IDEA BOOKS
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IDEA BOOKS(アイディア・ブックス)創設者Angela Hill(アンジェラ・ヒル)インタビュー

Photo by Hiroki Watanabe

IDEA BOOKS

Photographer: Hiroki Watanabe
Writer: Arisa Shirota

Portraits/

ロンドンを拠点にしたブックストア/出版社として、ヴィンテージの本の販売からアーティストとコラボレーションして制作される本の出版、更にはTシャツやバッグなどファッションアイテムのデザインまで手がける IDEA BOOKS (アイディア・ブックス)。Dover Street Market Ginza (ドーバー ストリート マーケット ギンザ) 5Fに新たなスペースを設け、来日を果たした IDEA BOOKS の創設者のひとり Angela Hill (アンジェラ・ヒル) に話を聞いた。

IDEA BOOKS(アイディア・ブックス)創設者Angela Hill(アンジェラ・ヒル)インタビュー

「WINONA」のアルファベットがプリントされた白いTシャツをご存知だろうか。1990年代に活躍した女優 Winona Ryder (ウィノナ・ライダー) の名前を取り、一目見かけただけで90年代にノスタルジアを感じてしまうようなそのアイコニックなアイテムは、流行に敏感なティーンから Justin Bieber (ジャスティン・ビーバー) に至るまで、世界中のファッションラバーにこぞって着用されている。

そのTシャツの発売元が、IDEA BOOKS (アイディア・ブックス)。ロンドンを拠点にしたブックストア/出版社として、ヴィンテージの本の販売からアーティストとコラボレーションして制作される本の出版、更にはTシャツやバッグなどファッションアイテムのデザインまで手がけている。数十年前に発刊され、時代の流れと共に注目を浴びることが少なくなった素晴らしい作品や、まだ多くの人に知られていない個性際立つ才能が、Angela Hill (アンジェラ・ヒル) と David Owen (デイビッド・オーウェン) によって世に送り出されている。

これまでにIDEAは出版社として、Alasdair McLellan (アラスデア・マクレラン) による『THE PALACE BOOK』や、Juergen Teller (ヨーガン・テラー) による『Kanye, Juergen &Kim』など著名なファトグラファーの作品集や、Vetements (ヴェトモン)、Gucci (グッチ)、 Gosha Rubchinskiy (ゴーシャラブチンスキー) などファッションブランドの写真集をリリースしてきた。作者の情熱を帯びた作品を発表し、見る者の感性を刺激し続けるプロジェクトの創設者、Angelaにファッションと本にかける情熱について話を聞いた。

Photo by Hiroki Watanabe

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―IDEA BOOKS は、ユニークな本を求めてファッションデザイナーやフォトグラファーが世界中から訪れるブックストアだと聞きました。ご自身にファッションのバックグラウンドはありますか?

私が20代だった頃、ファッションエディターのアシスタントとして働いていたんです。1980年後半から1990年代前半にかけて、たくさんの素敵なプロジェクトに関わらせてもらいました。アシスタントとして立ち会った撮影で、ある女性のファトグラファーに憧れたことがきっかけで、その後はフォトグラファーとして活動し始め、90年代に『i-D (アイディー)』や『PURPLE (パープル)』などのファッション誌で作品を発表していました。本が大好きだった私にとって、イメージを1から作ることができる仕事は、とてもやりがいのあるものでしたね。

―フォトグラファーとして活動していた状況から、どのような流れで IDEA BOOKS を立ち上げることになったのですか?

本を眺めることは私にとって子供の頃からの日常であり、パッションでした。もちろん私の家にはたくさんの本が積み上げられていたわけです。ある日、ルームメイトの友達だった、colette (コレット) というパリにあるブティックのオーナーが家に遊びにきたときに、私の本のコレクションを発見するなり「この本、私に売って欲しい!」と。私の答えは「ノー」(笑)。本が好きすぎたんです。彼女には、欲しがっていた本のコピーを探してあげました。それからパリを訪れる用事があるたびにバッグいっぱいの本を持って行って、そのブティックに卸していました。Dover Street Market がロンドンにオープンした時、私の集めた本をそこで売ることを提案してくれたのも彼女でしたね。私一人ではだんだんと忙しくなってきたときに、Andrew が加わり、今の IDEA があるわけです。

―セカンドハンドのブックストアとして始まった IDEA ですが、現在ではアーティストやブランドとコラボレーションして出版する本も世界的に人気があります。出版を始めるきっかけは何だったのですか?

ロンドンの Dover Street Market で、あるトラックパンツを見つけてしまったんです。地下のフロアのとても狭いスペースに展開されていたブランドのものだったのですが、それに心を奪われてしまって。それは、その後ファッション界に旋風を巻き起こすことになる Gosha Rubchinskiy の一番最初のコレクションのものでした。まだ誰もゴーシャを知らない頃で、彼のスペースにあった洋服は、ほんの何枚かのみ。そこで彼の作った ZINE を見つけたんですが、それが面白かった。私はどうしても本人に会いたくなって、友人に紹介してもらいました。彼に「あなたの創作についての本を出版させて欲しい」と伝えたら、彼は「オーケー」って。その本が IDEA として出版した一番最初の作品になったわけです。100部しか刷っていなくて、半日で飛ぶように売り切れてしまいました。となってはかなりレア。もっと刷っておけば良かったな(笑)。それから出版も始めましたね。

―IDEA は、オンラインとアポイント制のストアで展開されていて、実際の店舗は構えていませんが、それはなぜですか?

