Stella McCartney
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意思を貫き、闘うこと。ステラ・マッカートニーの信念

Stella McCartney

interview & text: sakiko fukuhara

Portraits/

セクシーでファッショナブル、そしてサステナブルであること。クリエイティブディレクター、Stella McCartney (ステラ・マッカートニー) は闘っている。自分が信じる「正しさ」を貫くために。

日本限定カラーの新作スニーカー「Rasant (ラサント)」のローンチのため、2年ぶりの来日を果たした彼女。文化服装学院で行われた「三越伊勢丹ミライアワード」関連のトークイベントにも登壇し、環境大臣の浅尾慶一郎、伊勢丹新宿本店長の近藤詔太とともに、「ファッションとサステナビリティの未来」についてトークが交わされた。

「ファッション業界を目指す若者たちがどんな視野をもつべきか?」。文化服装学院の学生に尋ねたれたステラはこう答える。「いろんなことに興味を持ち、自分で探してみてください。そこには現実を変えるものがきっとあるはず。変化のために毎日闘い、新しい方法をみつけ、物をつくることに責任をもつ。それが大切です」。

意思を貫き、闘うこと。ステラ・マッカートニーの信念

「ブランドを立ち上げた1日目から、地球とのハーモニーを築くことを考えてきた」と話すステラ・マッカートニー。クルエルティフリーのヴィーガン素材を使用した「Rasant」は、初めてのランウェイ ショーでスタイリングに取り入れた adidas (アディダス) の「Monza (モンツァ)」に着想を得て作られた。彼女が見据える、ファッションとスポーツの関係性、サステナビリティの現在とは? 一人の女性として、自分が信じた道を全うする彼女の言葉は、いつでも私たちの背中を力強く後押ししてくれる。

—2001年に行われた初めてのランウェイ ショーについて、今振り返ると? また adidas とのコラボレーションがスタートしたきっかけについて教えてください。

デビュー当時の自分を振り返ると、ファッション・スニーカーというものにあまり興味がなかったんです。もっとオーセンティックでスポーツに特化したスニーカーが好きだった。そこで「Monza」を取り入れたのですが、当時はとてもカッティングエッジな試みでした。ランウェイでスニーカーを履かせるなんて!? っていう風にね。そこからですね。パフォーマンスを向上させてくれる女性用のスポーツウェアがないと気づいたのは。男性向けのものが多く、レディスというだけでなぜかピンク色だったり、技術もイノベージョンも感じないアイテムが多かった。そんな状況を変えたいという思いから、adidas とのコラボレーション「adidas by Stella McCartney (アディダス バイ ステラマッカートニー)」が2004年にスタートしたんです。長期に渡る取り組みを経て、今回発表した「Rasant」はシューレースをカスケード状に重ね、かかとにフリンジをあしらい、よりファッショナブルに仕上げました。

イノベーションに富んだ材料を使っていくことはもちろん重要です。スポーツの世界ではそれぞれのパフォーマンスを向上させ、トップを目指すものですよね。ファッションも同じで、私もさまざまな境界線を超え、チャレンジを続けながらトップでいなければならないと思っています。

—日常生活の中では、どのようにスポーツと向き合っていらっしゃいますか?

時間を見つけることがとにかく大変だけど、できるだけアクティブでいることを心がけています。ランニングやヨガをしたり、ジムで泳いだり。エクセサイズとは言えないかもですが (笑)、時には馬に乗ったりもしますよ!

—ブランド設立以来、さまざまな素材の革新に取り組んでいらっしゃいますが、今いちばん関心をもち、可能性を感じている技術や技法について教えてください。

ヴーヴ クリコとの共同プロジェクトで開発したブドウ由来のヴィーガン素材ですね。接着剤にも動物由来の材料はまったく使っていません。無限に再生可能な菌糸体 (マイセリウム) から作られるヴィーガン素材「Mylo™ (マイロ™)」にも注目しています。

2024年サマー コレクションのクロシェニットは海藻をベースにしたファブリックで、2025年サマー コレクションで発表したクラウドニットは、ペットボトルやキャップから再生されたリサイクル可能なナイロン糸で紡がれたものなんです。

©︎ Stella McCartney

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—トークイベントでの「何も作らないという選択肢がハッピーとは限らない。何もやらないより、何かをやってみることが大切」という言葉も印象的でした。ファッション業界で求められる新しさとサステナビリティのバランスについて、発表されたばかりの2025年ウィンター コレクションでは、どのように意識されましたか?

