yosuke kubozuka & ryuhei matsuda
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俳優、窪塚洋介と松田龍平が語る『次元を超える』瞬間

yosuke kubozuka & ryuhei matsuda

photography: daehyun im
interview & text: tomoko ogawa
hair & make up (yosuke kubozuka): shuji sato

Portraits/

揺るぎない信念をもって時代に挑み続ける映画監督・豊田利晃。<狼蘇山シリーズ>として『狼煙が呼ぶ』(19)、『破壊の日』(20)、『全員切腹』(21)と毎年作品を発表し、混沌の世界に問いを投げ続けてきた。

その集大成ともいえる最新長編映画『次元を超える』では、過去、現在、未来を駆け巡り、舞台を日本から地球へ、さらに宇宙まで広げた壮大な物語を展開。SF要素も加わり、新境地に到達した意欲作となった。

ダブル主演を務めるのは、豊田監督と長年タッグを組んできた俳優の窪塚洋介と松田龍平。本作で、危険な宗教家の家で行方不明になる孤高の修行者・山中狼介を演じた窪塚と、狼介の彼女から捜索を依頼される謎の暗殺者・新野風を演じた松田が語る、豊田組ならではの現場体験、そしてそれぞれにとっての「次元を超える」の意味とは?

俳優、窪塚洋介と松田龍平が語る『次元を超える』瞬間

—松田さんは映画『青い春』(01)、窪塚さんは『モンスターズクラブ』(11)以降、豊田監督と長い間タッグを組まれていますが、最初の出会いから今まで、関係性や現場に変化はありますか?

窪塚洋介(以下、窪塚):俺は、NTT ドコモのCMの現場が最初だったんですよね。映画の現場とは全然違ったし、かなり昔のことで自分も若かったので、当時の印象はちょっと曖昧なんです。豊田監督のデビュー作『ポルノスター』(98)の印象は強くあったけれど、実際お会いしたら結構柔和な方で。ただ内側ですごく燃えている人なので、本人と表現のギャップがある人なのかなと思いました。

松田龍平(以下、松田):豊田さんはすごく人を見てるんですよね。演出も、役者がもともと持っているキャラクターを上手く役につなげて動かしてくれるから。今回僕も、そのときにしかできない感覚を活かしてもらったという感じがしていて。

窪塚:掛け声でかいよね。

松田:現場だとパワーが漲ってますよね。まぁでも、今回は、休憩のときに倒れるように寝てるの何回か見たけど(笑)。それでも撮影はいつも楽しんでいるよね。

窪塚: 監督を支えている仲間たちも、我々も含めて、豊田監督の夢を叶えたい、現実化したい、みたいな思いがある人たちだから。そういう意味で勝手に一丸となっていますね。それに本番に入る前の掛け声に覇気というか圧があるんですよね。今まで一緒に仕事してきた人の中で、一番声に圧がある。助監さんとかじゃなく、本人がかけるし。そういう意味で、現場にエネルギーを送り込んでいる、本当に命を燃やしてるなという感じがします。

—豊田監督独自の魅力、特徴をどういうところに感じていますか?

窪塚:何より豊田監督のメッセージですよね。世の中に言いたいことや怒っていることを作品に落とし込んでいくという作業をずっとしていて、我々が代弁者となってそれを作品の中で伝えていると思っていて。だから、豊田監督と仕事をすると、自分の生き方や方向性を見つめ直さざるを得ないんですよね。それを確認して臨むことを定期的に続けてきたので。特に『全員切腹』のときは、自分の言葉なのか豊田監督の言葉なのかがわからなくなるくらい自分自身とシンクロしていて。そういう意味で、向かっている未来や今見ている世界がすごく近い人だなと思う。出会うべくしてあった類友ですね。

松田:芝居と音楽の重なり方が豊田さんの映画だなって。『次元を超える』ってタイトルなんですけど、すごくシンプルな台詞から始まって、気づいたら宇宙まで飛ばされるような感覚になって、楽しかった。