クリエイティブになれるエネルギーを残しておきたいので、長期的に店舗を持つことはあまり考えていません。ただ、ポップアップストアという形態は好きです。一度2009年の夏にロンドンで3ヶ月だけ開いたポップアップは、良い思い出になっています。店舗をアロマの匂いでいっぱいにして、出品する本のコンディションやバリエーションにも気を使い、自分が心から足を運びたいと思える空間をデザインしました。皆、店舗に入ると「うーん。良い匂い」って。そして、今まで見たことなかったような特別な本を彼らに紹介するんです。もし本を買わずに帰ったとしても、彼らのマインドは店舗に入る前とは違っているはずですよね。店舗に滞在した30分がなかったら考えなかったことも、考えているかも。意味のある経験をしてもらうこと。それがやりたかったんです。そのポップアップで出会った人たちとは、今でも繫がっています。

Photo by Hiroki Watanabe

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―読者のマインドを変え、インスピレーションを与えてくれる特別な本のことを、”SUPER BOOK”として紹介していますよね。

SUPER BOOK は、他ではどこにも売っていないけれど、たくさんの人が欲しがるような本のこと。そういった良い本には、人生に普遍的な影響を与えるパワーがあるんです。

―あなたにとっての SUPER BOOK を教えてください。

最近買ったとても古い PRADA (プラダ) のカタログは、間違いなく SUPER でした!80年代後半の PRADA のコレクションの洋服のデザインや生地についての本です。その本のおかげで、そのコレクションを見て感動した瞬間を思い出すことができました。当時はまだ見たこともなかったような質感のシルクの美しさや、洋服のクオリティへの驚きなど、記憶が蘇ってきたんです。本を読むことで、まるで時間を旅しているような感覚になりました。

―ウェブサイトやインスタグラムでは、1冊ずつ丁寧なコメントが添えられていて、それぞれの本の魅力がわかりやすく伝わります。

その本の価値をわかってもらえるような説明文を添えるようにしています。例えば『The Picture Newspaper』という出版物があります。それは、1970年代にニューヨークのコーヒーショップで無料配布されていたものでした。無料の配布物だからか、コーヒーのお供に読まれた後、そのほとんどは捨てられていたようなのです。でも、内容は素晴らしいもので、その本を見せたアートディレクターやデザイナーの誰もが絶賛するのです。私たちはそれを商品として売っているわけですが、無料で配布されていたことでリスペクトされなかったものでも、説明を加えて価格をつけることで本当の価値に気づいてもらえることもあると思います。

―現在は、インターネットで様々な画像や文章を見ることができ、紙媒体の価値が問われている時代であると思います。今の時代に紙媒体を扱うことの意義に関して、どのように考えていますか?

インターネットに載っていることが全てではありません。私たちの扱っているうち99.9%の本の内容はオンラインには存在しない。だから、実際に本を見てもらわないと、その素晴らしい写真や、イラストや、文章が存在することさえわからないままなのです。その本の存在を知らなければ、検索することもできませんよね。1970年代、80年代に出版された多くの素晴らしい本の内容は、スキャンされた画像としてさえオンラインでは発見できないものなんです。

Photo by Hiroki Watanabe

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―IDEA BOOKS として本を通してインスピレーションを提供してきた今までで、一番思い出に残っていることは何ですか?

Kanye West (カニエ・ウエスト) がオフィスを訪ねてくれたんです!実は私は彼の顔を知らなかったんですけど、私の娘たちが狂ったように喜んでしまって(笑)。それと、Calvin Klein (カルバン・クライン) やKim Jones (キム・ジョーンズ) もオフィスに遊びに来てくれました。有名な人たちが遊びに来てくれるのはいつもとてもエキサイティングですね。ファッション業界で働く人たちはファッションの本をあまり買わないのも面白いところ。彼らは、インテリアやカウンターカルチャーをはじめ、革新的で急進的な内容の本を買っていきますね。

―IDEA BOOKS を始めた頃と比べて、よく売れる本のトレンドはどう変わりましたか?

1つ言えることは、最近では皆マルジェラについての本が大好きですね。デザイナーが買う本は、以前と比べてあまり変わっていませんが、皆似たようなものを欲しがっている印象です。70年代、80年代の本は常に彼らに人気があります。それと、以前と比べると私たちが扱う本が少し変わりました。値段の高い本も買えるようになって、よりレアな本も扱うようになりましたね。私自身、ジャンルや価格帯など、色々な種類の本が置いてある本屋が好きなので、バリエーションの幅が理想に近づきつつあります。

―ご自身のお気に入りの本を教えていただけますか?

Wim Wenders (ヴィム・ヴェンダース) 監督の『Paris Texas』という映画の本。それと、ほとんど誰もその存在を知らない COMME des GARÇONS (コム デ ギャルソン) の1970年代から80年代の作品についての本。”Bland”でないものがクールだと思います。Bland とは、フラットで、退屈で、まるでルーティーンの生活のような様子のこと。エッジの効いた「違い」のあるものは、いつだって魅力的。

ーこれから IDEA として何か計画していることはありますか?

2019年はたくさん出版しますよ!Willy Vanderperre (ウィリー・ヴァンダピエール) と3冊。Harley Weir (ハーリー・ウィアー) とも1冊。それと、メイクアップアーティストの Thomas De Kluyver (トーマス・デ・クルイヴァー) とメイクアップについての今までにないような本を。それから、ビーガンスニーカーを提案した革新的なデザイナー Mats Rombaut (マッツ・ロンバート) とのコラボレーションも。楽しみにしていてください!

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