「Laptop to Lapdance」というシーズンテーマのもと、日々一生懸命に働く女性に向けたコレクションです。パワフルな側面とセクシーな側面を楽しむ女性をイメージしてね。そしてパイソン柄を取り入れることで、エキゾチックスキンについて考える機会を与えたかった。さまざまなヘビが獲られ、殺されている現実を知ることはとても大切です。ファッションデザイナーは“クールであること”を大切にしがちな性分ですが、動物を殺すことはクールでもないし、ファッショナブルでもない。私はコレクションを通して、セクシーで美しく、そしてサステナブルな方法があることを伝えていきたい。そのために闘っているんです。

—自分が信じる正しさを貫くために。日本の女性たちに向けてアドバイスがあれば教えてください。

両親、兄妹、友人と、カッコ良くパワフルな人たちに囲まれて育った私はとてもラッキー。私には4人の子供がいますが、「ただ可愛いドレスを作ってる人」には全くなりたくない。ものすごく頑張って仕事をしているし、自分のブランドを立ち上げて、それは100%自分のもの。動物を殺していないし、未来のために地球も殺していない。私が世界からいなくなった後も、こんなかっこいい人がいたんだって思ってもらえるように、歴史を変えていきたいと思っています。私は今、自分の立場が特権であり、何かをできる立場にあることを知っています。だからこそ目的に向かって闘っているんです。

さぁ、皆さんもやってみてください。たとえば、ジャーナリストのあなたがこのストーリーについて書けば、記事を読んだ人は学びが得られる。それが重要なことなんです。

—自分の意思で身につけるものを選ぶこと。それがラグジュアリーへの第一歩につながると思います。あなたが考える“ラグジュアリー”とは?

私にとってのラグジュアリーは、こうやって皆さんと重要なことについて話せること。“女性”であることもラグジュアリーなことですよね。現代社会の中でビジネスをし、企業の中で自分のストーリーを語り、男性に付き添われなくても、一人で外を歩けること。そう、私たちはとても自由なんです。

—ファッションデザイナーとして、起業家として、母親として、いくつもの役割を全うする中で、人生をよりよく楽しむこと、また長い人生の中で自分をアップデートしてくこと、そして忙しい毎日の中で感じる、小さな喜びについて教えてください。

私は多くの責任がある立場にいますし、自分のビジネスを動かしていく上でプレッシャーも感じてきました。いつも仕事をして、いつも闘っていると、やっぱり疲れますよね。子供が4人もいるし、動物も助けなければいけないし、やるべきことが無数にある。私だって、考えすぎたり、心配になったりする時もあるんです。そんな時は少しリラックスして、私は夢だったことを実践しているんだって思い返すようにしています。時にそれを忘れてしまうこともあるけれど、自分がやりたかったことを実現できているのは素晴らしいこと。馬に乗ったり、友人や子供と過ごしたり、自分と向き合う時間を大切にしていますね。

—ファッションは“実際に身につけるもの”として、私たちのいちばん身近にあるものだと思います。ファッションを入口として、サステナビリティをはじめとした理念を多くの人々に伝え、実践されてきたかと思うのですが、今あらためて考える“ファッション”の役割とは?

私にとってのファッションは、100万通りの意味をもっているんです。ブランドをスタートした当初は、女性の服をつくる女性デザイナーはまだそんなにいなかったんですね。ただ、私は女性として、どういう時にどういう服を着られたら気分が良く暮らせるかを知っている。自分を愛して、気持ちよく、楽にできる服を作ることは、デザイナーとしての私の仕事でもありますが、Stella McCartney のバッグを選び手にしていたら、地球のことを考えているという意思表明もできるんです。“スタイル”に留まらず、ファッションを通して自分の信念を倫理的に社会に伝えることができる。それができる唯一のファッションブランドが、Stella McCartney だと思っています。