窪塚:試写を観終わって、「次元、超えてたわ」って話したね。

松田:「うん、超えたね」って(笑)。始まる前はどう映像化するんだろ?ってシーンが多かったんですね。ト書きに「宇宙に飛んでいく」って、さらっと書いてあって(笑)。ほんと、撮影が楽しみでした。豊田さんの頭の中にあるものがどう形になるんだろうって。

窪塚: めちゃくちゃ面白かったね。

松田:なんでもありな映画だから、何だかんだ制作費がかかるはずなんですけど、限られた予算の中で工夫を凝らして、宇宙までいけるんだという感動もありましたね。

窪塚: あえてデジタルに頼りすぎないことによって到達したものがある。YOSHIROTTEN (ヨシロットン) さん、樋口真嗣さん、美術の佐々木尚さんたちの力が噛み合った結果、予算の限界の次元を超えてくるものができたんじゃないかなと。佐々木さんは、Alejandro Jodorowsky (アレハンドロ・ホドロフスキー) 監督にも声をかけられて美術補をしたこともある方なんだよね。

松田:そういう意味での次元を超える、か(笑)。

窪塚:見事に鏡で超えてくるっていう(笑)。どこを見ても龍平が見えるみたいな鏡のセットの中での対峙シーンも面白かったし、わけのわからない現場でしたね。

松田:たしかに面白かったな。鏡は奥行きがでるから。六畳くらいだとしても、全面鏡にしたらものすごく広く感じるもんね。

—俳優として、豊田さんの現場をどんなふうに受け止めていますか?

窪塚:自分に対しても、誰に対してもすごく任せて委ねてくれてるので、こんなに演出しないんだと思うことは多い。でも、法螺貝の持ち方みたいな細かい演出も意外と入ったりするんだけど(笑)。

松田:豊田さんは役者が思い描いていることを自由にやれる場所を作ってくれて、余計なストレスを取り払ってくれるから、シンプルに自分がどう芝居と向き合うか、という緊張感があって。豊田さんからわかりやすく求められることは多くないから、自分なりに応えたいという気持ちになるんですよね。役者だけじゃなくて、豊田組に関わってる人間、それぞれが自分で考えながら温度を保っていて。

—豊田監督が求める俳優は、「背中に背景がある人」だそうですね。

窪塚:監督がそう思ってるから、俳優に委ねているのかもしれないですね。演技じゃないところでその背景も込みでキャスティングしてるから。その人がそこに映っていれば成立する役を当てはめているというか。

—お2人は『破壊の日』で初共演で、5年ぶり2度目の共演でしたが、お互いに対してどんな思いがありましたか?

窪塚:初共演というか、すれ違っただけだけどね(笑)。龍平は共演したい役者の筆頭にいたし、それが豊田作品で叶うという嬉しさもありましたね。纏っている空気感が、龍平にしか出せない力があるから、それと同じ画面に入っていって、一緒に仕事するというのは楽しかったですね。

松田:『青い春』を渋谷シネマライズで上映していたちょうど同じ時期に、窪塚君の『ピンポン』(02)も渋谷シネマライズで上映していて。その時の印象が強く残っていて、どちらも松本大洋先生の原作だし、同じ場所で上映していて、『ピンポン』はすごく面白かったし、そこで『青い春』の予告が流れたりしていたみたいで、「ありがとうございます!」みたいな気持ちになったりして。いつか共演したいと思っていました。たまに会うことはあったんですけどね、酒の席とか。あと『怪獣の教え』(15)も観に行ったりとか。

窪塚:飲みの席とか、仕事じゃない場所でね。近い仲間のイベントや集まりで会ったり。意外にコミュ力が高いんです。

—タイトルにちなみ、言える範囲で次元を超えた体験を教えてください。

松田: 僕は意外とゲーマーなんですけど。最近ハマってるゲームは2次元なので、ゲームのやり過ぎで、逆に次元が下がっているみたいなことはあるかもしれないですね(笑)。

窪塚:ある意味、下に超えてるんじゃない?

