Mario Arena
Mario Arena

JOSEPH、マリオ・アリーナが拓く“メゾン”への新章

Mario Arena

photography: john clayton lee
interview & text: mami osugi

Portraits/

1979年、モロッコ・カサブランカ出身の Joseph Ettedgui (ジョゼフ・エテッドギー) によってロンドンで創業された JOSEPH (ジョゼフ)。ブティックとしてスタートし、Alaïa (アライア) や Yohji Yamamoto (ヨウジヤマモト)、John Galliano (ジョン ガリアーノ) といった当時の新進デザイナーをいち早く世に送り出し、ファッション愛好家にとっての聖地となった。そこから必需品のプレタポルテラインを立ち上げ、完璧なフィット感のトラウザー、上質なニット、洗練されたテーラリングで確固たる支持を集めた。

そして今、その歴史が静かに転換点を迎えている。2024年8月、新たなクリエイティブディレクターとして Mario Arena (マリオ・アリーナ) が就任した。オーストラリア出身の彼は、Yves Saint Laurent (イヴ・サンローラン) 本人のもとでキャリアをスタートし、CELINE (セリーヌ)、Nanushka (ナヌーシュカ)、JW Anderson (ジェイダブリューアンダーソン) と名だたるブランドを経て JOSEPH のクリエイティブを担うことに。そして2025年10月、待望のデビュー作となる2026年春夏コレクションが店頭に並び始めた。新たな章を刻み始めた新生JOSEPH。その未来を、Arena 自身はどのように描いているのだろうか。

JOSEPH、マリオ・アリーナが拓く“メゾン”への新章

—日本を訪れるのは何度目ですか?

1997年に初めて訪れて以来、何度も来ています。今回は7年ぶりでしたが、やはり日本は特別な国です。文化も人々の着こなしもファッションのレベルも高く、まさに“次の次元”にあると感じます。ここは「次に何が来るのか」「新しいものは何か」を見るには最適な場所ですね。

—デザイナーになったきっかけを教えてください。

8歳の頃、母から裁縫を教わったことがすべての始まりでした。テレビでファッションショーを観てはスケッチを描く、そんな子どもだったんです。オーストラリアで育ちましたが、ファッションを本格的に学ぶためにフランスへ渡り、パリ・アメリカン・アカデミーでデザインを学びました。その後、Yves Saint Laurent でキャリアをスタートさせ、Moschino (モスキーノ) などで経験を積みました。2009年にはイギリスで自身のデザイン事務所を立ち上げ、さまざまなクライアントと仕事をする一方で、自分のブランド ENLIST (エンリスト) も立ち上げました。その後、Christopher Kane (クリストファー・ケイン) や Nanushka、JW Anderson を経て、現在 JOSEPH にいます。

—名だたるブランドで経験を経て、どのようなことを学びましたか?

どこも全く異なる環境でしたが、特に90年代初頭にキャリアをスタートできたのは幸運でした。Yves Saint Laurent ではムッシュ・サンローラン本人のもとで働けたことが大きな財産です。彼のクリエイティビティは圧倒的で、今の仕事の多くはあの経験から来ています。当時のファッションは壮大で華やかでした。その影響は今も私のコレクションに色濃く表れています。

—JOSEPH の創業者である Joseph Ettedgui について、どのような印象をお持ちですか?

直接お会いしたことはありませんが、90年代の JOSEPH はファッション界において非常に重要な存在でした。彼は“新しい着こなし”を次々と提案し、私自身も大きな影響を受けています。自分のブランドを手がけていた頃には、「昔のJOSEPHみたい」と言われたこともあるほどです(笑)。スタイルはエフォートレスでありながらタイムレス。すべてが緻密にキュレーションされていて、その本質はシンプルさにありました。服をさっと羽織り、ジュエリーを重ねるだけで気分が高まる。それはまさに、私が今、目指している方向性とも重なっています。

—JOSEPH は数々の新しいスタイルを紹介して、“雑誌”のような店だったと聞いたことがあります。

そうですね。いち早くイギリスで Prada (プラダ) や Kenzo (ケンゾー)、Alaïa を紹介し、John Galliano も初期から取り扱っていました。創業者のご子息にお会いしましたが、Joseph Ettedgui は先見の目を持った人だったと話していました。

—最初のコレクションは、創業者の出身地であるモロッコからインスピレーションを得たそうですね。

はい。個人的にもマラケシュは大好きな街なんです。特に印象的なのは、光が一日を通して壁や砂の色を変える瞬間。その色彩や質感、豊かな文化をカラーパレットに反映しています。先日も2026年春夏のキャンペーンをモロッコで撮影し、サハラ砂漠の端で、午後6時の光が砂と空をピンクに染める瞬間を捉えました。

—JOSEPH はテーラリングやトラウザー、ニット、コートで知られていますが、これらのシグネチャーをアップデートする際に最も重視していることは?

JOSEPH らしさを大切にしつつ、新鮮な解釈を加えました。コートはコクーンシルエットで、まるで大きな毛布に包まれるような温かさを感じられます。背中には“フィン”という深いひだを入れ、動くと美しい立体感が生まれます。テーラリングはリラックス感を持たせつつ、肩は少し広めに設計しました。トラウザーは JOSEPH の象徴的アイテム。昔の JOSEPH の服を今も愛用している人や、“お母さんからのお下がりを着ている”という人もいて、ブランドへの愛着を強く感じます。いずれも贅沢な印象に仕上げることで、着ること自体が特別な体験になるよう意識しています。

—Mario さんが作られた新アイコンの“Bean(ビーン)”について教えてください。

遠目からでも JOSEPH とわかるシグネチャーを作りたかったんです。最初はコーヒー豆に似ていましたが、真ん中にくぼみを入れた現在の形になりました。ボタンやジッパープルなどさまざまなアイテムに使用しています。面白いのが、手に取った人が自然と中央のくぼみに触れること。指で押しているとなんとなく落ち着く感覚があるんです。私もキーホルダーに付けてよく触っています(笑)。

—JOSEPH が来年2月にロンドン・ファッション・ウィークに復帰するそうですね。

JOSEPHを再びファッションの最前線に戻す絶好の機会だと思っています。ロンドン・ファッション・ウィークで発表することで、JOSEPH が英国ブランドであることを改めて示したいですね。細部にまでこだわったクラフツマンシップを追求し、これまでにない挑戦的なコレクションを発表します。先日、業界関係者にショーピースを見せた際、「こんな JOSEPH は見たことがない」と驚いてもらえました。会場も現在探しているところです。

—今後の目標は?

JOSEPH を“メゾン”として確立させたいと思っています。ジュエリーやバッグ、靴、スカーフなど、幅広いアイテムを提案し、世界を作り上げていきます。直近では、アイコンの”Bean”モチーフをお香立てにしました。次はボウルや花瓶なども考えています。CEO の Barbara Campos (バルバラ・カンポス) には「もっとチャレンジさせてください」といつも伝えています。