があります。その時すぐには買えず、お店に何度も通ってインベスト(投資)する覚悟で購入した一足です。当時の MIU MIU はショッパーもかわいくて購入体験そのものが良い思い出です。それ以来毎年ではないですが、シーズンの気分が合う時にクローゼットの奥から出して履いています。頻繁に履かなかったからこそ今でもコンディションが良く、自分にとってのエッセンシャルなアイテムになりました。“インベストした服”は大事に保管しておきたいのでクローゼットの中身もどんどん増えつづけています(笑)。例えば Riccardo Tisci (リカルド・ティッシ) の頃の GIVENCHY (ジバンシィ) のレオパード柄のシャツや Hedi Slimane (エディ・スリマン) が手がけた Dior (ディオール) のデニムや SAINT LAURENT (サンローラン) のジャケットなど、当時のデザイナーをリプリゼントするアイテムは今でもアーカイブとして大切に残しています。
—どんなスタイルが自分らしいと思いますか?
オーバーサイズなものよりはある程度体のシルエットが出るものを選ぶことが多いですね。とはいえ様々なブランドのPRも担当する職業柄、“カメレオン的なファッション”でありたいとも思っています。ロックなイベントの際には Hedi Slimane の服を探し出して着たり、 PALACE (パレス スケートボード) などスケートボードのブランドの仕事もしているので、それらを取り入れたストリートなスタイリングの時も。自分らしさにあまり縛られ過ぎず、TPOに合わせてスタイリングを楽しむことも自分らしいのかなと。レザーパンツはデンマークのブランド Sunflower で、フリース素材のシャツは Brain Dead、アイウェアフレームは MYKITA で太陽光を浴びるとクリアからブルーに変色する調光レンズを入れています。シーズンによって買う服の量は変わりますが、最近はコレクションのルックを見て「半年後にこれが欲しい」と思うよりも MATCHESFASHION (マッチズファッション) や MR PORTER (ミスターポーター) などのオンラインショップでオンシーズンでアイテムをチェックすることが多くなりました。
—コロナ禍で“ファッションとの距離感”に変化はありますか?
現在は PALACE のマーケティング・PR、SNS (エスエヌエス) や Brain Dead の企画、スウェーデンのソックスブランド SOCKSSS (ソックス) の営業などを担当していて、DJとしてはイベントを主催したりしています。以前と仕事の環境は変わりましたが、その変化をできるだけポジティブに捉えようと思っています。去年の夏頃からまた着ることを楽しみたいという気持ちになって最近は派手な色や柄のあるものを選んだり素材感で遊んでみたりと、スタイリングを楽しむことでも日々のストレスを発散できることに気づきました。
Kosuke Adam(DJ/クリエイティブコンサルタント)
「NICHOLAS DALEYのBIG MAC COAT」
recommended by
山田陵太
—NICHOLAS DALEY がスタンダードになった理由は?
NICHOLAS DALEY はイギリス的なトラッドにデザイナーのルーツでもあるジャマイカンなカラーリングを合わせた、クラシックとモダンの絶妙なMIX感が好きで毎シーズン何かしら購入しているブランドです。ここ数年コレクションに登場している「BIG MAC COAT」はシーズン違いで3着持っています。今日着ているのは2019AWのもので、スコットランドの Lovat (ラバット) 社の大ぶりのオンブレチェックをのせたツイードのありそうでないファブリックが気に入っています。来日時に会ったデザイナーはキャラクターもナイスで、アウターだけでなくパンツやベスト、ハットも持っています。ジャンプスーツは2021SSの Midorikawa (ミドリカワ)、スニーカーは Reebok (リーボック) の Club C (クラブ シー)、ビーニーが Supreme (シュプリーム)、サングラスがイギリスのアイウェアブランドの Savile Row (サヴィルロウ)、グローブはカシミアの小物が得意なイギリスのブランド WILLIAM BRUNTON (ウィリアムブラントン)、バッグは JIL SANDER (ジル サンダー) です。ブランド設立時から応援している Midorikawa のジャンプスーツはチェック柄の白糸にラメが入った個性的な生地に、ひとクセあるディテールもいい。普段私服でチェック・オン・チェックのスタイリングはあまりしないのですが、今回は相性良くまとまった気がします。
—40代になって着るものや選ぶものに変化はありましたか?
年齢を重ねて趣味が変化したというより、割と早い段階で既に40代のようなマインドだった気がします(笑)。というのはその時旬に見えるものはあえて外して、長く着られるものを結果的に選んでいたから。とはいえバスケのピボットじゃないですが、10代の頃から軸足は長く着られるスタンダードなものに置きつつ、もう片足で違うゾーンにあるその時旬な服も楽しんでいます。そういう意味で言うと“軸足”としての最近の足元は、8割が定番モデルのローカットスニーカーで2割が革靴。いわゆるダッドスニーカーは履かないです。20年くらい前は誰も履いていないスニーカーを頑張って探して履くことがかっこいいとされていたけれど、今は「これを履いておけばOK」みたいな空気感がありますよね(笑)。20代の頃に買ったもので今もアーカイブとして残してあるのは70’sの CONVERSE (コンバース) や Levi’s (リーバイス) の2ndなどヴィンテージが中心です。
—仕事でのスタイリングと私服スタイリングに共通点はありますか?
私服スタイリングと仕事でのスタイリングは、ある程度距離をもたせるようにしています。仕事では敢えてオーバー気味な重ね着をさせたりもしますが、
山田陵太(スタイリスト)