松田:たしかに(笑)。でも3Dのゲームもやるからね。

窪塚:ゲーム、やるんだね。

松田:最近は、小島秀夫さんの、「DEATH STRANDING 2: ON THE BEACH」が面白かったな。荒廃した世界で荷物を運ぶ配達人として、ひたすら歩くゲーム。次元、超えてますね。

窪塚:暇か(笑)。俺はいろいろあるけど一番超えたのは、やっぱりマンションから転落した事故じゃないですかね。

松田:窪塚君、それは言って良い範囲の次元を超えてない?(笑)。

窪塚:全然言っていいよ。ネタだし、もう言うのも飽きてきたし。

松田:あ、そうなんだ (笑)。

─役者という仕事を続けるうえで、既存の枠組みや概念を飛び越えることが求められる場面も多いと思います。自分の枠を広げていくために、どんなことを意識されていますか?

窪塚:理屈でも練習でもなく、気合で超えるみたいな瞬間は芝居の場だけでなくあると思っていて。だから、ぶち壊すみたいなことが必要なときもありますよね。映画の場合は、カチンコが鳴ってから終わるまでの間は、ある意味、今いるこの世界じゃない。そこで、静かな芝居であっても激しい芝居であっても、その空間を生きていることが、次元を超えにいっている、という感覚はあります。

松田:最近思ったのは、自分の思い描いた生き方とか、理想の自分だったりを持つことが、若いときはもちろん原動力になると思うんだけど、時間が経つと逆にだんだん足枷になってくるというか。却って窮屈になってしまうんじゃないかって思って。上手くいかないことはそんなに悪いことじゃない。普通なんだって思えれば、経験を活かして、自由に変化できるし、失敗したとしてもそこまで絶望することもない。些細なことでも上手くいったときにもっと感謝できるようになるんじゃないかなって。

—松田さんは26年、窪塚さんは30年の俳優生活を送られていますが、これまで続けてこられた理由はなぜだと思いますか?

窪塚:俺はこの仕事が好きだから。これをちゃんと仕事だと思っているのかもわからないけど、趣味を仕事にできたから。

松田:縁ですかね、俺はもともと役者になったのは親父の影響だったし。自発的に何かを立ち上げたり、映画やりたいからってプロデューサーや監督をやったこともないから。俺のこう思ったりそう思ったりの人生の中のタイミングで芝居させてもらって、目に見えない縁を感じてきたなって。

窪塚:長期で休んだこともある?途絶えずに仕事しているイメージあるけど。

松田:そんなことないよ。特に何か選んだりしているわけでもないし。たくさん休んで英気を養えてます。

窪塚:導かれてるね。

松田:ただ周りを見ると、3年後の予定まで決まってるって聞いたりして、「俺大丈夫かな?」ってよく不安にはなったりしてる。みんなほんとに働いてるなって。

窪塚:ね。俺は今年1本だっけ?1本もやってないんだっけ?

松田:それも忘れちゃってるじゃん(笑)。

窪塚:俺も龍平が言ったみたいに縁が強いと思ってるから。オーディションを受けたりはするけど、営業して取りにいったりはしないし、来たものをやるかやらないかを判断するだけなので、来なければその時間は空くし、そこにまた違う仕事や趣味を入れて埋めていく。なぜか休めないんだよね。

松田:窪塚君はいろいろやってるもんね。服だったり、陶芸やったり。やっぱり、真っ新なところからものを作ったり考えたりすることって、脳みそ刺激されるよね。俺は……脳みそ40%くらいしか稼働してないや。

窪塚:それは人間みんなそうなんじゃない? でも、その余白から出てくる龍平の空気感みたいなものは、確実にあるんだろうな。