いち経営者であり、母である。快進撃を続ける若きジュエリーデザイナー、 シャルロット・シェネ
Charlotte Chesnais
photography: eri morikawa
Interview & Text: aika kawada
“超” 構築的なデザインでありながら、身体の曲線に抗わない有機的なフォルムのジュエリーで、一躍 時の人となった Charlotte Chesnais (シャルロット・シェネ)。“コンテンポラリーなファッションジュエリー” というカテゴリーの誕生に、一役買った人物だ。鮮烈なデビューから7年を経て、アイコニックなピースから最新のコレクションまで、その人気は衰えることを知らない。コロナ渦で来日を見送っていた大の親日家である彼女が、3年ぶりに東京に降り立った。東京の後は、アートバーゼルマイアミへ向かい、イタリアのラグジュアリーブランド Loro Piana (ロロ・ピアーナ) とのコラボレーションで製作したキャンドルホルダーをお披露目するという。ジュエリーデザイナーとしてはもちろん、いちブランドの経営者としても存在感が増す彼女に、近況を伺った。
いち経営者であり、母である。快進撃を続ける若きジュエリーデザイナー、 シャルロット・シェネ
Portraits
—久しぶりの日本はいかがですか。
大好きな日本に来ることをずっと楽しみにしていました。今回の来日ではあまり時間がないなか、京都に立ち寄れたことがラッキーでした。初めて紅葉を楽しむこともできました。自然がとても豊かですし、東京とは異なる古都の様子が大好きなんです。東京でのおなじみのスポットは、KIDDY LAND (キデイランド)。子供たちのために訪れる場所なのですが(笑)。
—フランスはすっかりパンデミック後の社会だと聞きますが、現在の状況は?
パリは東京とは全く異なるムードで、パンデミックは終焉を迎えたと考えられています。私が思うに、フランス人は困難に立ち向かうことを好む人々。最初のコロナ渦の年は、とてもシリアスな雰囲気でレストランやカフェは閉まり、政府の方針もかなり厳格なものでした。そんななかでも、人々は自然の中で過ごすなど工夫をして自身を見つめ直し、時間をかけながらコロナウィルスへの対応を少しずつ理解していったのだと思います。現在の規制は厳しいものではなく、基本的には風邪と同じくらいの感覚で、重症化した場合のみ特別な処置をするものと多くの人は捉えていると思います。特にこの半年で、フランスではコロナ前の生活がほぼ戻ってきたと言っていいでしょう。
—いま、もっとも楽しみにしていることは?
自分の自由な時間。人生でもっともエキサイティングだと感じるのは、働くこと。会社の発展にもっと時間をかけたいというのは、正直な気持ちです。それと同時に、成長し続ける子供たちと一緒に過ごす時間も大好きで、かけがえない瞬間。ときに仕事と家庭のタイミングがぶつかってしまうこともありますが、人生を楽しむことがモットーなので辛いとは思っていません。日々、オーガナイゼーション、つまり物事をスムーズに進めるために、整理してバランス良く計画することが大事ですね。
—クリエイターとして刺激を感じる瞬間は?
常に、過去を敬いながら「次なるアップカミングアなもの」について考え、新しい美しいものを創作すること。自らジュエリーブランドを構え、様々なコラボレーションのプロジェクトを行えることは、とても幸福ですし誇りです。
—Charlotte Chesnais の最新コレクションについて教えて下さい。
新しいコレクションで提案しているのは、ジェンダレスなチェーンのスタイル。さらに、ルーツに立ち返るようなステートメントジュエリーも展開しています。クラシックでありながら、美しいウェーブを描くブレスレットが特徴的です。クラシックでアイコニックな Charlotte Chesnais として、タイムレスなピースを提案し続けながら、新たな取り組みも続けています。
—パールやカラーストーンなど、新しい素材を用いたアイテムも増えました。今後、使ってみたい素材は?
