ルメールを着る人。 vol.1 横尾忠則
lemaire
with tadanori yokoo
photography: masahiro sambe
styling, text & edit: manaha hosoda
袖を通せば、すっと肌になじむ。そうしていつの間にか、生活の一部に溶け込んでいく LEMAIRE (ルメール) の服。着る人のことを一番に考えた服づくりだからこそ、それぞれの個性が服の表情を変化させる。
今回お届するのは、性別も年齢も異なる日本のクリエイター4名がまとう LEMAIRE。彼らが日常を過ごしている場所で、気に入ったルックを選んでもらった。
第1回に登場するのは、言わずもがな日本の現代美術界の巨匠、横尾忠則。85歳を迎えてもなお、毎日キャンバスに向き合い続ける同氏のアトリエにお邪魔した。
ルメールを着る人。 vol.1 横尾忠則
閑静な住宅街にひっそりと佇むアトリエには、秋の昼下がりらしい柔らかな日差しが降り注ぐ。制作中の作品の傍で、LEMAIRE の洋服を手にとりながら、「触り心地が気持ちいいですね。肌の一部みたいで」と横尾氏。着ていることを忘れてしまいそうなほど軽やかなドライシルク製のシャツには、ヤマウズラの毛並みからインスピレーションを受けたというプリントが光を反射して絶妙な色彩を浮かび上がらせる。同系色の「パジャマ パンツ」をあわせて、リラックスしたムードながらも、襟元のタイを結んでさりげなくドレッシーに。肩の力が抜けたセットアップのスタイルは、ユニセックスで楽しむことができる。
──以前、インタビューのためアトリエにお邪魔させていただいてから、3年が経ちました。最近では東京都現代美術館(以後、都現美)にて大型個展「GENKYO 横尾忠則 原郷から幻境へ、そして現況は?」が開催されるなど、その後のご活躍も拝見しておりました。
都現美の他にも、21_21 DESIGN SIGHT (21_21 デザイン サイト)での展示、丸の内ビルディングの巨大壁画、渋谷 PARCO (パルコ) では糸井(重里)君による「YOKOO LIFE」展と、4つのプロジェクトがあったんです。実はもっとあったんだけど……そのために僕が走り回るってことはなかった。ただ、なんとなく気忙しい感じはあったかな。その間もずっと絵は描いていたね。
──展覧会のために作品を制作されることもあるんですか?
展覧会のためっていうのはないかな。日頃から描いているものを、展覧会の話があったときに展示する。「GENKYO」展では、今年に入ってから2、3ヶ月の間に描いた新作を30点ほど展示したけど、今もその「寒山拾得」シリーズを引き続き描いてるんです。題材にはあまり関心がなくて、今はたまたま「寒山拾得」が面白いからやってるけど、そのうちすぐに飽きるだろうから、また題材が変わったり、違う表現になったりするんじゃないかな。あんまり後先考えてやらないから、何がいつ起こるかは自分でもわからない。それで言うと、「Y字路」のシリーズは長く続いているけれど、それだってここ4、5年は描いてないかな。
──以前お話を伺った際もおっしゃられてましたけど、本当に毎日を絵を描いて過ごされてるんですね。
何もしないことが一番いいけどねぇ(笑)。歳をとるとみんな1日が短いっていうけど、僕はその反対で、1日がなかなか終わらない。早く終わればいいなって思ってるのに(笑)。僕が思うに、欲望と時間は比例していて、強い欲望を持っていると、時間も短く感じるわけ。でも、歳をとると、何が欲しい、こうなりたいっていうことに興味がなくなるから、時間も長くなる。それはすごくいいことだと、自分では思っていて、若い頃からそうなればもっと面白かったんじゃないかとも思ったりするんだけど。きっとそういう気持ちも今じゃないと気づけなかったんじゃないかな。
──何が横尾さんに絵を描かせるんでしょうか。
自分のためっていうより、絵のために描いてるんだよね。絵が描いてくれって言うから、じゃあ描いてあげましょうみたいな感じで。絵を描くのもそろそろ飽きちゃって、ほとんどいやいや(笑)。でもやめるわけにはいかないよね。生活の一部みたいになってるから。ご飯を食べることとあまり変わらない。コロナ以降、1日中アトリエにいたもんだから、足腰がだんだん弱ってきてしまった。かといって、運動とか散歩は面倒くさくてしないよ。そんなことしてくたびれちゃうと、絵が描けなくなっちゃうからね。僕にとっては、絵自体が運動。描いている時は、頭の中が空っぽで、あまり考えない。身体的なもので、手が勝手に動いて、それに身を任せているだけなんだよ。