hio miyazawa
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「どんな役も自分の延長」俳優・宮沢氷魚が考える等身大の“多様性”

hio miyazawa

photography: masaki sato
styling: takanori akiyama
hair & makeup: takuma suga
interview & text: taiyo nagashima

Portraits/

2010年代は、「多様性」というテーゼが表面化した時代だった。宮沢氷魚が主演を務める映画『his』は、現在の日本における”適温”でそのテーゼを描いた作品と言えるだろう。社会とのつながり、家族という共同体、そして愛情のかたち。そこには、2020年以降の新しい日常のありかたが芽吹いている。主演の宮沢氷魚は、同性愛者の男性という難しい役柄に挑む上で、何を考え、感じたのだろう。映画初主演の彼の初期衝動と、等身大の葛藤や希望、そして自らのルーツについて、ここに記録する。

「どんな役も自分の延長」俳優・宮沢氷魚が考える等身大の“多様性”

©2020 映画「his」製作委員会

©2020 映画「his」製作委員会

―初主演映画『his』は、同性愛者の2人を中心にした物語です。簡単なテーマではないと思いますが、どのような考えで演じましたか?

自分は同性愛の当事者ではないので、知っていることはごく一部。だから、「知る」ということからはじめました。調べたり、マイノリティの当事者に話を聞いたりしながら自分の過去を振り返りました。僕は幼稚園から大学までインターナショナルスクールに通っていて、身近に同性愛者の友人がいたんです。

―どんな環境だったのでしょう?

幼稚園から高校まで男子校で、思春期を迎えると恋愛の話になります。近くの女子高の誰々とデートに行ったよ、みたいな会話をする中で、何人かはその話題から少し距離を置いていました。幼稚園から一緒にいる仲間なので、明確に言葉にしなくても同性愛だということが分かるんですよね。学校ではセックスエデュケーションの授業があって、その中にはLGBTQに関する内容も含まれていました。中学2年生くらいの頃ですね。だから知識としても実感としても、多様な性のあり方が当たり前だと、僕らは思っていたんです。

―インターナショナルスクールならではのカリキュラムですね。

LGBTQ以外にもエイズ、STDs、HIVについてはもちろん、コンドームの使い方まで一から教わりました。ただ、一歩学校の外の世界に出てみると、僕らが学んできた当たり前は全然そうじゃない、ということに気づいたんです。

―ギャップを感じる瞬間が多かったですか?

マイノリティの捉え方が全く違うんですよね。根本的な教育が違うというのはもちろんあると思いますが、日本の文化や歴史が、そういった姿勢の裏にはあると思うんです。

―日本は大陸と地続きではないし、一つの国家としての歴史が長いからこそ、他国の文化と混じり合うということに慣れていないのかもしれません。

そうですね。これまでの慣習の枠を超える考え方にオープンになれない。それが日本の根本にあるのかな、と。大学生のときにアメリカへ留学したのですが、少なくとも日本よりはアメリカの方がジェンダーをオープンにしやすい、ということです。誰もがオープンにすればハッピーになれるわけではないと思いますが、その選択肢がある、ということが重要なのかなと。

―受け入れる、という姿勢がまだ日本には足りてないですよね。

足りてないですね。セクシャルマイノリティの友人が多くいるのですが、みんなめちゃくちゃいい人たちです。悩んだり、辛い経験を超えてきたからこそ、人の気持ちを理解できるんですよ。アメリカでは、マイノリティもマジョリティも、誰もが上手に手を取り合っている印象でしたが、日本では孤立している人が多いように僕には思えます。誰もが、自分に嘘をつくことなく、誰かとつながれるような空気をつくれたらいいな、という思いを『his』には込めています。

―宮沢さん自身が日本とアメリカのルーツをお持ちですが、自分自身がマイノリティだと感じた経験はありますか?

僕はクォーターなのですが、小さい頃近所の子に「火星人が来た」と言われたことを覚えています。3/4は日本人で日本語を話すし、そもそも同じ人間なのに。そのときはすごく嫌でしたね。あとは、気を遣ってくれていたんだと思うんですが、レストランでは英語のメニューを出されることも少なくありませんでした。幼い頃は今よりも、「違い」を突きつけられることに敏感になっていたのだと思います。インターナショナルスクールのコミュニティに属していたからこそ、振る舞いなど含めて日本的ではなかったのかもしれません。

―好きなカルチャーにもギャップがあったのでは?