プレシャスストーンは特に興味深い素材のひとつです。カラーストーンやパールのシェイプなど、取り入れる素材はとても重要な要素。常に新しい素材への探求も行っています。
—2020年11月末には、パリのサントノレ地区に初のブティックもオープンさせました。
オランダ出身の建築家、Anne Holtrop (アン・ホルトロップ) に依頼しました。彼にはコロナ渦直前に出会っていたのですが、その後パンデミックの影響でオンラインのみのやりとりで進行することになり、挑戦的な試みでした。しかし、一番誇りに思っていることは、私ならではの方法でブランドを表現できたところ。当初、強く思っていたのは、いわゆるパリシックなお店ではなく、川久保玲による COMME des GARÇONS (コムデギャルソン) 、DOVER STREET MARKET (ドーバー ストリート マーケット) のような鋭い視点とジェスチャーのあるショップにしたいということ。それこそ、訪れた人が何かを体験し感じ取ることができるような空間を。Anne Holtrop がまず提案してくれたのは、お店のデザインではなく、まるで氷のようなアクリル樹脂でした。彼も私も、デザインを始めるときはデッサンではなく素材からスタートすることが共通点なんです。天板とジュエリーを収納できる巨大なアクリル樹脂を中心に、ミニマルかつどこか温度を感じる空間に仕上がりました。店内には木工職人、森幸太朗さんのスツールを置き、私が手がけたスカルプチャーもいくつか点在しています。実は2週間後には、2店舗目をパリのサンジェルマンにオープンする予定なんですよ。
—日本での出店はあるのでしょうか。
もちろん。2024年に実現できたらと考えています。東京・青山のプラダのショップの建築が好きなので、訪れるたびに自分のショップを日本で持つことへの想いが強くなります。
—デビューから7年が経過し、コンテンポラリーなジュエリーも定着したように思います。世の中のジュエリーに対する意識に何か変化を感じますか。
確かにブランドは成長しています。しかし、いまだにパリの小さなジュエリーブランドだと感じています。世にエスタッブリッシュ(確立された)なジュエリーブランドが数多く存在する中で、自分のジュエリーコレクションを毎シーズン提案し、ブランドを成長させ続けることは本当に大きな挑戦。個人的には世の中の人々がもっと、若いデザイナーや Charlotte Chesnais のようなブランドに興味を持ってくれることを願っています。ブランドとしては、今後さらに身につけることで社会的なステートメントを表すようなパワフルなピースが求められるでしょうし、その一方で、マーケットは多様性を求めています。また、昨今ではデザイナーは多くの発言、さらにブランドの世界観について言葉を求められるようになっていると思っています。
—ファッション業界はサステナビリティ、ジェンダーレス、最近ではメタバースとめくるめく価値観の進化を遂げています。デジタルと一線を引くことも、ブランドのあり方だと思いますが、メタバース空間での展開について興味はありますか。
とてもトリッキーな質問ですね(笑)。まず、サステナビリティについては、個人的にも会社としても、毎日生活する中でより良い選択ができるように、いい方法を探しながら実践するようにしています。すでに、ボックスや梱包材は見直しました。パッケージをミニマルにすることはヨーロッパでは受け入れらていますが、ときに日本のマーケットでは物足りない場合もあり、方法もひとつではありません。生産についても、フランス、一部ポルトガルとヨーロッパに限定し、最低限の移動で済むよう配慮をしています。また、パリのオフィスは、ヴィンテージの家具のみを使用していることも、自然環境に配慮した取り組みといえるでしょう。サステナビリティとメンタルヘルスについては、同じ線上で語れるのですが、正直メタバースについては若干距離を感じています。来たる未来に抗うつもりはないのですが、ブランドの DNA や価値を損なうことなく尊重でき、さらに Charlotte Chesnais をスペシャルなものにしてくれると確信したら、いつか取り入れるかもしれません。自分の哲学に誇りを持って、そういった選択も決断していきたいです。あともう少し時間が経てば、明確な答えができるかもしれないですね(笑)。
—アートバーゼルマイアミでは何をするのでしょうか。
今回、初めて訪れますが、Loro Piana とコラボレーションしたキャンドルホルダーを出展する予定です。最初、Loro Piana からオファーをいただき、クオリティやフランスでの生産、私たちのブランドへの深い理解を得られたので、このプロジェクトがスタートしました。確かにアート作品ではないのですが、彫刻とオブジェのちょうど中間のような存在だと思っています。私の新たなコレクションを多くの人に見ていただける機会を得られたことはラッキーですね。
— A.P.C (アー・ペー・セー) や Paco Rabanne (パコ・ラバンヌ) との協業はいまも続いています。パリのコミュニティで仕事をすることについてどのように考えていますか。
彼らとは10年もの付き合いがあります。自分の会社によりフォーカスしていかなくてはならないタイミングなので、協業を続けていくことも私にとってはチャレンジング。ですが、彼らと仕事をすることは、私の周りでどういった動きがあるのか、何が求められているかを知り、世の中のムードを調査できるいい機会でもあります。とはいっても異なるブランド同士なので異なる文化、カスタマー、DNA、コミュニティがそれぞれありますし、ひとつのスケジュールが遅れると、1日の予定が全て狂ってしまいます。なので、スケジュールへの配慮は私にとって絶対条件ですね。お互いをリスペクトしながら、いいバランスでパートナーシップを続けていけたらいいですね。
— SUPER A MARKET (スーパー エー マーケット) でのショップイベントには、たくさんのファンが駆けつけました。そういった方々の存在についてどう思いますか。
日本人は、好奇心とポジティブな視点を持ってコレクションを見てくれるので、日本に来る喜びのひとつです。フランス人にとっては、エキゾチックな体験なのですが、とても光栄なことだと思います。さらに、私は日本の文化やデザイン、クラフトマンシップ、さらにその根底にある哲学にとても惹かれ続けているんです。15年前にはじめて日本に来たときから、ずっと。日本の方々が私のことや私のブランドを深く理解してくれ、さらに私も日本を理解出来ることが幸せ。誰かにデザイナーだと認識されることはいつも私にとって奇妙な体験ですが、なぜか日本だととてもナイスな思い出になるんです。
—好きな日本人クリエイターは?
川久保玲、三宅一生、山本耀司。少し上の世代のデザイナーですが、私は幼い時から親しみを持って彼らの活躍を見てきました。彼らが強いイマジネーションと創造性を持って、西洋のファッションとは異なるファッションカテゴリーを生んだことをとても尊敬しています。
—今後の展開について教えて下さい。
常に前進していきたいと思っています。まずは、先ほどお話したように、日本で新たな展開をすること。それから2つ異なるカテゴリーのファインジュエリーの展開も控えているので、新しい知らせを待っていてくださいね。