好きな音楽なんかは明確に違いますよね。制服も派手だったし、多様な人種の子が英語と日本語を織り交ぜて会話していたから、電車ではものすごく視線を感じました。でも、高校生になったあたりで、「周りと違うのはかっこいいんじゃないか?」と考えるようになっていったんですよ。

―違いをポジティブに捉えるようになったきっかけは?

いじめられたり、仲間外れにされたりするのは、他の人にないものを自分が持っているから、という捉え方をするようになったんです。リスペクトと嫉妬や偏見は紙一重。考え方ひとつでポジティブにもネガティブにも転ぶ。だから、良い方に捉えていかないと限られた人生が勿体無いと思うんです。あとは、ファッションによって背中を押された経験もあります。僕が一番好きなブランドはポールスミスで、着るたびにオープンな気持ちになれるんですよ。ずっとシャイで、伝えたいことを伝えられずに悩んでいるときに、親からポールスミスのシャツをプレゼントしてもらったんですけど、斬新な柄や色使いが、自分の内側にある感情を外にだすきっかけになったんです。それからずっと好きですね。

―宮沢さんにとって、両親の存在が大きいんですね。

両親のおかげです。国内だけではなくて世界に目を向けることを後押ししてくれる家族で、インターナショナルスクールや留学の経験を通して、外の世界をたくさん見て、さまざまな人と出会ってきました。留学中の僕のルームメイトは、本当にお金がなくて、洋服は全部穴だらけでボロボロ。でもお金を貯めてヨーロッパを回ってボランティア活動したり、その翌年はアジアへ行ったり、そういう活動をちゃんと学校に対してプレゼンテーションして資金を出してもらってたんです。そういう経験を積んだ人が身の回りにいたからこそ、すごく考え方が変わったし、広い視野を持てるようになったのかな、と。

―そういった考えは、俳優業へどうつながっていくのでしょう?

まずはピュアな憧れの気持ちが強いですね。ドラマの世界に入ってみたいってずっと思っていました。一番最初にやってみたいと思ったのは「天才てれびくん」。画面の中で、架空の世界を作れるのがすごくいいなって。それを見て元気をもらえる人がたくさんいるわけじゃないですか。画面の中の世界に入ってみたいっていうのがきっかけです。モデルにも興味はあったんですけど、メンズノンノに入ったのは、役者になるための扉というイメージもありました。成田凌君、柳俊太郎君、後輩もどんどん活躍してくるだろうし、すごく良い環境です。

―今作『his』の主人公、井川迅(いがわ・しゅん)を演じるのは、かなり難しくありませんでしたか?どのように入り込んでいったのでしょう?

どんな役をやってもあくまで自分の延長。そういう意識でいます。迅の中にも自分と似てるポイントがあって、突き詰めて考えればどんな人物の中にも必ず自分に通じる部分があるんですよね。自分をその役に寄り添わせて、何かに迷ったら自分はどうするか?と問うようにしています。

―自分と役の共通点を橋にして、その役の方に寄り添っていく、ということですね。

そうなんです。僕は同性愛者ではないけれど、素直になれないところとか、全部自分で解決したいという考え方とか、それに伴う葛藤やイライラがすごくわかる。画面に映るのはその役だけど、演じるのは自分。うまく言葉にできない感覚なんです。ただ、みんなどこかで演じてると思うんですよね。友達といるとき、家族といるとき、恋人といるとき、人って色んな顔を持っていて、無意識に分けている。あくまで全部自分だけれど、相手や場面によって見せる顔を変えるというか。

―たとえば殺人鬼を演じることになったら、どうしますか?

これから一番やりたいのはサイコパス役なんですよ。誰にだって黒い部分はある。ホームで電車を待っているとき、ここで今一歩前に踏み出したら死ぬんだな、あっけないな、とかふと思ったりしませんか? 想像力を持つ以上、ある種の邪悪さは誰もが持っているんじゃないかな。もちろん理性があるし、そういう考えに捉われることはないですが、「演じる」という中でそういうところに触れてみたいですね。